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北条政子の夢買物語 24

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アワの夢「北条政子夢買物語」

 

伊豆の草原を馬で駆ける。
馬はいい。風を切って走っている間は、色々な悩みも後ろに吹き飛ばしてくれるような気がする。
政子はひたすら街道の横道を走り抜けた。そしてある山の手前で止まる。馬に水を飲ませながら、先に進むべきか後ろに戻るべきか悩んで富士の山を見た。前には権現様、後ろには北条館。そして、ただ黙って見守るだけの富士の山。
しばらく母なる富士と心の中で対話をした政子は顔を上げて空を見た。
「それでも、尼になるなんて、やっぱり私らしくないわ」
そして、その足でそこに向かった。

 

「来てくれたのか」
出迎えた頼朝は、とても驚いているように見えた。
「あなたがこんな大事な物を落とすから悪いでしょ」
そう言って、数珠を懐から取り出す。頼朝はそれを受け取ると胸に押し当てた。
「よく戻ってきた」
「何よ。私が横取りするとでも? 大事なものならきちんと管理しておきなさいよ」
すると、頼朝は少し困ったような表情をした。
「いや、わざとそなたの袖に入れたのだが、本当に持って来てくれるとは思わなかった」
珍しく素の顔だと思った。本当に驚いているようだ。政子が本当に来るとは思わなかったのだろう。自分だって来るつもりはなかった。そう、今朝までは。
政子は至極普通の顔で、部屋の奥に目を向けた。
「刀を見せてくれるのでしょう?それを見に来ただけよ」
「こんな夜分遅くに?」
「私は一度思い立ったら、どうしても気になってしまうの」
「それは面倒な性分だな」
「悪かったわね」
今は、こんな軽口の叩き合いに救われる気がする。

政子を部屋の中に案内しながら、頼朝は口を開いた。
「だが、この『髭切』は出来れば夜には抜きたくないのだがな」
「どうして?」
「『髭切』は昔、兄弟刀の代刀の『小鳥』を切って短くしてしまったことがあったそうでな。それ以来しばらく『友切』と呼ばれていたのだ」
「ふぅん」
「これは妖刀。力のある刀だ。夜の闇は色々なものを呼んでしまう。だから必要のない時には抜きたくないのだ」
「ふぅん、じゃあ今日は見なくていいわ」
政子はため息をついて横を向いた。刀を見たいなどと、元々方便なのだ。見られないのならそれはそれで良い。別段それ以上の興味もなかった。

「では抱こうか?」
「嫌だ」
「そうか。では、これでも食べるか?」
頼朝は歯牙にもかけぬ政子の拒否を、至極あっさりと受け入れると、手元の小さな皿を政子の方に寄せた。そこに乗っていたのは茶色の小枝のような形をしていて、ひからびた固そうなものだった。
「唐菓子だ」
政子にはそれは食べ物に見えなかった。
「いらない」
何なのだろう? 女を抱くことと、物を食べることが並列のようなその物言いは。そう思いながらも、政子は流されるままにしていた。その方が面倒なことにならなそうだからだ。
頼朝はごりごりと音を立てて、その唐菓子なるものを頬張り始めた。政子は呆れた顔でそれを見ていたが、そのうちに笑い出した。
「何だ?」
頼朝が不思議そうな顔をして政子の方を見る。
「だって、りすみたいな顔をして食べるんですもの」
すると頼朝も一緒に笑った。口の中に物をたくさん詰め込んだまま目を細める。変な顔だ。でも、子供のような素直なその笑顔に政子は心が温まるのを感じた。
「姫の笑顔はいいな」
「え?」
「母を思い出す」
政子は少し恥ずかしくなって、ふいと横を向いた。
「あなたってそういうのばっかりね。きっとまだ乳離れ出来てないのよ」
「何を言うか。男は皆そうだぞ。そう、そなたの兄だって弟だってそうだ」
「やめてよ、そんなことあるわけないでしょ」
「いやいや、本当のことだ」
「あなたにかかると、全ての男が女好きで、乳離れが出来てないことになっちゃうじゃない」
「それは、そなたが男に夢を見過ぎなのだ」
むかっとする。
「男たるもの、武芸に秀で、教養もあり、寡黙で堂々としてなきゃ」
そこで、つ、と立ち上がって、政子は部屋の隅に立てかけてある弓に近づく。
「そうよ、こんな立派な弓を持ってたって、使いこなせなければ宝の持ち腐れじゃない!」
そう、初めてやって来た頼朝の部屋は、政子にとってはなかなかに興味を引くものがたくさんあったのだ。
「ねぇ、触ってもいい?」
その長弓は一目見ただけで、名のある職人が手掛けたとわかる精巧な造りをしていた。この部屋に入った時から気になってたまらなかったのだ。頼朝が頷くのを確かめると、政子は笑顔で手を伸ばす。
それは政子が持っている従来の弓とは違っていた。竹が木を挟み込むように両側に貼られている。確かにこれなら、弓のしなりも良いし折れにくく耐久性も格段に向上するだろう。宗時がよく「欲しい」と口にしていたが、これがそれのようだ。政子は間近で見るのは初めてだった。
ああ、駄目だ。兄のことを忘れようとして出掛けてきたのに、気付けば兄のことを思い出してしまう。

「伊東入道にいただいたのだ」
静かな声が後ろから聞こえた。そこに含まれた何かの響きに政子は思わず後ろを振り返った。頼朝は弓をとても遠い瞳で眺めていた。
「伊東の入道が出家する前のことだ。私は平治の戦の後に命を助けられ、この伊豆にやってきた。まだ十三だった。そこで伊東の世話になったのだ。入道の嫡男、三郎祐泰とは歳が一つしか違わなかったから、それこそ兄弟のように仲良くして過ごした。そう、八重とも」
政子は黙ったまま頼朝の話を聞いていた。
「八重はその頃、まだまだ幼かった。私にとっては都で別れた妹を思い出させてくれる本当に可愛い可愛い妹だった」
政子は宗時のことを思い出していた。
「その可愛い妹が大人になる。姫となる。一人の女として私の前に現れた。私は、この可愛い妹を誰にも渡すものかと思ったのだ。そして、それは許されるはずだった」
許される、それは血が繋がっていないから?
「想いが通じたのは、入道が京に大番役で出掛けた折だった。八重はすぐに身籠り、可愛い男の子が生まれた。私は幸福だった。父と兄と別れ、一人伊豆にやってきてより初めて私に家族が出来たのだ。すぐに入道に手紙を書き、赦しを得ようと思った。でも三郎祐泰が止めたのだ。『父は今、京にいるから相国殿の手前、喜ぶことも出来ないだろう。父が帰郷してから、千鶴丸の顔を見て赦しを乞う方がいい』と」

「三年が経ち、伊東入道が帰郷した。八重がそれを迎えた。千鶴丸を抱いて。私は河津領で八重が私を呼びに来るのを待っていた。だが、いつまで経っても八重も三郎も来ず、夜になって九郎祐清が馬でやってきた。『伊豆山に隠れろ』と。何が何だかわからなかった。でも私は逃げた。八重と千鶴丸を置いて」
喉の奥から絞り出すような声。
「神社に着いて聞いた。千鶴丸は海に沈められ、八重は寺に押し込められたと」

『お父様は、昔はあんな人ではなかったのだけれどね』
母はそう言っていた。少し頑固だけれど義を重んじる、とても優しい人だったと。それが変わったのが伊東氏の家督争いだった。
血の繋がらない弟に領土を掠め取られた伊東入道は、弟の死後その領土を奪い返す。だが、そんなことをすれば、その子が黙ってはいない。狩り場で命を狙われた伊東入道だったが、実際に矢で射殺されたのはその子、三郎祐泰だった。
恨みは、憎しみは連鎖する。どこかで誰かが止めないといけないのだ。三郎祐泰の遺児、政子にとっては従兄弟に当たる幼い子供達のことが政子は気がかりだった。

「男なんて殺すばかりが得意なんだから」
静かだけれど責める口調で告げたら、苦笑する気配がした。頼朝はもういつもの飄々とした顔に戻っていた。
「それは仕方が無い。男は子供を産めぬのだから。
命を作り出すのは女。命を削るのが男だ。その昔、伊邪那美と伊邪那岐命が約束したように、千人の人間が死に、千五百人の人間が生まれるのがこの世の中なのさ」
と神話まで持ってきて開き直るその横顔を見て、政子は笑った。
頼朝は自分の子を見捨てたのではなかったのだ。それがわかって、何故だかわからないけれども政子は嬉しかった。

「だから、もう止めようと思ったのだ」
頼朝の言葉は続く。
「家族など持っては、夢を見てはいけぬのだと知った。世捨て人として生きようと誓った。なのに、そなたが現れた。私を叱り飛ばし、どんな状況でも諦めるなと鼓舞した。母のように」
優しく、敬愛の念を込めた瞳で自分を見つめる頼朝に、政子は困惑して目を伏せた。
「買いかぶりだわ」
やっと、それだけを言って政子は立ち上がった。自分はそんな大した女ではない。もし本当にどんな状況でも諦めない女傑なら、政子は既に様々なことを思い通りにしているだろう。所詮自分は口ばかりなのだ。たった一人愛する兄にすら想いを伝えられず、兄の想い人の身代わりとして抱かれるのが関の山の自分。
「勝手に理想化するの止めてよ」
政子は円座を拾い集めると並べて敷き、その上にころりと横になった。
「今日はここに泊めさせてもらうわ。でも近づいたら許さないからね」
あんなことがあった後で、そしてこんな状況で眠れるわけもない。政子は思っていた。でも起きていてもいいことはきっとないだろう。だから無理に目を瞑って眠ったふりをした。
そうしたら、その内に頼朝の静かな読経の声が聴こえてきて、その節を聴いている内に政子は気付かずに眠りについていた。
その日の夢にはキツネは出て来なかった。ただ途中何回か起きた時、読経に合わせるようにキツネが遠吠えをしている声がとても切なげに聴こえた。

 

 

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