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頼朝好き・北条数寄FanSite「あづまがたり」

いもうと(頼朝と政子)

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リビドーロゼ

 

 

「兄さま、行かないで」

幼い妹が見上げる。

母・由良御前が亡くなり、まだ喪もあけず
父・源義朝は愛妾・常盤御前の元で、足も遠く
我ら兄弟三人は心細く生きていた。

そこへ初陣の知らせが届く。
妹は首を横に振る。

「兄さま、行かないで」

自分は笑って頷いて見せる。

「大丈夫。すぐに戻るから」

それから弟、五郎の肩に手を置いた。
「五郎、坊門姫のことは任せたぞ」
五郎は唇を噛みしめて、力強く頷いた。

でも五郎はまだ元服前。
戦で手柄を立て、戻って来たら父に頼もう。
五郎にも立派な元服式を。
そして、それなりの官位を賜われるよう願おう。
母はいないけれど、
いや、母がいないからだ。

そうして兄弟力を合わせて
坊門姫を守って暮らすのだ。

なのに、父は敗けた。
京から落ち延びて
落ち延びようとして家臣・長田忠致に殺された。
母違いの長兄・悪源太義平は京に潜入しようとして殺された。
母違いの次兄・松田冠者朝長はひどい怪我をして死んだ。
雪の中遅れた自分は助かって
でも捕われた。

京に戻った自分は聞く。
伯父・藤原範忠が裏切って五郎が捕われた。
坊門姫は行方が知れない。

まだ幼い妹。
『源氏物語』が好きな妹。

 

いもうと

 

ジージージャー……
ミーンミーンビー……

降り注ぐ眩しい陽の光
煩い蝉の声

同じように鳴き喚く蝉の声であっても
京の都の蝉はもう少し風情があった。
声がまるで違う。
なんなんだ、この金切り声は。

頼朝は起き上がって両手で耳を塞いだ。
だがいくら塞いでも通り抜けてくるこの酷い雑音。

「ああ、くそ、うるさい……」
汚い言葉を吐いてしまう。

京の蝉はもっと
シャワシャワシャワ……
と数種の音を重ね合わせたような
深みのある鳴き方をしていたのに。

伊豆、韮山近くの北条の地。
遠流の罪を言い渡された頼朝は
預かり役となった北条時政の元にいた。

今年の夏はそれほど暑くないのか
それとも毎年このようなものなのか
伊豆での初めての夏は快適だった。
京と同じように山に囲まれているはずなのに
あのムゥとした熱気がない。

それはいい。
それはいいんだが、とにかく煩いのだ。

昼は蝉。
そして夜は蛙。

『石走る瀧もとどろに鳴く蝉の、声をし聞けば都し思ほゆ』
万葉集にそう歌ったのは誰だったか。

「その気持ち、よく分かるぞ」
なんて……なんって田舎に来てしまったんだ。
そう嘆く以外にない、やるせない気持ち。

はぁ、と溜め息をついて
まだ眠くて重い頭を振ったら

「しゅけどの」

目の前に少女がいた。

「おはよう」

にぱっと笑い
それから、ほんの少し恥ずかしげに口をつぐむ。

妹よりも僅か幼い。
まだ四つの少女。

「おはよう、政子」

取り繕っていつものように品よく挨拶を返し
少女の頭の上に手を置く。

「今日は何をして遊びましょうか」
首を傾げる少女。
「何でも」
にっこりと微笑む自分。

どうせ流人の身。
読経して書を読んで和歌を作って。
そのくらいしかすることがない。

武芸の稽古をしたいが
京に報告でもされたら一大事だし。

京にいた時は忙しくて
妹と遊んでやることなど出来なかった。

ひいな遊び
絵合わせ
貝覆い
双六
和歌に囲碁

今ならたっぷり遊んでやれるのに
坊門姫はどこにいるんだろう?

そんな感慨にふけった頼朝の前に並べられたのは
竹馬に小弓に石投。

「どれがいい?」
にっこり笑う少女に頬を引き攣らせる。
人形遊びという選択肢はないのか?

目をキラキラとさせて勇ましく微笑む少女。
そうだ、ここは坂東の入り口。
土豪の姫は遊びからして違うのだ。

「……じゃあ、小弓でもしようか」
「はい!」

まぁ、それでも子供の真似事。
それも女の子のやることだ。
可愛らしい女武者に付き合ってやろうか。

……が、甘かった。

ヒュッ!
ガガ……ッ!

おいおいおいおい。
頼朝は頬を引き攣らせる。

先端を尖らせた矢に板の的。
弓こそ子供でも引ける小振りの柔らかいものだが
その威力は十分に人を殺傷できる。

本物じゃないか。
どこが小弓だよ。

おまけに……

「落ち武者を発見したぞ!」
「捕らえろ! 相国様の前に召し出すのだ!」
「やあぁぁぁ!」

北条の太郎、次郎、三郎。
悪ガキどもが乱入してきて、
勝手に勝負を挑まれる。

上にのしかかられ、
横から鎧通しで脅され
(だから、本物使うなって)
縄で縛り上げられた。

政子が助けにその父を呼んできてくれなかったら
危うく拷問されるところだった。

「あーあ、ひどい有り様ですな」
助け出してはくれたものの、
北条時政はニヤニヤと笑って頼朝を見やる。

時政は今二十三歳。頼朝の九つ上だ。
「すみませんね、あいつら力が有り余ってて」

口ではそう謝りながらも
その顔に殊勝な色はない。
次は自分でどうにかしろということだろう。

太郎十歳、次郎八歳、三郎六歳、そして政子四歳。
政子の下には二歳の姫。そしてまた妻室は出産を控えていた。

ん?
ふと気付く。

太郎は時政が十三歳の時の子か?
今の自分より年下じゃないか。

あーあ
俺だって、京にいれば
父が敗走しなければ、
今頃はどこかの姫の元に通ってただろうに。

「光る君さま、大丈夫?」
政子が横からそっと袖を引っ張り、頼朝を見上げる。

光る君さま?

聞き間違いかと一瞬黙ったら
時政がブッと噴き出した。

政子は「あ」と口を押さえた後
「父さんの馬鹿!」
と手にしていた矢を投げつけた。

時政はサッと避け、矢は真っ直ぐ的へ。
カン!
小気味いい音を立てて跳ねた。
政子は悔しそうな顔をすると部屋から走り去る。

おいおいおい。
だからその矢は本物なんだって。

だけれど時政は気にした風もなく

「佐殿」
声をかけて立ち上がる。

「三嶋大社に諸用あって出掛けるが、一緒されるか?
館の中ばかりでは息が詰まるだろう」

「行く!」
頼朝は大きく頷くと立ち上がった。

時政はよくこうやってあちこち連れだしてくれる。
気のいい長兄を思い出し頼朝の頬が緩む。
時政は頼朝にとって兄のような存在となりつつあった。

が、いそいそと準備する頼朝を見て
時政はニヤッと笑った。

「急ぎゆえ飛ばしますが、付いてこられるかな」

ちょっと意地悪なところも兄そっくりだ。
兄も東国三浦の出。東国の男の気質だろうか。
だが、馬では負けないぞ。
自分の馬は女院様より下賜された名馬なのだから。

「あたしも行く!」

先に部屋を飛び出したはずの政子が戻ってきていた。
政子は時政の前で上手にしなを作って甘えてみせる。

「父さま、お願い。いいでしょ?」

時政は首を横に振った。

「お前を外に連れて行って攫われたらなんとする。
お前は伊豆で一番の美人。いや、日ノ本一の美女なのだから」

娘を抱き上げ、頬ずり頬ずり相好を崩す時政を
頼朝は見ないふりをして賢明に口をつぐんだ。

親馬鹿だ。
それも程度のひどい親馬鹿。

「館で大人しく絵でも見ていなさい」

娘を下ろして元の顔に戻ると
時政は頼朝を振り返った。

「では佐殿、参ろうか」

それからぼそりと呟く。

「私が留守の間にも何かあってはいけないからな」

おいおいおい。
俺を連れて外に出るのはそういうわけかよ?

だぁれが十も下のちまじゃりに手を出すか。

その十五年後、
時政の留守中にしっかり手を出すことになるのだが
そんなことはつゆしらず。

頼朝は京から遠く離れた伊豆で
のんびりまったりと流人生活を楽しんでいた。

十も離れた可愛い妹分に翻弄されながら。

 

ひとこと

十の年齢差が萌える……

 

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