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とかじり小四郎 ―北条義時―27

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『 とかじり小四郎 ―北条義時― 』

 

 その日、八重は死に瀕していた。元々細かった線が更に細く消えるように透明になっていく。

 小四郎は金剛と共に八重の枕元にいた。金剛はクリクリと大きな瞳で母を見つめていた。泣くでもなく、ぐずるでもなく、ただ機嫌良く小四郎の膝にいた。

「有り難うございました」

 八重は伏せながら、そっと瞼を下ろして礼を言った。礼の意味がわからなくて小四郎は首を傾げる。

「金剛は義時殿が好きなのね」

 小四郎は金剛を抱き上げると八重の方へと差し出す。八重は手を伸ばして金剛の頬に触れた。

「金剛、お父上の義時殿をしっかりとお支えするのですよ」

 小四郎は驚いて八重を見る。

「どうかお願いです。この子はあなた様の元で育ててくださいませんか? ただ生きていればいい。僧にしてやって下さって構いませんから」

 小さく頷く。頼朝が何と言うかはわからないが、それは後の話だ。それを見て八重は安心したように微笑んだ。

「小四郎」

 懐かしい響きで呼ぶ。

「私、あなたの妻になれて良かったわ」

 幼い頃、出産の母と共に伊東に里帰りをした。子供達だけで祖父の家に行ったこともあった。敵となる前の伊東祐親はいつも笑顔で温かく孫達を迎えてくれた。

 お姉さんぶりたがる八重に遊ばれいじられ倒した。ままごとをし、雛遊びをし、絵巻を眺めて、石飛びをした。女ばかりの中で男は小四郎ただ一人だった。からかわれながらも楽しく過ごした。こんな風に関係がとかじるなんて一体誰が想像しただろうか。

 でも最後の最後まで、小四郎はままごと遊びの相手でしかなかったのだ。

 八重はその夜静かに息を引き取った。

 

「金剛は私が引き取ります」

 江間の邸を訪れた政子は静かな口調でそう言った。

「大丈夫よ、わかってるから」

 小四郎は黙ったまま政子を見つめる。金剛は政子の胸の中でにこにこと微笑んでいた。その顔を見て政子も目を細める。

「不思議な子ね。愛らしい子。私は……結局、八重様には敵わなかった」

 姉の言葉がよくわからず、小四郎はまた首を傾げる。

「頼朝殿がどうするかはまだわからない。僧にするのか自分の子だと明らかにするのか。でも私はこの子を守るわ。だって大好きな八重姉様のお子ですもの」

 そう笑う姉の顔は微笑んで優しげだったが、同時にひどく寂しげで小さく歪んでいた。思わず「三郎兄は?」と聞きそうになって、小四郎は慌てて小さく咳払いをした。

 姉は兄を愛していたはずだ。頼朝のことは利用しただけだと。それでもやはり妻だからだろうか?

 

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