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とかじり小四郎 ―北条義時―32

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『 とかじり小四郎 ―北条義時― 』

 

 季節は巡る。年を追うごとに神事が増え、寺社への参詣が増える。

「御所様の馬の轡持ちの役は俺様だ!」

「くそっ! お前、前回もその役を賜ったじゃないか。たまには俺に譲れ!」

「嫌だね、御所様は俺の振る舞いが立派だと御推挙くださったんだ。譲るもんか!」

 御家人同士、華やかなる行事の先陣を競っては諍いが絶えない毎日。競い合い、足を引っ張り合っては鎌倉の往来でも御所の内でも刀を抜いての喧嘩沙汰。

 鎌倉に集う御家人達は、皆頼朝に心酔していたが、それと同時に頼朝は多大な恨み、妬みの中心ともなっていた。

 侍所はそんな荒くれ者達をまとめあげるはずの部門だったが、実質はあまり稼働していなかった。別当の和田義盛など「喧嘩上等、もっとやれ」と叫ぶくらいの男。だから別当職を梶原景時に取り上げられたりしていた。そこでまた小さな、だけど深い溝が生まれる。

 そんな中、小四郎はただ静かに目立たず頼朝の後ろで盾となっていた。盾となりながら、頼朝の話す言葉を聞き、頼朝の動きを目で追い、その見る物を一緒に目に収めた。

 頼朝はもう小四郎を寝屋に呼ばない。だが警護筆頭であることに変わりはなく、だから小四郎は今日も仕込み杖を手に御所へと参内する。仕込み杖は人を暗殺する為のものではない。自分の、大切な人の身を守るためのもの。

 頼朝の警護で特に気を遣うのが行事の後だ。行事の真っ最中は他の御家人達も勇んで頼朝を守っているが、行事が終わった途端にどんちゃん騒ぎを始める。頼朝の警護など誰一人として気にはしない。役についていた者達も、酒が入った途端にそのようなこと忘れてしまうかのようだった。頼朝が女を連れて下がろうが誰も構わず、酒と会話に夢中になっている。だから小四郎は宴席でも常に気を張っていた。

 鎌倉で頼朝は常に一人だった。たくさんの男達に囲まれても彼はいつも一人で顔を真っすぐに上げて御所然としてそこにいた。それはあの黄瀬川の時から変わらない。

 ああ、でも政子が自然に傍らに控えるようになっていた。政子は変わった。気丈な振る舞いは昔と変わらないが、寄り添う二人の間には言葉にならない静かな何かがあった。

 政子は頼朝が浮気をすれば怒って責める。それももう遠慮をせずに激しく頼朝を責めたてるようになっていた。そしてそんな時には、頼朝は完全に政子の尻に敷かれた。政子は幕府の中で独特の権限を持つようになる。恐ろしい妻だと、悪妻だと陰口を叩かれもした。

 政子の怒声が響くと頼朝は困った顔をしてなだめに入る。だが困った顔はしつつ、どこか嬉しそうに小四郎には見えた。母親に構われたい子供が悪戯をするように、頼朝は政子に構われたいのかもしれないと、ふとそんな馬鹿げたことを考えてみたりする。

 この頃、金剛の養育の為にと娶った小四郎の妻が亡くなった。娘が一人生まれていたが、それを残して急死した。父は今頃またどの御家人と手を結ぶのが得策かと頭を廻らせている頃だろう。直にその娘が紹介されてくるはずだ。

 そんな静かな日々を過ごす小四郎の前に小さなつむじ風が興る。

 

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