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北条政子の夢買物語 8

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アワの夢「北条政子夢買物語」

 

 次の朝、嫌な夢を見た気がして、政子は朝いつもより随分早く目を醒ました。
「いやだ……」
 冷たい汗をかいている。もう冬だというのに。
 でも不思議なことに、その夢の内容を政子は断片すら全く覚えてはいなかった。
「守山八幡様に行こう」
 政子は急いで着替えると、まだ明けやらぬ薄暗い中をすぐ近くの八幡様まで歩いて出掛けた。

 守山八幡は小山の上にお社があり、石段を上ってお参りをする。長く続く急な石段に、鬱蒼と茂った杉並木。昼でも薄暗い場所だった。
 でも子供の頃から遊び場としていた政子にとっては慣れた場所。軽い足取りで石段を登りきる。
「ふぅ、今日もいい眺め」
 登りきった石段を見下ろせば、眼下に広がる美しい眺望。広がる田園風景に点在する村々と住居。その中で一際大きく目立っているのは代官館だ。

「よし、悪い夢は八幡様にお願いして祓ってもらおう!」
 くるりと本殿に向き直った政子は、行儀悪くも「げ」と声を漏らした。
 そこには先客がいたのだ。
 それも、件の源頼朝。

 人気のない所で挨拶でもしようものなら妊娠させられてしまうと、女達の間でまことしやかに噂されるその人が、本殿に向かって静かに手を合わせていた。

 どうしよう。知らん顔して石段を下りて逃げるか。
 いや、せっかく登りきったのに、こんなやつの為にまた石段を往復するのは何だか悔しい。
 きょろきょろと辺りを見回す。頂上には本殿以外に小さな祠があった。政子は素知らぬ顔で、その祠に近づくと本殿に背を向けるようにして顔が見られないように、一心に手を合わせ「早く帰れ」と念じた。

 ……が、
「これは北条の一の姫。お早いな」
 聞きたくもない声がかけられる。
 なんで後ろ姿で私だってわかるのよ!と思ったが、この辺で大柄な女と言えば、確かに政子しかいなかった。ばれるのは仕方が無い。政子は渋々と振り返った。
「……おはようございます」
 気付かない振りをしてくれればいいのに、話しかけて来るな!
 心の中でそんな毒を吐きながら、とりあえずは挨拶を返す。兄の顔があるのだ。最低限の礼は尽くさないといけない。

「姫は意外に信心深いのだな」
「は?」
 思わず聞き返す。
「お言葉ですが、意外なのはそちらでは?」
 政子の切り返しに、頼朝は不思議そうな顔をした。
「私が? 何故そんなことを申される?」
「だって、あなたはなんちゃって信心者じゃないですか」
 頼朝は目をぱちぱちと瞬かせると、黙って政子を見つめた。政子はふん、と横を向き、吐き棄てるように告げる。
「読経をして、参拝をして、ご自分では信心しているつもりなのでしょうけれど、私から言わせれば中途半端なのですわ! 頭を綺麗に丸めて僧になってしまえばいいのに。そうして、ご一族のご冥福をひたすらお祈りすればいいのに」
 すると頼朝は、ふいと視線を横に避けた。
「確かにな。私は僧にもなれず、かと言って武士としても何も出来ず、ただただ日々をこうして無為に過ごす身だからな」
 そうしてあからさまに、ほぅ、と切なそうなため息をつくと、頼朝は肩をすくめて政子の横を通り過ぎようとした。

 政子は腹の中で大きな黒い虫がぞろりと頭をもたげるのを感じた。
 ああ、苛つく。この男は何故こうも人を苛々とさせるのが上手なのか。
 思わず、政子は頼朝に向かって吠えていた。
「待ちなさいよ! 」
 そう、政子が頼朝を毛嫌いする一番の原因は、頼朝のこの顔だった。世を捨てたようなふりをして本当は捨てきれていない。
 頼朝は流人だ。片手一本で断崖絶壁の縁にいるという状況は政子にもわかる。武士の棟梁の子として生まれながら戦に敗けて流された。
 武士としての立身の道は断たれたけれど、本当は諦めたくない。そんな気持ちがあることは理解出来るし、そのような気概はかえって男として好ましいと政子は思う。だけれども、その状況をいかにも被害者のような顔をして過ごしているのが、まるで人の同情を引こうとしているようで政子の目にはいやらしく映った。
 しかも、憂いを含めた表情で女達の母性本能をくすぐり、騙して利用しておきながら、自分の身の安全の為なら迷わず切り捨ててしまう勝手な所行が何より一番許せない。
「無為だからって、いえ、無為だとおっしゃるなら尚のこと、子種をまき散らされるのは迷惑です。産まれた子と、その母の気持ちになってご覧なさい!」
 政子は目を大きく見開いて、頼朝を睨みつけた。
 踏み込み過ぎてるかもしれない、とは思った。でも、今日の政子は何故か止まらなかった。夢見が悪かったせいかもしれない。明らかに頼朝に八つ当たりをしている部分があることを気付きながら、でも政子は自分を止めることが出来なかった。
 八重姫のこと、その子のこと、私はけっして許さない!
 政子は憎しみの感情をいっぱいに込めて頼朝の顔を睨みつけた。

 が、その時、頼朝の顔が翳ったのに政子は気付いた。どこを見ているのかわからない、心を読ませぬ瞳が、深くて鈍い昏い光を放つ。底知れぬその光に、ぎくりと背筋が凍るのを感じる。
 しまった。言い過ぎた。
 八重姫のことも子供のことも許せない。許さない。でも、もしかしてこの男も少しは後悔していたのだろうか?
 政子は大きく動揺する。でも、それでも、頼朝に素直に謝ることはしたくない政子だった。
「あ、あなたが男色だったら良かったのにね! そうすれば僧になってもきっと楽しいことばかりだろうし、それに男色なら子供が生まれたりしないから誰にも迷惑かからないし、それに、それに」
 ああ、私は何を言ってるのだ。いくら佐殿でもそろそろ怒るだろう。不敬だと斬られても文句は言えないかもしれない。
 だがしばしして、ぽつりと頼朝は答えた。
「男も確かに悪くはない。うん、男もいいぞ。若い頃は嫌でたまらなかったが、今になって思ってみると、確かに彼の人のご趣味もわからなくはないと思う、うん。だがなぁ、私はやっぱり女の方がいいと思うのだ」
「は?」
 政子は絶句した。この男は何を言っているの?
 頼朝は「うん、うん」と頷きながら、その後は政子の方を見ずに歩き出した。
「うん、そうだ。だから、やはり私は僧にはなれぬのだな。うん、そうだ。それは仕方ないことのなのだ。うん。いや、邪魔をしたな。教えてくれて感謝する、北条の姫」
 そう言って、頼朝はすたすたと石段を降りていった。政子は硬直したまま、頼朝の頭が石段から見えなくなるのを見送った。

 

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