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北条政子の夢買物語 12

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アワの夢「北条政子夢買物語」

 

「時子!」
どすどすどす、と足音も高らかに、政子は妹達の部屋を襲撃した。

「あら、姉さん、おはよう」
まだ半分寝ているような顔の保子が床に横たわったまま目を擦って挨拶する。政子はそれには答えず、部屋の中をじろじろと眺め回した。だが、目的の物はない。
「時子はどこ?」
「もう台所じゃないの? あの子、早いもの」
ふわあ、と大きなあくびをして保子はまた布団を被る。
「あ、姉さん、寒いから戸を閉めて行ってね」
政子はわざと部屋の戸を大きく開け放し、母屋に向かって歩き出した。

「時子!」
声をかけたら、時子の肩がびくりと震え上がった。
「……姉さん」
おずおずとこちらを振り返る時子。でも、その顔を見て政子は思った。わかっていて白ばくれている。
「時子、あなた、私の鏡をどこにやったの!」
時子の目が泳ぐ。
「あ、あれは貰ったものだもの」
「あげてません! 返してちょうだい!」
時子は一瞬押し黙った後、下を向いて唇を噛み締めた。
「も、貰ったもの!」
声は小さいが頑とした声。こうなると時子は面倒だ。政子は努めてゆっくりと言い聞かせるように喋った。
「時子、あれはあなたの夢でしょ?」
「私、あんな怖い夢いらないもの」
「でも、私は買うなんて約束してないわ。勝手に私の鏡と交換したことにしないでちょうだい!」
「だって、だって」
「だって、じゃありません!」
我慢しきれなくなって政子は叫ぶ。
冗談じゃない。あんな性質の悪い白キツネの相手など、金輪際したくない。でも、時子も時子で震えながら、必死で抵抗する。
ああ、ああ、もう!
よく頑固者と言われる政子だが、でも政子の頑固など単純明快で可愛らしいくらいのものだ。それに比べ、本当の意味で性質が悪くて絶対に譲らない七面倒な頑固者は、一見大人しげなこの時子だと政子は思う。
「私の鏡を返しなさい!」
「嫌なの!」
「なんだ、どうした?」
騒ぎを聞きつけたのか、政子の背後に宗時が立っていた。

冬でも温暖な伊豆だが、たまに寒い日もある。特に今日のように風が巻く日は。
その日、政子は台所で暖をとっていた。そこにけたたましい足音と呼び声。
「姉さん、姉さん、大変! 姉さんに文だって!」
政子が振り返れば、育子が顔を真っ赤にさせて、何やら手にしていた。
「ほら、見てよ。素敵な紙に綺麗な一枝! 一体どなたからかしら?」
政子は育子の手の中のそれを、ちらと一瞥するとつまらなそうに口を開いた。
「文くらい、別にどうってことないわ」
そう言いつつも、政子は久しぶりに胸が高鳴るのを感じていた。
私だってまだまだ捨てたものではないじゃない?それにしても、一体どなたからだろう?
そう思いながらも、ひっくり返したり透かしたりして差出人が誰かを懸命に探るのは何だか格好が悪い。政子は努めてあっさりとした顔つきで部屋に向かって歩き出した。
「単なる物好きよ。迷惑だわ」
そうぼやきつつ、急いで自らの部屋に戻ると、心を落ち着けて早速文を開いてみた。

ほととぎす いずこの山におわすかな 声も姿も無きを惜しけれ

「ふーん、いずこと伊豆をかけたのね」
そこで、ん? と思う。
ほととぎすは季語としては夏だ。そして、ほととぎすを漢字で書くと時鳥。
これはもしかしたら時子に宛てた恋文ではないのだろうか? 大体、声も姿も無いだなんて。政子はいつでも表に立って姿を見せているし、声だって外に響いている。
「一体誰よ。宛先を間違えるなんて失礼にも程があるわっ!」
腹立たしくて、ぐしゃっと文を握りしめる。
とその時、ふわりと麝香の香りが漂った。この香りは間違いない。佐殿だ。
政子は「とうとう来たか」と戦々恐々たる気持ちで手の中の文を眺めた。美人の時子の噂を聞きつけ、あの助平の佐殿が興味を持ったのに違いない。
ということは、間違えたのはあの安達藤九郎だ。ついうっかりなのか、または嫌味か嫌がらせか、宣戦布告か、どちらにしても、この文は握りつぶして正解である。
おあいにく様。誰が、可愛い妹をその毒牙にかけるものですか!
政子は鼻息荒く、どんな仕返しをしてやろうかと指をぽきぽきと鳴らした。

が、政子が討ち入る前に天敵は現れた。
「やあ、ご機嫌よう」
門で掃き掃除をしていた政子の背中に明るく能天気な声がかかる。政子は何気なく振り向いてぎょっとした。佐殿がそこに立っていたからだ。
「あ、あなた、何でここに」
今日、宗時は不在だ。頼朝がここに来る理由がない。
でも、政子が驚いたのはそれだけではなかった。頼朝は、その後ろに石和五郎と小笠原次郎を連れていたのである。確か、彼らは佐殿を切るか、切らないか、という話をしていなかっただろうか?

「彼ら二人が、北条館を捜して難儀していたから連れて来たのだ」
いいことをしただろう? と言わんばかりの得意げな顔に、政子は頬を引き攣らせた。命を狙われているかもしれないのに、何て暢気な男なのだろう。
でももしかしたら、この二人はこの男が佐殿とは気付いていないのかもしれない。
「それはどうもご苦労様。じゃ、またね」
さらっと頼朝を追い返そうとする。
が、馬鹿が自ら口を開いた。
「せっかく、この頼朝が道案内をしてやったというのに、すぐ追い返す気か」
その途端、少年二人の顔に緊張が走る。政子は本当は蹴り倒してやりたい気分だったが、頼朝の手を掴むと、門の内に引っぱり入れた。それから頼朝を背に帚を構えると、門の外の少年二人と対峙した。
「悪いけど今日は兄がいないの! 揉め事起こすなら出直して!」

 

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