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流鏑馬神事(海野幸氏と大姫・後編)

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LULUSIA-ルルシア-

 

ー 流鏑馬神事(海野幸氏と大姫 後編) ー

「……お前何言ってんだら。神聖なる神事だぞ?」
「わ、わかってるわよ」

小太郎は呆れた顔をして八幡を見下ろしていた。
信濃の方言が出てる。相当呆れているのだろう。

その時、くすくすと忍んだ笑い声と共に衣擦れの音が続いた。

「許してあげて? 小太郎。そんなに悪気はないのよ」
八幡の母の政子だった。
こちらも先ほどの豪奢な衣は脱ぎ捨て、気楽な格好だ。

「母様」
八幡がほっとした顔をして母を見上げる。
政子はそれに笑顔で応えると、部屋の中央に進み、幸氏の前に座った。

「小太郎、おめでとう。海野家の若き棟梁の初お目見え、無事に済んだわね」
屈託のない声。先ほどの澄ました顔はどこかに置いてきたようだ。
「全然、無事じゃないですけど」
幸氏は八幡をちらと一瞥し、その場に腰を下ろした。

政子は苦笑して八幡を見る。
八幡は相変わらず赤い顔をしたまま口を引き結んでいた。

政子には八幡が悋気を起こしたことがわかっていた。
兄のように、弓や馬の師として、幸氏はずっと八幡の側にいたのだ。
それが突然、あのような場で立派に役を果たすことになった。
八幡としたら急に遠くなってしまったように感じたのだろう。

あの日、殺されるかもしれなかった幸氏の命を救ったのは八幡。
だから、八幡にとっては誰よりも特別な人であることは間違いない。
そう、木曽義高を除いて……。

「良い知らせがあるわ」
政子は海野小太郎の顔を真っすぐ見つめた。

義高も生きていれば、幸氏と同じようにこうやって政子の正面にいたのだろうか。
十六の義高と十の姫。あとほんの僅かで雛人形のような似合いの一対になったであろうに。

「殿があなたを近従にするとお決めになったわ。もう誰も文句はないだろうと」
幸氏の切れ長な瞳が、一瞬大きく見開かれる。
「おめでとう。あなたもこれで御家人の一人ね」
少しの間の後、幸氏は軽く目線を落とし黙って頭を下げた。

政子は微笑む。
「長かったわね」
義高が討たれてから、もう四年。まだ四年。
「いえ、命を許されただけで感謝しております」

「見ての通り、殿は武芸の方はいま一つだからね。腕の立つあなたが付いてくれたら私も安心よ」
「いえ、殿は御運の強い方ですから」
幸氏の返しに、政子は肩をすくめて笑った。
「運に過信しては駄目よ。八幡大菩薩様だって眠っている時間はあるのだから」
政子独特の言い回し。

「殿はああやって偉そうにしているけれど、直属の家臣や味方はほとんどいないの。安達殿やうちの北条くらい。だから、いざという時に身を賭してくれるような忠誠心ある家臣が欲しいのよ。あの人は挙兵してからずっと虚勢を張って生きてきたようなものだもの。だから小太郎が側にいてくれたら、私も心強いわ」
鎌倉中で唯一、頼朝に問答無用の否やを言える人間、北条政子。

幸氏が顔を上げた。
「でも俺は」
胸を押さえ、そこに詰まっているものを吐き出すように一瞬息を詰める。

八幡は彼が何を言おうとしているのかわかった。
柱の陰から飛び出して駆け寄る。
「俺は元々、鎌倉殿の……」
八幡は幸氏の背から抱きつくような形で、その口を手で塞いだ。

 
大姫と海野幸氏、流鏑馬

 
『敵』
 

それは言ってはいけないこと。
振り返る幸氏に、八幡は首を振る。

(駄目。言っては駄目。)

無言で視線を絡ませる二人。

「わかってるわ」
政子は頷いた。
幸氏の主人である源義高を殺したのは鎌倉の源頼朝。

「それでも、頼朝殿はあなたを信じているの」
幸氏は自分の口を塞いだ八幡の手を外すと政子を見た。
「おかしな人でしょう?」
政子は困ったように笑ってそう言う。

そう、頼朝は変な人だ。
他人など信じていないのかと思えば、呆れるくらい迷いなく深く信用していたりする。

「八幡、小太郎から離れろよ」
機嫌の悪い声が場の空気を破る。

五郎だ。
五郎は幸氏の背にかかった八幡の手を取り上げると、幸氏から引き剥がした。

五郎は八幡が生まれて少ししてより、ずっと共に暮らしてきたので、何事も八幡びいきだ。
北条の兄弟の中で一番の末っ子である彼にとって、八幡は妹そのものだった。
だから八幡が幸氏ばかりを気にするのが気に食わなかった。

五郎は仏頂面のまま、姉である政子に八つ当たりを始めた。
「なぁ姉さん、俺は一体いつになったら元服出来るのさ」
政子はそれを首を傾げて受ける。
「ああ、そうね、そろそろだったわね」
「だったわね、じゃないよ! 俺だって元服さえすれば、うんこ太郎なんか目じゃないのにさ!」

途端、幸氏が五郎を振り返る。
「五郎! 二度とそれを口にするな!!」
「うっさい! うんこ太郎! うんこ太郎!!」
殺気を出す幸氏を気にせず、五郎はべーと舌を出して顔の前で手をヒラヒラして見せる。
「お前……それが、弓の師匠に対する口の聞き方かよ!」
「へっ! うんこ太郎なんか、もうとっくに抜かしてるもんね!」
「俺は海野小太郎だ! うんこ太郎じゃねぇ!!」
下の言葉を連発し、襟元を掴み合って睨み合う二人。

政子は、ハァとため息をついてこめかみに指を当てた。
「二人ともやめなさい。ここは一応、御所内なのよ?」
京の御所に比べたら赤子のようなものだが、でも今この国で上皇すら一目置く武士の都、鎌倉の御所。

「五郎、あなたはそうやってお子様だからまだ元服が許されないのよ。もういい加減大人になりなさい」
政子は口を尖らせる五郎を軽くいなす。

それから八幡を膝元に呼ぶと、また幸氏に向き直った。
「小太郎、あなたのその真っすぐな所が私も殿も好きなのよ。姫もね」
その途端、八幡は顔をぱっと赤く染めた。
でも幸氏はまるで姫など見ていない。

自分の娘の幼い淡い恋のような感情を微笑ましく眺めながら、政子は幸氏に片目を瞑って見せた。
「だから殿が間違ったことをしたら遠慮なくぶっ飛ばしてやりなさい。それが近従の勤めですからね」
幸氏は少しだけ困ったような顔をした後、表情を引き締めて頭を下げた。

そう。
頼朝は彼を信用していた。もし殺されても仕方ないさと笑う程度に。
自分が殺させた義高の家臣だった幸氏。

だけれど、幸氏は絶対に頼朝を殺すことはないだろう。
無条件に自分を信じている人間を裏切ることなど、彼には出来ないはずだ。

「ねぇ、母様」
八幡が首を上げて政子に問いかけた。
「どうしたの? 八幡」

優しげな母の声に、だが八幡は言い淀んだ。
本当は聞きたくなかったのだ。
どんな答えが返って来るのかわかっていたから。
でも聞かないと覚悟が出来ない。

八幡は拳を握ると口を開いた。
「小太郎が父様の近従になるということは、これから小太郎はここに来られないの?」
「御所には来ますよ。お勤めがあるからね」
「でも」
「ええ、でもあなたと遊びに来るわけではないの。殿の側近として、御家人の一人となるのですからね」

(やっぱり……。)
八幡は表情を曇らせる。
母は、その八幡の心境を誰よりもわかりながら、静かに微笑して見せた。
「小太郎にお祝いをしなくてはね、八幡」

八幡は目線を下に落とした。
「小太郎の馬鹿」
小太郎の眉が上がる。
八幡の声が大きくなった。
「小太郎の馬鹿、馬鹿、馬鹿。うんこ太郎」
「……あぁ?」
部屋の中の空気が一気に冷える。

「これ八幡! 小太郎、ごめんなさいね。この子、拗ねてるのよ。嫉妬してるだけ」
母の不用意な一言に八幡は身を固める。
「嫉妬?」
怪訝な表情をする幸氏。
「ええ。小太郎が射抜いた途端に女官達の空気が変わったから」
「空気が? どういうことですか?」
首を傾げて政子に問う幸氏。
八幡は、バッとその場に立ち上がった。

「そうよ! 嫉妬してるわよ!」
顔が熱い。目が泳ぐ。母様の馬鹿。
「だって、ずるいんですもの。どうして私は流鏑馬神事に参加出来ないのよ!私だって五回に一回くらいなら小太郎に勝てるのに!」
笑うだろう。呆れるだろう。
「そうだよなぁ。俺だって三回に一回くらいなら勝てるけどなぁ」
助けてくれているのか、いないのか、五郎の声が続く。

八幡は指を幸氏に突きつけると叫んだ。
「見てなさい! 今度の流鏑馬では私が射手に選ばれて見せるから!」
あっけに取られた顔がこちらを見上げる。
幸氏が何かを言おうと口を開く前に、八幡は部屋から飛び出した。

 

八幡はパタパタと駆けて部屋に戻る。
小御所の中で姫の部屋は南向きの一つ。
でも、今日は侍女達に紅潮した頬を見られたくなかった。
だから北の空いた小部屋に飛び込む。
何も無いガランとした小部屋。冷たい空気が心地よい。

そこで八幡はホッと息を吐いて熱くなった頬を冷やした。

公家風の緋色の衣装がよく似合っていた。
小太郎自らではけして選ばない、纏わない色。
神事の射手として選ばれたからこその華やかな衣装。

 

その時、クツリと何かが咽を鳴らした。
部屋の隅、埃の沈む空気の澱み。
ユラリと影が立ち上がる。

『やあ、八幡』

姫は息を呑み、それから口角をゆっくりと持ち上げた。

「こんにちは、義高さま」
挨拶をする。声が震えないように気をつけて。

『相変わらず、姫は小太郎がお気に入りだな』

優しい声、柔らかな笑顔。
でも、そこには何かを含んだような色が乗っている。

『八幡は本当は小太郎のことが好きなんじゃないの?』
昏い、光の届かぬ、影の落ちやすい所に彼はいて、深い闇の底からじっと八幡を見つめる。

姫は彼を見返すと、そっと頭を振った。

「いいえ、私が好きなのは今も昔も、あなただけよ。義高さま」

 

ー 終 ー

 

 

ひとこと

大姫と義高の純愛が好きです。
でも、敢えてその後も生きた人間として大姫を書いてみたいと思いました。

いない人を想い続けることは難しいことと思うのです。
それは忘れることとは勿論違うけれど。

この時代、『吾妻鏡』やその他で強調され、もてはやされるのは貞淑な女性像。
ということは、この時代の女性は逆にほとんど貞淑ではなかったということ?
または貞淑で一途なのが当たり前だから普通にそう残っているのか、どっちなんでしょうね。
編纂してるのはほぼ男性ですから、男性の願望が多少なり入ってるでしょうけれど。

 

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