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琥珀の龍紋―北条時政―16<アマカケル外伝>

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「おお、これは来客とは失礼した」

 源頼政。やはり武人というには似つかわぬ、おっとりと細く柔らかな人物だと四郎は思った。和歌を詠んでいる方が似合う。鵺を退治したという話は、実はその家人の武に依るところが大きかったのではないだろうか。

 そんな失礼なことを考えながら低頭する四郎の上を、菖蒲の前の声が通っていく。

「昔、伊豆で母と私が大変お世話になった北条殿の次郎君ですわ。偶然お会いしてお招きしましたの。今は平宗親殿のお側にいらっしゃるそうで、殿はお見かけしたことがあるのではなくて?」

「平宗親殿のと申せば……。おお! ”伊豆の小天狗”とは、あなたのことですか」

 ”伊豆の小天狗”。四郎の裏の名だ。頭がきれそうに見えて意外に迂闊な人間かと、軽い苛立ちを覚える。

 菖蒲の前や香菜の様子をちらりと窺う。女は概してお喋りが多い。おまけに彼女達に四郎の身元は割れているのだ。

「いえ、お人違いでございます」

 四郎ははっきりと頭を上げて頼政を見た。それで気付いたか、頼政はごにょごにょと口の中で謝罪の言葉を転がし、「ああ、それよりも」と無理に話題を変えた。

「この暑さで、主上のお具合がいよいよよろしくないようで……」

 四郎はそっと目を伏せる。確かに帝がこの夏を越えられないだろうという噂は回っている。だが、院の近臣である頼政が口にしていい内容ではないはずだ。

「おいたわしい。院もさぞご心労の絶えないことでございましょう」

「実は呪詛ではないかとの噂もあって、方々に手を尽くされているようなのだが……」

「まぁ、恐ろしいこと」

 呪詛などと不穏な話題をはんなりと進める菖蒲の前と頼政の声を、四郎は聞いていないふりをして聞いていた。

 帝が崩御すれば、次の帝位をめぐって鳥羽院と崇徳院の争いになる。現時点で権力を握っているのは鳥羽院だが、その鳥羽院も既に五十を過ぎている。崇徳院は鳥羽院の死を手ぐすね引いて待っているに違いない。

 だから自分の死後のことを考えて鳥羽院も手を打つはず。つまり重仁親王が即位することはない。だがその時、その乳母である池禅尼や平清盛はどう動くのか。

 四郎はじっと押し黙りながら考えを廻らせていた。世がどう転ぶのかを。

 

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