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とかじり小四郎 ―北条義時―37

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『 とかじり小四郎 ―北条義時― 』

 

 一一九二年、九月二十五日。

「え、迎えに来たの? どうして?」

 白姿の真朝は大きな目を更に大きく見開いて、突然現れた小四郎を見つめた。

 今回の婚儀は比企への通い婚ではなく、真朝を江間に迎えての嫁入りとされていた。小四郎は江間の館にて真朝の到着を待つはずだった。

 だが真朝の問いには返事をせず、小四郎は真朝を抱き取り馬上へと乗せる。

 婚儀の準備を整えて出発するばかりだったお付きの者達はどうしていいやら戸惑って首を巡らせている。そんな彼らを後目に、小四郎は真朝を前に詰めさせると鞍に飛び乗り小富士の手綱を引いた。蹄の音高らかに走り出す。

「しょんねぇからな」

「え?」

「昔、約束した。帰りも送ると」

 だけれど小四郎は送らなかったのだ。

 あの日、石和五郎との別れの後、北条の館にも江間の館にも帰らずうろうろと富士を目指したのだ。石和五郎を追いかけたかったのか、ただ泣きたかったのか。

 真朝はその後何度か安達藤九郎と共に北条館に遊びに来ることはあったが、小四郎のことを怒っていたのかしばらく口もきいてくれなかった。

 そのうち小四郎への悪戯という形で口はきいてくれるようにはなったが、小四郎の馬に乗ることはなかった。だから気になっていたのだ。

「どこへ行くの?」

 それには答えず、小富士を走らせる。真朝は赤い顔をして口を尖らせた。

「せっかく髪を綺麗にまとめたのに」

 風になびき、太く黒々とした髪が小四郎の頬を撫でる。

「こんなに風に煽られたら、また髪が絡まっちゃうじゃない」

 文句を言いながらも、でも真朝の顔は期待に満ちて美しく輝いていた。

「とかじったっていい」

 真朝が小四郎を振り仰ぐ。黒い瞳が小四郎を覗き見る。

「とかじるのはしょんねぇんだ。とかじってていいから」

 とかじったそのままを受け入れるから、とそう告げたら、真朝は恥ずかしそうに少し唇を噛んで、それからこくりと頷いた。

 

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