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北条政子の夢買物語 10

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アワの夢「北条政子夢買物語」

 

「佐殿? そうか、おまんが源頼朝か」
 後ろからの男の声に、政子は、はたと気付く。
 そうか。もしかしたら、この男は代官の館の用心棒をしながら、頼朝の動向も探っていたのかもしれない。
 武田は甲斐源氏。頼朝とは同じ源氏だけれど、今、甲斐の国で勢力を伸ばそうとしている武田にとって、源氏の嫡流である頼朝は邪魔な存在だったのかもしれない。
 政子はむくむくと自分の中に力が湧いてくるのを感じた。
 よし、これで、自分の身だけが危険なのではなくなった。頼朝もおそらく同じか、多分それ以上に危険な存在。
 ということは、自分だけは安全に逃げられるかもしれない。
「あ、北条の姫、そなた今、嬉しそうな顔をしたであろう?」
 とても嫌そうな、至極迷惑そうな顔をした頼朝を見て、政子は自分が喜んでいるのだとわかった。
「ええ、嬉しいわよ。これでやっと勝てそうな気がしてきた」
「勝つ? 何にだ?」
「は? この男をやっつけないとでしょ!」
 と、からからと笑い声が響いた。
「北条の姫は威勢がいいな。先日の兄君といい血の気が多いのか威勢がいいずら」
 笑いながら、でも油断を見せない男。それに対して、頼朝の方は隙だらけで答えた。
「まさに。跳ねっ返りだな」
 上機嫌で男に話を合わせる頼朝に、政子は軽い目眩を覚える。この男、まるで危機感が無い。自分の立場をわかっているのだろうか?

「それはさておき、貴殿は何故、この姫を狙う? 恋か? であれば、私はこれにて失礼するが」
 さらりと口に乗せた頼朝の言葉に政子は心底ため息をついた。この状況でまだそんなことを言うとは。
「佐殿!」
 政子の咎めの声に、男は笑みを浮かべた。
「佐殿、貴殿にもいずれ用はあるけんど、今は帰られよ。俺はこん女が気に入っててな」
「女には、あまりしつこくするとかえって嫌われるぞ?」
「忠告感謝」
 二人の話の流れを聞いていた政子は震えた。駄目だ、私は逃げられない。せめて、せめて北条の姫として、恥をかかぬよう何か武器を。必死で探った政子の目に、頼朝の腰刀が留まる。

 次だ。
 次に佐殿が動いた時に、少しだけ拝借しよう。政子は足を踏ん張り、すぐ来るであろうその時に備えた。が、
「困ったな」
 のほほんとした声に気をそがれる。
「私も姫が気に入ってしまった。ここは譲ってくれぬか?」

 わからない。
 この男がわからない。本当にこの空気を読んでいないのだろうか?人が人をまさに殺そうとしている、この空気を!

 政子は頼朝の目を見上げた。そして知る。
 そのふざけた言葉とは裏腹に、剣呑な光をたたえた頼朝の目を。

 頼朝は静かに口を開き、語り始めた。目は変わらず男を牽制しながら。
「この国では古来より『和を以て貴しとなす』というではないか。話し合いで解決出来ぬことはないと私は思うが、貴殿はどう思われる?」
「古い」
 男はばっさりと斬り捨て、それから忌々しげに続けた。
「おまんらがそのように甘いから貴族共がのさばるのだ。やつらは武士に穢れ仕事を押し付け、自分らは手を汚さないで、上にへつらって甘い汁を吸ってる。なのに、いざ戦の時には武士を互いに戦わせ、自らは高見の見物。武士は闘鶏の鳥じゃあねぇだぁ!」
「ほぅ、闘鶏か。上手いことを言う」
 ふむ、と顎に手をやり、頼朝は答えた。
「しかし闘鶏の鳥として生を得たのなら、それもまた運命ではないか?」
その言葉に、男はかっとしたように言い返す。
「そのようなへっぴり腰だから、おまんは流されたのだ! この源氏の生き恥め!」
「生き恥か。そうかも知れぬな」
 頼朝は静かに答える。その顔は微笑をたたえていた。でも、先ほどの自嘲的な色も、諦めの色もそこにはなかった。ふつふつと燃え滾る何かが、その中に秘められていることを政子は感じていた。

 熱い。
 熱い。
 熱い。

 男達の中に確かにくすぶっているもの。
 理不尽なるものへの憤り。
 自らの力を試したいと願う野望。
 権力への渇望、見果てぬ理想。

 頼朝もこの男も同じだ。兄と同じだ。強く逞しく、変化をこの世に起こそうと懸命に生きている。
「私は命を助けられ生き永らえた。生き恥を晒してと憎く思う者もいるだろう。どう言われようと構わない。ただ、私は今日思ったことがある」
 言いながら、頼朝は腰刀に手をかけ、すらりと抜いた。
 それは見事な大振りの一太刀。禍々しいばかりに霊気を放つその一振りに、政子は息を呑んだ。
「これは父、義朝から託された源氏の宝刀『髭切』だ。『友切』と呼ばれていたこともあったが、父が名を改めた。これはもう友を斬らぬ。だから、相国殿は私にこれを返してくれたのだ」

 その時初めて、政子は頼朝の過ごしてきたであろう修羅の世界を視た。自分が過ごして来た伊豆の平和な世界とは違う、どこか禍々しい世界。
「闘鶏の鳥だろうが犬だろうが、生き続ければそこには何かしらの意味があると私は思う。いつかそのくちばしで籠を破り、貴族共の目くらいなら突ついて潰してやることも、耳を食いちぎってやることも出来るからな」
 物騒な頼朝の言葉に、男は足を後ろに引いて腰を落とし、身構えた。
「おまん、ただの腑抜けじゃあねぇようだら」

 すると、頼朝はまた殊更に嫌そうに鼻に皺を寄せた。
「いや、これはしまった。つい乗せられてしまった」
 そして、政子の方をちらりと見やる。
「そなたのせいだぞ」
「え?」
 政子は驚いて頼朝を見る。だが、頼朝はその時はもう男の方に目を向けていた。
「そなたと話していると何故かわからぬが焦るのだ。その大きな目でじっと見つめられ睨まれると、今の自分はどうなのだ、源氏の嫡流として恥ずかしくないのか、まだ奮い立たぬか、それでもお前は男なのかと言われているようで。そう、まるで母に鼓舞されているようで、とても落ち着かぬのだ。なぁ、貴殿もそうではないか?」
 頼朝は苦笑して男を見やった。
 話しかけられた男は面食らったような顔をして、それから吐き棄てるように答えた。
「おまんと今そんな話しても、なんの意味もない!」
 それから、男も自らの腰の剣をすらりと抜く。
「それが『髭切』ならばちょうどいい。持ち帰らせてもらうずら」
「ふむ、そうか。貴殿の狙いはこの『髭切』か。ということは、貴殿は源氏の手の者か?」
 その指摘に、男の顔が変わる。
「答える必要はない」
 それだけを言うと、男は間合いをはかった。

 が、頼朝は、ふ、と不敵な笑みを見せる。
「ところでさっきの話だが、意味はあったぞ。おかげで間に合った」
 頼朝が、その目線を鳥居に移すと、そこには一人の男が立っていた。
「いやいや、佐殿。腑抜けなあなた様にしては、大変ご立派な演説でございましたぞ。この藤九郎、感動のあまり、思わず立ち止まって涙しながら聞いておりました」
 そう言って、例の片頬を上げるだけの粗末な笑顔で飄々と階段を上がってきたのは、安達藤九郎だった。

 

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