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頼朝好き・北条数寄FanSite「あづまがたり」

名こそ惜しけれ(頼朝と政子)5

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ザザザ……
波が引いていく。

月の光の中、真っさらに撫でられた砂浜の上を慌てて走る蟹の影が映る。

「尻が冷たい」
頼朝は腰まで濡れた袴を摘まみ上げ、呆然とした様子で呟いた。

「座ったあなたが悪いんでしょ。私だって足が冷たいのよ」
そう、政子は履物のないまま砂浜に立っていたのだった。

先ほどの大波の時、頼朝に警告を発した為に逃げるのが遅れて、政子の着物もふくらはぎくらいまでしぶきが飛んでいた。
そこに海へと吹きしく冷たい風。
さすがに寒い。凍えそうだ。

戻りましょ、と言いかけた時、頼朝が立ち上がり、政子の身体に腕を回した。
ここに来た時と同じように抱え上げられる。
帰るのかと思いきや、頼朝は突然、大声を上げた。
「誰かあるか! 尻と足が冷たいぞ。何とかしてくれ」
呼ばわる。
その途端、浜の木の陰に潜んでいたらしい影が三つ四つ走り出てきた。

政子は呆れた。
「あなたねぇ、自分が砂浜に座りこんでて濡れたんでしょ?」
頼朝に抱え上げられながら、偉そうなその顔を睨んだら、
「そうだったっけ?」
のほほんとした答えが返ってきた。
「こんの、お坊ちゃま!」
政子は頼朝の耳を引っ張った。

 

 

「こちら御所様のお召し物とお履物、御台様のお召し物とお履物でございます」
一人の男が、布に包まれたものを恭しく掲げる。
「あちらに漁師の小屋を借りて火を起こしてございます。お使いください」
もう一人の男が松明に火をつけ、海岸沿いの小さな小屋を指差す。

「ん」
頼朝は短く返事をすると小屋に向かって歩き出した。
「ごめんなさいね、こんな夜に。それも寒いのに」
政子は頼朝の腕の中から、付いて来てくれた兵達に小さく手を合わせる。
「いえ、滅相もございません」
兵達は顔を赤らめ、下を向いた。

まったく、もう。
政子は心の中で軽くため息をついた。
何で私がこの人の代わりに謝らないといけないの。
でも、いつもこうなのだ。
誰かに何かをして貰うのが当たり前だと思っている、お気楽、お貴族な頼朝の後始末をして回るのが自分の役目。
いつの間にかそうなっていた。
でも、政子はそのことは特段苦とは思わなかった。
長女として生まれ、弟妹たちの面倒をずっと見てきたからかもしれない。

それに今日はとても気分がいい。
久しぶりに外の空気を存分に吸ったおかげだ。

ほんの二、三年程前まで、政子は伊豆でのんびりと気兼ねのない生活をしていた。
それが、頼朝が平家に命を狙われために挙兵をすることとなり、生活が一変した。

無茶を承知の決起。皆一様に死を覚悟し、実際に敗戦の憂き目を見たのに、安房に無事逃げおおせてからは味方が続々と増えて行った。
あれよあれよと言う間に頼朝は関東の主として祭り上げられていく。
それと同時に、政子もその御台所としての立ち居振る舞いを求められるようになった。

人前に出ることは別にいい。政子は度胸には自信があった。
でも、じっとしていること、つまり貴族の姫のように何もかも人に任せるということは苦手だった。
それでも八幡姫が幼かったこと、万寿を身籠ったことなどもあり、しばらくじっと我慢していたのだが、万寿を生んで身軽になり、さあ育てようとした途端、万寿を取り上げられた。

「やんごとなき御方が乳をあげるなどとんでもございませぬ。そのようなことは乳母の仕事」
わからなくはない。京だけではなく、東国でも大豪族の姫はそうしているらしい。
でも政子自身や弟妹達は母にそのように育てられたし、自分もそうするつもりでいたし、実際に八幡姫の時は伊豆山神社に隠れ住んでいたこともあったし、そのように育てたのだ。
それにどうせ自分は “やんごとなき御方” などではない。

だから万寿もそうさせてくれと頼んだのだが、比企のばばあはにっこり笑って万寿のいる部屋の戸をぴっちりと閉めて言ったのだ。
「鎌倉殿の嫡男、万寿君の乳母たる栄誉を、我が比企一族が鎌倉殿より賜りましたのに、御台様はそれをお取り上げになるおつもりですか? 我が比企一族は御所様の乳母も務めあげた由緒正しき家柄。どうぞ万寿君のご養育は私共に安心してお任せくださいませ。それよりも御台様はお次の御子様をお生みになる方に専念された方が良いかと存じます。でないと北の方様としての地位が危のうございますよ? きちんとした後ろ盾のない御台様としましては、御所様のお気持ちだけが頼りでございましょう」
後ろ盾、つまり政子の実家の北条が小さい家だからと馬鹿にしたのだ。
そして同時に頼朝の浮気性を指摘して、正妻の立場を他の女に取られるぞと脅したのである。
ああ、むかつく。今思い返しても、腹の虫が治まらない。

「えい!」
政子は頼朝に抱き上げられたまま、その頼朝の背中を叩いた。
「痛っ! 何をする」
驚いた頼朝が声を上げる。
政子はそれには答えず、頼朝の首にしがみついたまま、「くそぅ」と呟いた。
絶対、絶対、絶っ対に、いつか万寿を取り返すんだから。

「悪かった」
耳の後ろから響く声に政子は「ん?」と思う。
「そなたの言う通りだ。浮気した私が悪かった。すまぬ。許せ」
ああ、と政子は思う。今、政子が怒っている理由が、自分の浮気のせいだと頼朝は思ったのだろう。

それはまぁ、確かに怒るし、悲しいし、寂しくもなるが、貴族は元々妻をたくさん持つものらしいし、東国だって妻を複数持っている者の方が多い。父、時政は正室・側室と二人以上の妻を同時に持つことはなかったが、それが珍しいことだというのは政子もわかっていた。
でも、そんなことを言って頼朝を安心させてやる必要はない。
「知らない」
政子は拗ねた口調で言うと、頼朝の肩に顔を埋めた。

安心する。
頼朝といると安心する。
胸が高鳴るとか、自分を良く見せたいとか、そういう気持ちには初めて会った時からなったことはない。
こんなことを言ったら、頼朝はがっかりするだろうが。
ただ、一緒にいると楽しかったし安心した。勇気が出た。だから、彼ならばと思ったのだ。

足音を気配を隠してくれる雨の中、政子は家を出て頼朝の元に走った。
怖かった。道も恐ろしかったし、苦しかった。
義時が黙って付いて来てくれたけれど、何度戻ろうと思ったかしれない。
頼朝が拒否するのではないかとも思った。でも頼朝は裸足で飛び出して来て、政子を受け止めてくれた。

その夜、その足で頼朝と政子は伊豆山の走湯権現まで馬で逃げた。
雨はいつか止んで、夜が薄く白んで来て。
走り通しの疲れと頼朝に会えた安心とで朦朧とする意識の中、東の空に上がって来る細い三日月が見えた。亡くなった母が笑ってくれているように見え、政子は自分は間違っていないことを確信した。そして今がある。

頼朝は、肩に顔を埋める政子の髪に頬を寄せ、すりすりと擦り合わせた。愛しそうに。
「夜の遠出は良いものだな」
「寒いから嫌よ」
「寒いからいいのだ。身体を寄り添わせる理由になるだろう?」
政子は顔を上げた。にやにやと人の悪い笑みを浮かべる頼朝がそこにいる。
「この、好色家!」
「お褒めいただき光栄だな」
「褒めてないわよ!」

ぎりぎり、と頼朝を睨みつける政子に、頼朝は笑いながら「でも」と続けた。
「そうだな、確かに政子はもっと外出したいだろうな」
政子はぱっと顔を輝かせた。
「いいの?」
馬で遠出に出掛けてもいいのだろうか?
「ああ。そなたの機嫌が良くなるなら、誰に何を言われても構わないさ」
「本当? 本当の本当に出掛けてもいいのね?」
「供だけは、一応ちゃんと連れて行けよ」
「うん、うん」
政子は細かく頷いた。供など、巻いてしまえばいいだけのこと。

「うん、政子はたまに身体を動かした方がいいだろう。でないと……」
「でないと、何?」
政子はきょとんとした顔で頼朝を見る。
頼朝はそんな政子にちらりと目をくれた後、いたずらな顔をした。
「しばらく抱かぬ間に重くなったようだ」
「は?」

よいしょ、と政子を抱え上げ直す頼朝。
政子は拳を握るとその顎めがけて突き出した。

 

名こそ惜しけれ(頼朝と政子)6

 

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