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北条政子の夢買物語 38

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アワの夢「北条政子夢買物語」

 

 加勢を約束した三浦を頼り、その軍と合流する為に頼朝軍は土肥に向けて出発した。同時に三浦、和田などの武士達も頼朝との合流を目指して彼らの土地を後にする。だが、同時に大庭も戦闘に向けて大軍を動かしていた。そして、頼朝達の背後からは伊東の軍勢が迫っていた。
 頼朝は雨の中、石橋山で陣を敷いて三浦の到着を待った。だが、その夜、大庭の軍は頼朝軍を叩きに入る。三浦との合流前に潰そうと考えたのだ。頼朝軍は大敗を期して散り散りになった。
 翌日も激しい戦いが続く。頼朝は山に逃げ落ちた。

 政子は、それらの知らせを走り湯権現で聞いた。
 ああ、やっぱり、と思う。
「ここは危ないかもしれません。秋戸郷へお逃げなさいませ」
 覚淵殿の言葉に従い、政子は八幡姫を連れて山を下りた。これが覚悟か、と思い知る。頼朝が死んだら、自分とこの娘は罪人の家族として処刑される。

 しかし、移動してすぐ政子の元に使者が現れる。土肥弥太郎遠平だった。
「佐殿はご無事で安房へ逃がれられました」
 遠平の言葉を、政子はぼんやりして聞いていた。
「アワ?」
「え?」
 聞き返されて、政子ははっと意識を取り戻す。
「いえ、安房ね。千葉を頼ったのね」
「はい」
「そう、そうなの」
 ほっとしたのと同時に、怒りが沸いてくる。
「全く! あんな簡単な風に話していたくせに死にかけるなんて、本当に頼朝殿は!」
 政子の怒りを遠平はさらりと笑って流した。
「ご武運がお強いからでございます」
 と、それらしいことを言う。
 それから続けた。
「北条殿と小四郎殿は同じ頃に安房に入られましたが、今はもう甲斐に向かわれています」
 政子は繰り返した。
「小四郎が父と一緒に甲斐に向かったの?」
「はい、甲斐の武田と一条に助勢を願いに」
「そう」
「甲斐国の住人、石和五郎と信濃国住人、小笠原次郎らが同道したと聞いております」
 政子はほっとして微笑した。
「そう。彼らが一緒なら心配はいらないわ」
 小四郎は賢い。必ず、武田の軍を味方に戻ってくる。

 それから、一番大切な人の名を尋ねる。
「兄は? 三郎宗時はどこに向かったのです? 佐殿とご一緒なの? 」
 一緒の筈だ。弟と父は恐らく追手を払うために別の方向に向かったのだろう。ならば、兄は佐殿と一緒に行動している筈。笑顔で海を渡る兄の姿が見えるようだ。海を渡った先には三浦。それに千葉も。
 でも、沈黙が返って来る。政子は恐る恐る弥太郎を見下ろした。
 頭を下げて震えている男。
 政子は口の端を上げて男に優しく問うた。
「もしかして怪我をされたの?」
 男は微動だにしない。
「まさか、捕らわれの身になったのでは?」
「お討ち死になさいました」

 オウチジニナサイマシタ

 何を言ってるのかわからない。
 政子はぽかんと口を開けて土肥弥太郎を見た。弥太郎は下を向いたまま続ける。

「桑原の方に向かわれて」
「桑原って、大庭と伊東の間、敵の真っ只中ではないの」
「は」
「父と小四郎は北の甲斐へ、殿は東の安房へと逃げたのに、どうして兄はそんな西の危ない方へ向かったの」
「大変ご勇敢な最期だったと聞きます」
「そんなこと聞いてない! 兄はどうしてそんな方に向かったの? わざわざ!」
「伊東の軍勢が走湯権現を襲うとの情報が入ったのです」
「え」
「逃れた佐殿をお隠しするのは走湯権現だろうと、そう思うだろうと」
「では、兄はここに向かって」
「は」
 そこから先はもう聞きたくなかった。でも、声が出なかった。

「土肥山から桑原へ降り、早河のあたりを通っておられた所を伊東祐親軍に囲まれ、矢で射られ、お討ち死にしたと」
「伊東」
 祖父が孫を殺したの? また?
 まさか、そんな、そんなことがあっていい訳がない。
「お方様!」

 誰よ?おかたさまって何?
 そんな人ここにはいない。知らない。私であるわけがない。
 だって私は、私は兄と一緒にここから逃げるのだから。

 兄は私を助けようとしてくれていたのだ。
 いいえ、そうではない。
 迎えに来てくれようとしていたのだ。
 そうだ。なのに。

 オウチジニナサイマシタ

 

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