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北条政子の夢買物語 33

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アワの夢「北条政子夢買物語」

 

 その夜、宗時は微かな物音に目を覚ました。
 宗時が寝泊まりしているのは離れのより静かな方である。宗時は起き上がると、そっと戸を開けた。盗人であれば捕えて家族の身を守らなくてはいけない。
 静かな庭に影が二つ動いたように見えた。宗時はじっとその影を見て、それから信じられないように呟いた。
「政子?」
 盗人ではない。背中でも肩でも、身体の一部であっても見ればわかる。確かに政子だった。
「政子?」
 まさか、また家を出ようと言うのか。宗時は外に出た。止めなければいけない。足がもつれそうになった。が、大声で呼ぼうと、呼び止めようとした時、聞き覚えのある声が宗時を後ろから呼び止めた。
「私ならここよ」
 宗時の部屋の前に政子が立っていた。あの日と同じ柔らかな笑顔で、同じ着物で。
 ほっとして近づいた宗時だったが、ふと違和感を感じて後ずさる。
「おまえは、誰だ」
 政子ではない。政子の顔をしているけれど、政子ではないモノ。
「物の怪か」
 片手に握っていた太刀の鞘を振り払う。雨が銀の刃をすぐに濡らした。
「勘のいい男ダナ」
 政子の顔を、声をしていたそのモノは、ゆっくりと姿を元に戻す。それは白いキツネ。
「政子をどうした」
「アレは八幡大菩薩様がいただいた」
 にこりとキツネが目を細める。宗時は降る雨にぐっしょりと濡らされながら、滑らないように太刀を握り直した。キツネは続ける。
「アレは龍を宿す女。お主も感じるであろう。ソノ身の中に眠る巨大な龍を。だから欲シイ。だけど隠しタイ。独占しタイ」
「お前は、何を言っている」
 白いキツネは神仏の御使い。それはわかっている。でも宗時は、斬ろうと思った。斬って政子を救わなければいけない。
 キツネはふわりと尻尾を振り上げた。
「お前はこの世で何をしタイ? この世に何を残しタイ?」
「何だと?」
 油断無く太刀を構えながら、宗時はキツネとの間合いをはかる。キツネはそれに気付いてか気付かずか、変わらずのんびりと話を続けた。
「お前の前に二つの道がある。不満はあるが平凡で穏やかな世界。失うものもあるが、面白くて何モノにも替えがたき光を掴む世界」
 キツネは飛び上がると、すうと空気のように宗時の肩に乗って、その耳元で囁いた。
「面白きことをしたくナイカ?」
 宗時は、太刀を握る手を下に下ろした。

 

「政子!」
 頼朝は走り出て政子を受け止めた。
「佐殿」
 政子はしとどに濡れそぼり、がたがたと震えていた。頼朝は政子の肩を抱えると屋敷の中に迎え入れる。中では、藤九郎盛長が慌てて辺りを片付け始めていた。
「こんな雨の中をどうして」
 言いかけた頼朝は、暗闇の中、控えている義時に気付く。
「小四郎。お前が政子を送ってきてくれたのか」
 義時は頼朝を見上げると、強くその目を見返した。
「姉がここに来ると言った。だから送って来ました。でも、次は父が兵を率いてやって来るかもしれない。伊豆山にすぐ逃げた方がいい」
 頼朝は腕の中の政子を見下ろした。確認をするように。政子は唇をきゅっと噛み締め、それから意を決したように口を開いた。
「逃げて来ました。どうぞ、あなたの妻にしてください」
 悲壮な顔をした花嫁は、頼朝と手を取り合い、伊豆山へと身を隠した。

 

 伊豆山の走り湯権現では僧兵達が警戒を強めていた。北条が攻めてくるかもしれない。僧兵達は門の守りを固め、火を焚き、武器を表に出し、戦闘に備えていた。
 その内では、政子が高い熱を出してうなされていた。
「薬は飲ませたのか。祈祷は!」
 珍しく語気を荒げる頼朝に、別当の文陽房覚淵は読経を止めると静かに振り返った。
「お静かに。ご内室は懐妊されておられますぞ」
 頼朝は覚淵を見返した。頼朝にとって師でもあるこの僧は、静かな微笑みをたたえ、頼朝に一礼をすると、また静かに読経を始めた。

 

 痛い。

 痛い。いたい。いたい。
 お腹が痛い。
 何かが私のお腹の中で悲鳴を上げている。

 熱い。あつい。あつい。
 頭が痛いの。

 幼い少女は熱にうなされながら瞼を持ち上げた。天井がぼんやりと目に映る。少女は流行病にかかっていた。兄妹達とは隔離され、少女は離れに一人寝かされていた。
 少し遠くから、妹たちの遊ぶ賑やかな声が聞こえる。でも、少女は外に遊びに行けない。誰も遊びに来てくれない。だって、妹達に移ったらいけないから。
 少女はほろりと涙を流した。
 寂しい。このまま誰にも会えずに死んでしまうのではないか。
 その時、ことり、と音がして戸が軽く開いた。そこから顔を覗かせたのは一人の子供だった。子供はそこから、ころころと何かを転がす。
「なに?」
 枕元まで転がったそれは黄金色の実。
「八幡さまでいただいてきたの。たちばなの実」
 少女は細い手を伸ばした。それを掴む。
「お薬になるんだって。だから」
 子供はもう一つの実をころころと転がす。
「それを食べて、元気になってね!」

 政子がゆっくりと次に瞼を開けると、そこは昏い夜の世界だった。また夢の中か。そう思う。ふと掌の中に二つの黄金色の実が残っているのに気付いた。香りがする。夢の中なのに。
 あの日、死にかけた政子を助けてくれたのは兄だったのだろう。そう、いつも兄は優しかった。
「一つ、忘れ物ダヨ」
 後ろからかけられた声に政子は振り向く。一人の青年が立っていた。白い着物を着た綺麗な顔の。
「キツネ!」
 政子は叫ぶ。
「ヤア」
 にこりと笑うキツネに政子は摑み掛かる。
「あんたと会ってから、あんたが夢に出て来るようになってから、色々なことがおかしくなったのよ! もう帰って! 二度と顔を見せないで!」
 キツネの肩を掴む。キツネは逃げなかった。
「冗談ダロ。これからナノニ」
「何がこれからよ。おしまいよ。全て……すべて」
 政子は顔を覆って泣き始める。でも、キツネはそんな政子には頓着せず、満足げに頷いた。
「随分、無茶をしてくれたものダ」
 政子はキツネを睨みつける。
「ダガ、腹の子は無事だ」
「腹の子……?」
 政子は慌てて自分の下腹部に手をやった。そして気付く。確かに息づく何かを。先ほどの痛みは和らいでいた。
「始まるゾ。お主は道を歩み出した。真っすぐな修羅の道ダ。ホラ、見えるだろう?」

 何?
 政子は突然、眩い黄金の世界にいた。目が刺されたように痛い。熱い。
「コノ黄金たちは日の本の民だ。その一人一人ダ。お主らはソレを手にする。
 だが忘れるナ。その黄金はお主らのモノではナイ。黄金の為のお主らナノダ。黄金が燃やされ灰となるも、磨かれ光を宿すも全てお主ら次第。好きにするがイイ」
 何を言ってるのかわからない。
 でも、少しずつ馴れた目は細く視界を開き、その光るモノを捉える。
「美しいわ」
「ソラ、祝いの品ダ」
 振り返れば、白キツネは政子が最初に見た時のヒトの姿になって、政子の背後に立っていた。
「ヨクヨクカンガエ、ミチヲススメ」
 そう言って、それから政子の髪に何かを挿す。
「何?」
「橘の実サ。おめでトウ。お主らは八幡大菩薩様の加護を受けタ」
 気付けば、右手と左手に一つずつの橘の実。そして、髪にも一つの橘の実のついた枝。
「後は任せタヨ」
 そう言って、キツネはひらひらと手を振る。それを追おうとして、政子は気付いた。右側から日が。左側から月が迫って来る。ひどい熱と光に身体を灼かれ、政子は悲鳴を上げた。

 

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