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とかじり小四郎 ―北条義時―30

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『 とかじり小四郎 ―北条義時― 』

 

「やあ、済まなかったな」

 頼朝はにこりと微笑み、小四郎は首を横に振る。

 とかじっていた夫婦の関係が改善されたのだろう。御所内の空気が柔らかく変化したように思うのは気のせいではない。

『戦の時もそうでない時も、天の意思を読み、地の流れを感じ、人の思惑を先んじて封じろ。勝ちは自ら呼ぶもんだ。待ってておのれに都合良い気が流れてくれるもんか。呼び寄せるか自ら近付くんだ』

 石和五郎の言葉の意味はまだよくわからないし、天の意思など人の読めるものではないと思う。

 でも、人も物も気を発していて、それらが互いに影響し合って場を作っている。鎌倉の御所は今やっと場を得て、地に水が染み込むように気を深く落ち着かせていっていた。

「子供の頃から、政子はとにかく泣くのを我慢する子でな。弟妹の手前、しっかりした姉になって母を助けなくてはと頑張っていたんだろうな。それが健気で可愛いかった」

 思い出したように頼朝は笑う。

「あの日、『私を妻にしてください』って言ったんだ。十の子が必死な顔をして。子供だからこその純粋さと尊さが愛しくてな。だから私は政子だけは裏切れない」

 政子の心の中はこれからもずっととかじったままだろう。でもきっとそのままでいいのだ。とかじったままの政子を頼朝は受け入れるし、政子もそんな頼朝を受け入れて鎌倉を作っていく。

「私は……あなたのようになりたい」

 小四郎は呟いていた。

 それからハッと気付く。求められてもいないのに発言をしてしまった。慌てて咳払いをする。そのまま退出してしまおうかとも考える。でも頼朝はそんな小四郎に不思議そうな顔をして首を傾げた。

「私のように? それはとんだ苦労症だな」

 呆れたように、でもその次には嬉しそうに笑った。

「なりたいと思うならその素質があるということさ。思った時点で半分くらいはその願望は叶ったも同然だ」

 半分。では、いつか自分も龍になることが出来るかもしれない。こんな立派な龍にはなれないだろうが、その半分くらいの狡獪な蛇にはなってみせようと小四郎は思った。

 

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