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とかじり小四郎 ―北条義時―19

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『 とかじり小四郎 ―北条義時― 』

 

 その後はめまぐるしく時が流れた。平清盛が死に、木曾義仲が起ち、西国は飢饉に襲われ、京は荒れた。

 逆に東国は好天に恵まれ、稲はよく育ち、頼朝の味方は日を追って増え、鎌倉の町は新しく美しく整えられた。

 

 小四郎は頼朝の一の側近として常に頼朝の側にあった。北条として時政の後ろにつくことも多くあったが、次第に江間殿としての立場が安定していき、時政の北条殿とは切り離されるようになっていた。

 頼朝は大蔵の新しい邸を「御所」と呼ばせ、自らのことは「御所様」と、政子のことは「御台所」と呼ばせた。そしてその御所において、京に倣った数多くの行事を取り入れ、また数多くの寺社を再建して保護した。

 見目美しい女官を競って御所に入れさせ、お手つきとした。

 だが、けっしてそれらの女官を妻として公の場に出すことはしなかった。政子が唯一絶対の妻だった。

 また、頼朝の嗜好は女ばかりではなかった。

 鎌倉入りから少しして小四郎は夜伽へ呼ばれた。伊豆の時にはありえないことだった。だが求められれば否やは言わなかった。そして小四郎は頼朝の寝所を護る家来衆の筆頭となる。弓矢に優れていないくせにと陰口を叩かれたが気にしなかった。

 

 ある日、ふと、馬屋を通った小四郎は、聞き覚えのある懐かしいいななきを聞く。

「小富士……」

 石橋山の敗戦時に別れた小四郎の愛馬・小富士がそこにいた。

「小富士? ああ、白藤のことですか? 畠山重忠殿の愛馬ですよ」

 馬番が告げたその名を聞いて小四郎は眉をそっと顰める。畠山重忠は頼朝が安房へと逃れた後に秩父一族と共に頼朝に帰参していた。遅参したが弓矢に優れ、実直で嘘のつけない性格が頼朝の気に入ったようで、先陣をつとめることも多く、小四郎とは別の意味での妬みも買っていた。

 重忠は馬気狂いとしても有名で、名馬収集に全財産を傾けているとまで言われていた。だから小四郎はホッと安堵の息を漏らした。杉山の麓で別れてより、盗賊に盗まれたか、または流れ矢が当たって怪我をしたのではないかとずっと心配だったのだ。畠山重忠の元にいたのなら、馬にとっては十二分に良い環境が与えられていたに相違なかった。

 

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