menu
閉じる
  1. 『アマカケル北条の姫 ―蛙姫― 』北条家血 お知らせ
  2. 『 とかじり小四郎 』北条義時物語
  3. 竹御所、若紫源氏を拾う(鞠子と三寅)
  4. イザヤ!鎌倉「江間家の段」3(My wife’s mirror:吾妻鏡…
  5. いもうと(頼朝と政子)
  6. 連載は3月で完結。4月いっぱいで下げます。<アマカケル>
  7. あづまがたり(頼朝と政子の出逢い)
  8. 竹御所、若紫源氏を育てる(鞠子と三寅)
  9. イザヤ!鎌倉「江間家の段」1(My wife’s mirror:吾妻鏡…
  10. アワの夢『 北条政子の夢買物語 』
閉じる
閉じる
  1. イザヤ!鎌倉「江間家の段」5(My wife’s mirror:吾妻鏡…
  2. 琥珀の龍紋―北条時政―あとがき<アマカケル外伝>
  3. イザヤ!鎌倉「江間家の段」4(My wife’s mirror:吾妻鏡…
  4. 琥珀の龍紋―北条時政―最終話<アマカケル外伝>
  5. 琥珀の龍紋―北条時政―41<アマカケル外伝>
  6. 琥珀の龍紋―北条時政―40<アマカケル外伝>
  7. イザヤ!鎌倉「江間家の段」3(My wife’s mirror:吾妻鏡…
  8. 琥珀の龍紋―北条時政―39<アマカケル外伝>
  9. 琥珀の龍紋―北条時政―38<アマカケル外伝>
  10. 琥珀の龍紋―北条時政―37<アマカケル外伝>
閉じる

頼朝好き・北条数寄FanSite「あづまがたり」

北条政子の夢買物語 30

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

アワの夢「北条政子夢買物語」

 

「政子」
兄の声はいつもと変わりがなかった。
「三日後にはもう父が戻る。迎えの準備を頼む」
「兄さん、あの」
「俺はお前がどこにいたか知らない」
「え?」
兄が何を言おうとしているのかわからずに、政子は顔を上げた。宗時と政子、目が合う。でも、あの夜の二人とはまるで違う視線の交錯。
「妹達も知らない。小四郎も。お前ももう忘れろ」
「それは、どういう意味?」
兄の意図がわからない。すると、宗時は視線を横に流して言いにくそうに口を開いた。
「政子、八重姫の二の舞にはしたくない」
政子の肩がぎくりと震える。でも、政子は気丈に顔を上げると、黙って兄の目を見返した。
兄の恋人になりたいと、幼く想い願った少女がいた。でも、その願いは叶えられるわけがなく、兄にとっての可愛い妹でもなくなった。政子は一人の女として今ここにいた。
三日後には父が帰って来る。母を連れて。継子で既に薹の立った自分は真っ先に家を出されるだろう。そうしたら、兄の顔を見ることも出来なくなる。
政子の中にはもう絶望しか残っていなかった。

 

三日後、予定通りに父が帰った。得意げな顔の妻を連れてだった。牧の方、と呼ばれることになったその女の人を宗時が出迎えに行き、館で弟姉妹達が挨拶をした。
「おまえ達の新しい母だ。仲良くするように」
兄弟姉妹達は皆、無言で頭を下げた。母が亡くなった以上仕方が無い。館に女主人は必要なのだ。だが、浮かれているのは時政と牧の方だけで、館の中は常になく、しんと静かで張りつめた空気が流れていた。そして一ヶ月あまり経ったある日、事件は起きる。

「政子」
扉越しの声に、政子は歯を食いしばって嗚咽を止めた。
「政子、開けていいか?」
兄の声。収まりかけた涙がまた瞳いっぱいに盛り上がってくるのを政子は止められなかった。でも口を強く押さえ、嗚咽が外に漏れないよう必死で我慢した。
だから返事は出来なかった。兄はその後、二度、三度、政子の名を呼んだが、何の反応もないのを知ると静かに去って行った。

牧の方が時政の妻として館に入ってから一月。初めは何事も大人しく牧の方に従っていた政子だった。母のことを思えば、父のことはどうしても許せない。でも、父も立場上仕方ないのかもしれない。それに牧の方には罪はないことだ。せっかく、こんな遠い伊豆まで父に付いて来て、子供達とも仲良くやっていこうとしてくれているのに、拒絶するのはいけないと思ったからだ。それに、どんな状況であっても、一日でも長くこの北条館にいたかった。兄の側にいたかった。
だがある日、政子は我慢しきれずに切れた。それは古い道具箱が原因だった。

「許さない」
政子は部屋を閉め切り、声を上げて泣いていた。
「絶対に、絶対に許せない。許さないわ」
妹達は閉め切られた部屋の中から聞こえる嗚咽に動揺しながらも、中に入るどころか、声をかけることすら出来ず、廊下でおろおろと立ち尽くしていた。あの傍若無人な保子すら、政子に声をかけなかった。保子も姉と全く同じ感情だったからである。
新しい母は、政子達の母が大事にしていた持ち物を勝手に処分して燃やしていた。

「政子殿は私が気に食わないんです。都の女を受け入れるつもりがないんですわ。私は仲良くしようと、こんなに努力しているのに、政子殿は古い風習ばかりを大切にして私がやることには全てけちをつけるのですよ!」
牧の方の怒りも凄まじいものだった。時政に物凄い剣幕で事の次第を伝えた。それも、女の報復によくある常として、事実よりもかなり自分に都合がいいように誇張された話が伝えられたのである。

政子は時政のお気に入りだった。長女として母を支え、父を相手に生意気な口を聞く。わがままを言い、でも娘なりの優しさを見せる政子を、時政は他の子供達の手前、口にはしなかったが一番気に入っていた。その剛胆さや大らかさ、それでいてよく気の回る繊細さの中に自分と共通した性質を感じ、それこそ分身のように可愛がっていた。政子の婚期が遅れたのも、まだ手放したくないという気持ちがあったからだった。
それが、同じ歳の母親の出現によって、政子はすっかりと嫌な娘に変わってしまった。頑固で意固地。人の話を聞かない勝手さ。時政が自覚している自身の嫌な特性を政子の中に見てしまった時政は、政子に対して容赦がなくなる。

「政子、どうしてお前はあんなことをしたのだ」
牧の方の話では、突然政子が、火の前にいた牧の方を突き飛ばしたと聞いた。そのせいで、牧の方は手に軽い火傷を負ってしまったと。
でも政子は黙ったままだった。最初の最初に怪我に対しての謝罪をした以外は、終始そっぽを向いて返事すらしない。
「しばらくお前は部屋に篭っていなさい。反省するまでは食事も運ばんぞ」
政子が一瞬眉を上げて時政を睨んだ。時政は政子が何か喋るかと反論するかと期待してその言葉を待った。だが、政子は一瞬口を開きかけ、でも無理矢理唇を噛み締めると、またそっぽを向き、そして立ち上がると部屋を去って行った。

「三郎」
今度は、部屋に宗時を呼ぶ。
「政子を何とかしろ」
苛立ちのあまり、短くそれだけを告げたら、三郎にしては珍しく、その表情が険しく尖った。
「父上」
時政は横目で宗時を睨んだ。牧の方が来る前までは「父さん」と親しげに呼んだ宗時が、今はわざわざと他人行儀な物言いをする。
「なんだ」
苛々と答えたら、三郎は軽く頭を下げ、それから真っすぐ時政の目を見て口を開いた。
「政子とは直接お話をされたのですか?」
「したに決まっているだろう」
「政子は何と言っていましたか?」
「申し訳ありません、と謝ったぞ。だが、あとはだんまりで黙ったままだ。何も反省していないではないか!」
「事の経緯については話をしたのですね?」
「したに決まってるではないか」
「母上からのお話だけではなく、政子本人の口からも事情を聞きましたか?」
すると、宗時の言葉に、時政の横にいた牧の方が反応した。
「宗時殿、それは私からの話は信用が出来ないということですか?」
それに対し、宗時は牧の方を見た。
「『喧嘩は両成敗』と言いますから、よくよく互いの言い分を忌憚なく話すべきでしょう。一方からだけでは不公平です」
「喧嘩ですって? まぁ、母に対して何て失礼な」
そこから先は、牧の方の怒りが更に燃え上がり、とても話を続けられる状況になかった。

「三郎、頼む」
時政はやむなく、牧の方のいない場所での解決を目指すこととなった。そんな時にどうあっても一番頼りになるのは、やはり嫡男の宗時である。
時政は、牧の方の前では見せられない情けない顔で、息子に娘との仲立ちを頼んだ。時政の中にも、政子への遠慮はやはりあったのだ。しっかりした政子ではあったが、母を特に慕っていたことを時政もよく理解していた。
結果、政子は部屋から出て、皆と食事をとるようになった。相変わらずだんまりだが、それでも牧の方と並んで家事をするようになったのだ。時政は心からほっとした。
「さすが三郎だな、お前に任せて良かった」
宗時は軽く目線を落として黙った後、父に何かを伝えた。時政の顔色が変わる。でも、それが表沙汰になることはその後なかった。

その時、宗時は宗時で牧の方に対して静かな怒りを感じていた。
それは、牧の方を迎えに行った時のことだった。挨拶をして「北条三郎宗時です」と名乗った時、牧の方の顔が変わったのである。牧の方は政子と同じ歳。つまり、三郎よりも三つ年下だった。
自分の父親と同じくらいの男と結婚を決め、遠く伊豆の国までやってきた牧の方だったが、伊豆のその田舎ぶりにすっかりがっかりしていた。時政の人柄に惹かれ、結婚を決めたことは後悔していなかったが、子供達が多くいること、また自分と同じ歳の娘がいるということも心の重荷になっていたのである。
時政は牧の方に言っていた。
「もし、何事か困った時には、嫡男の宗時を頼りにするといい」
牧の方の目の前に現れた三郎宗時は、武士らしく大柄で引き締まった体躯に涼やかな顔立ちの青年だった。
これは時政との結婚は早まった。嫡男の宗時とだったらどんなに良かったか知れないのに。牧の方はふと、そう思ってしまったのである。それからは無意識に宗時に媚びを売るようになっていた。悪気だらけだったかと言えば、けしてそうとも言えないのだが、伊豆の田舎ぶりに気落ちし、また行く先の子供達のことを考えると重々しい気分になっていた牧の方にとっては逃げ道になってしまっていた。
そして、宗時もそれほど鈍感ではなかったのである。
それは牧の方が伊豆の北条館に着いた翌日のこと。しなをつくる牧の方に、宗時は容赦のない一言を投げつけた。それが決定的な溝となった。

牧の方はよく気がつく女だった。性根が悪いわけではけっしてなかったのだが、賢く、お喋りで、目端が利き、そして何よりもとても矜持の高い女だった。
京の女は怖いと言われるが、それは表と裏を使い分けるからだ。人の気を察し、人に察してもらうことを美徳とする、そんな京の風習は、しかし伊豆ではまるで通用するはずがなかった。
例えば「帰れ」と言う意味を含めて「ゆっくりね」と言う。すると、京では早々に人が払われるのが、伊豆では「ゆっくりしなければ失礼なのか」と互いに気まずいまま時間が流れるのだった。実直を美とする伊豆の人々には、京風のやり取りは理解出来るはずがなかったのである。
そんな牧の方が北条館に着いてすぐに気付いたのは、宗時と政子のぎこちない関係だった。時政は父親らしくまるで気付いていなかったが、牧の方は宗時と政子の間に何かがあることを、女の勘で知ってしまったのである。

 

次ページ

目次へ戻る

リビドーロゼ

関連記事

  1. 琥珀の龍紋―北条時政―16<アマカケル外伝>

  2. 琥珀の龍紋―北条時政―24<アマカケル外伝>

  3. 北条政子の夢買物語 22

  4. イザヤ!鎌倉「江間家の段」1(My wife’s mirror:…

  5. とかじり小四郎 あとがき

  6. 琥珀の龍紋―北条時政―8<アマカケル外伝>

おすすめ記事

  1. イザヤ!鎌倉「江間家の段」3(My wife’s mirror:吾妻鏡・妄想誤訳)
  2. イザヤ!鎌倉「江間家の段」1(My wife’s mirror:吾妻鏡・妄想誤訳)
  3. 竹御所、若紫源氏を育てる(鞠子と三寅)
  4. 『アマカケル北条の姫 ―蛙姫― 』北条家血 お知らせ
  5. 連載は3月で完結。4月いっぱいで下げます。<アマカケル>

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

Amazon 出版物(電子書籍)


捕えられ鎌倉へと送られた白拍子は、八幡宮での舞に呪をこめる。男児を殺され奥州を目指すも辿り着いたのは蝦夷だった。静御前の話。(中編)


木曾義仲の息子・義高が逃亡した。その身代わりとなって牢に繋がれた海野幸氏と、彼を助けようとする大姫の話。(短編)

ポチで応援おねがいします

にほんブログ村 歴史ブログへ にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
ブログランキング・にほんブログ村へ

おすすめ記事

  1. イザヤ!鎌倉「江間家の段」5(My wife’s mirror:吾妻鏡・妄想誤訳)
  2. 琥珀の龍紋―北条時政―あとがき<アマカケル外伝>
  3. イザヤ!鎌倉「江間家の段」4(My wife’s mirror:吾妻鏡・妄想誤訳)
  4. 琥珀の龍紋―北条時政―最終話<アマカケル外伝>
  5. 琥珀の龍紋―北条時政―41<アマカケル外伝>
ページ上部へ戻る