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頼朝好き・北条数寄FanSite「あづまがたり」

名こそ惜しけれ(頼朝と政子)2

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LULUSIA-ルルシア-

 

「時政が鎌倉を出た?」
翌々日、のんびりと葉山を出て御所に戻った頼朝が聞いたのは、政子の父、北条時政が鎌倉を出て伊豆に帰ってしまったという知らせだった。

「北条一門を引き連れて伊豆国に引き上げたようですよ」
頼朝は、はぁとため息をついた。
「牧の方に泣きつかれたか」
「でしょうね。『父の恨みを晴らしておくれやす』とか何とか言われたんでしょうな」
京言葉を話す牧の方の真似をして見せる藤九郎。

「まったく!」
どさっと腰を下ろすと、頼朝は頭を抱えた。
「そう来たか!」
「ま、予想の範囲内ではありましたが」
その藤九郎の言葉に、頼朝は苦虫を潰しような顔をした。
「藤九郎、予想が出来ていたなら止めてくれよ」
「だって、止めても聞かぬでしょうが」
「あー、もう。時政がいないんじゃ、色々困るじゃないか」
「そうですか? 別に北条に頼らずとも、他の氏族に頼れば良いではないですか」
「そういう訳にはいかん」

そこで、はっと思い出したように背を伸ばした。
「政子と八幡、万寿は?」
「御所に残っておいでですよ」
「そうか」
ほっと息をつく。
とりあえず最悪の事態は免れた。

「御台様の所に行かれますか?」
藤九郎の言葉に、頼朝は頷きかけて、でも首を振った。
「小四郎は? 小四郎も伊豆に引き上げたのか? 鎌倉に残ってるんじゃないか?」
藤九郎は頷く。
「ああ、確かに。小四郎殿なら残っておいでかもしれませんね」
「誰か人をやって小四郎が館に残ってないか調べてくれ」
「かしこまりました」

 

 

「小四郎!!」

生き別れの兄と弟が出逢う時、このくらいたっぷりと情感を込めた声を出すものなのかもしれない。そのくらいに劇的な声が、ドスドスという大きな足音と共に近づいて来る。

北条小四郎義時は読んでいた本から目を上げると、戸口の方に目をやった。
お出ましのようだ。
呼び出しがあるだろうと思っていたのに、自ら出向いてくるとは。

父、北条時政が鎌倉を出て、もう半日程。
家の中の用をする女達も家人も全て連れて行ってしまったから、この館の中はほぼ無人の状態だった。
義時の側近くにいつも仕えている男数人が、義時が列の中にいないことを知って慌てて戻って来たが、それも今は出掛けている。
おかげで誰に邪魔されることもなく心置きなくゆっくりと静かに読書を楽しんでいたのだが、やはりそうそうのんびりも出来ないか。

義時は本を閉じると、無言で頭を下げた。
そこに足音の主が顔を出す。
「おお、小四郎! そなたはやはり鎌倉に残ってくれたか!」
大きな声。手を横に広げての大振りの動作。
涙を浮かべんばかりの形相で頼朝は駆け寄り、ばんばんと義時の肩を音を立てて叩いた。
「良かった! うん、良かった」
とても痛いのだが、いつものことなので黙ってやり過ごす。
「そなただけか? 五郎は? 妹御たちは?」
「伊豆です」
ぼそりと答える。

「そうか」
頼朝はむぅと口をひん曲げると、こっそりと義時に耳打ちをした。
「ところで、やっぱり時政は怒っておったか?」
やっぱり、という時点で怒られるようなことをやった自覚はあるようだ。
「いや、牧の方が」
そう答える。

実際、時政の後妻である牧の方の怒りようは凄まじいものだった。
父親の名誉が傷つけられたと泣き喚き、家中の物を掴んでは投げて打ち壊し、頼朝のことは散々にこき下ろし、政子のことは罵詈雑言、あることないこと叫んでいた。
自分がいらぬことを告げ口したせいで起きた騒動だとは、牧の方自身は微塵も思っていない。

「ははは、そうか。牧の方が激怒しておったか」
頼朝は声を立てて笑い出した。いかにも嬉しそうだ。
牧宗親の髷を落とすなど随分と大仰なことをしたものだと思ったら、やはりわざと怒って見せたのだろう。得意げなその様子でわかる。

義時はぼそりと呟いた。
「女の喧嘩に横入りなさいませぬな。面倒が増えます」
義時のその率直な物言いに、頼朝はふん、と横を向いた。
「だって牧の方は気に食わぬのだ。政子をいじめるからな」
「姉だって倍くらいやり返してますよ」
「だって……」
子供のように口を尖らせる頼朝に、義時はこっそりとため息をついた。

政子と牧の方はどうも馬が合わないようで、始終何かと揉めていた。
牧の方が後妻として北条家に入ってすぐにも大きな喧嘩を起こした。おかげで、家中が冷たい空気に覆われたものである。

政子が頼朝と駆け落ちをして、しばらくは静かな生活が続いていたが、政子が頼朝と八幡姫と共に実家に戻ると、また争いが勃発。しばらくして、平家が関東に攻めて来るという噂を聞けば、流人と駆け落ちする政子が悪い!とまた大喧嘩。

鎌倉に来てしばらくは、また平和な日々が続いていたのだが、嫡男出産が済んで、政子が御所に戻った途端、待ってました!とばかりに牧の方は政子に会いに御所に出掛けたのである。嫡男の外祖父の妻としてお祝いに出掛けたはずが、頼朝の浮気をばらして祝いに水を差す始末。

鎌倉ではここしばらく頼朝の嫡男の誕生に町中が沸き、各氏族がこぞって嫡男のお祝いの役を務めようと御所に詰めかけるわ、産所である比企の館に詰めかけるわ、それこそお祭り状態だった。牧の方にはそれが気にくわなかったのだろう。

裏からちくちくと嫌味を言うのが牧の方とすれば、表から正々堂々と喧嘩をふっかけるのが政子。
水と油のような二人が一つ所に揃うのは、周りにとって不幸なことだった。

「だって、牧の方がわざわざ告げ口したのだろう? いつもの嫌みな感じで。だから政子は怒ってわざと宗親に手を下させた。牧の方の父に命令することで、自分と牧の方の立場とを再確認させたということ。そう思ったから、ついでに私も政子のために仕返ししてやったのだ!」
えっへん、どうだ。偉いだろう?
そのくらいの勢いで胸を反らせる頼朝。

「ハァ……」
義時は今度こそ大きなため息をついた。
何が原因で今回の騒動が起きたのかを自覚していない人間が、まだここに一人いる。

牧宗親は娘に似ず、大人しくて控えめな人物だ。どちらかというと事なかれ主義者である。
それが、娘に告げ口された腹いせにと鎌倉の主である頼朝の妻に呼び出され、頼朝の浮気相手が滞在している館の打ち壊しを命じられたのだから、たまったものではない。
恨みも何もない他人様の館を打ち壊すというだけで、かなりの心労がかかっているだろうに、その上皆の前でそれを詰られ、髷まで落とされたというのだから、その心情は察してなお余りある。

おまけに、それを機にまた娘が怒り狂い、時政をそそのかして北条一門を引き連れ鎌倉を飛び出してしまったのだ。
頼朝の許可なく鎌倉を出ることが一体どういうことなのか。その問題の大きさたるや、個人の髷一つの問題ではない。下手をしたら、その一族全員の首問題にまで発展しかねないのだ。
今頃、真っ青な顔をして列の最後尾をとぼとぼと馬に揺られる牧宗親の姿が目に浮かぶようだ。

それもこれも、頼朝が浮気をしたことが事の発端。

仕方なく義時は口を開いた。
「で、処理はついたのですか?」
「処理?」
「亀の前とは切れたんですか?」
「いや、まだ。だって政子はまだ怒ってるだろうし」
しれっと答える頼朝。
義時は諦めた。この人にはこういう話をしても無駄だった。悪い人ではないのだが、昔から話が通じない。感覚が違うのだ。
でもだからといって、義時はこの頼朝が嫌いではなかった。
ま、いい。後は姉に片をつけて貰おう。

「でも、本当によくぞ残ってくれたな」
心から嬉しそうな笑顔を見せる頼朝に、義時は苦笑ながらも笑みを返した。

この人には敵わない。
天真爛漫というか大らかというか、子供のように素直で屈託がなく、その行動や言動は無性に人を惹き付けた。

山木判官の館を襲撃する前、工藤や土肥、岡崎、佐々木など、頼朝と共に挙兵する覚悟を決めた勇士達を一人ずつ順に人気の無い部屋に呼び入れ、その手をしっかと握り、
「今まで口にはしなかったが、実はお前だけを私は頼りに思っているのだ」
と涙ながらに、同じ言葉をかけていったらしい。

そんなことを言われた者としては、
「佐殿は私一人だけを頼りにして下さっている」
と奮起したであろうが、何のことはない。全員同じことを言われたのだ。

でも、その言葉に嘘があったとは義時は思わなかった。
人は話す言葉の中に嘘と本当とを嗅ぎ分ける力がある。
頼朝は話す相手を目の前にした瞬間、真実そのように思ったからそう言ったのだろう。だからその想いが通じた。それだけのこと。とんだ人たらしではあるが。

でも、頼朝の周りにはとにかく人が集まる。
皆、頼朝に好かれたくて、役に立ちたくて、我こそはとこぞって寄ってくる。まるで光に群がる虫のように。
頼朝にこれほどの求心力がなければ、いくら元々源氏の基盤がここ鎌倉にあったと言え、こんなに短期間にここまで勢力は伸びなかったはずだ。

姉もとんでもない人を夫にしたものだと、つくづく思う。
たかが伊豆の小さな土豪の姫が「御台様」だなんて可笑しくて笑ってしまう。

「どうした? 今日は随分楽しそうだな」
頼朝は微笑んだ。
無表情だと言われる義時の小さな表情の変化にも気付く頼朝。
自分も十二分に頼朝に取り込まれているのだという自覚を持ちながら、義時は「いいえ」と小さく答えた。
「あ、わかった。そなた、うるさい時政がいないからと羽を伸ばしてるな?よし、今夜は一晩ここで飲み明かそう!」
頼朝は上機嫌で立ち上がると酒を取りに歩いて行った。

勝手知ったる他人の館。
共に暮らした伊豆の館ではないのだが、物の置き場などは変わらぬものなのだろう。頼朝はすぐに酒を見つけて戻ってきた。
「酒はあるが、つまみがないぞ?」
「誰もいないんだから、何もありませんよ」
「そうか、仕方ないな。じゃあ、塩でもいいか」
そう言って、またうろうろと歩いて行く。その姿は、とても”鎌倉殿”の威厳などなかった。

「こうやって、二人で飲むのは久しぶりだな」
感慨深げに頼朝は口を開いたが、義時は素直に否定した。
「初めてです」
「え、そうだったっけ?」
あはは、と屈託なく笑う頼朝。
「あなたが二人で飲んだのは、三郎兄とでしょう」
そう続けたら、頼朝は「ああ」と横を向いた。
「そうだ。宗時とはよく飲んだ」
それから、しばし沈黙が続く。
「宗時が生きてたら、今頃どうなってたかなぁ」
ぼそりと呟く頼朝に、義時は答えられなかった。

 

名こそ惜しけれ(頼朝と政子)3

 

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