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琥珀の龍紋―北条時政―18<アマカケル外伝>

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 富士の山を横目に、三嶋から伊豆へは下りず山道を北東へと進み、箱根を抜けて相模国へと入る。鎌倉は、山に囲まれた小さな、だがそれなりに賑わう寺社町だった。

「院よりの内々の宣旨である」

 四郎は頼政から受け取っていた書状を手に読み上げた。

「武蔵国の秩父重隆は摂関家に従するを奢り、一族相争い、また足利や新田など近隣の氏族とも抗争を繰り返している。速やかにこれらを収め、清き平けき地を取り戻し治天の君にお返しするよう」

 じっと頭を下げ、そこで息を継ぐ。

「内々の、ということは院宣としては掲げられないということか」

 返された若い声に「おや」と思う。意外に察しがいい。顔を上げれば、自分より僅か年下の少年が憮然とした顔で四郎を睨みつけていた。

「ならば、わざわざ武蔵国まで出張って行って叔父と争うなど無駄なこと。他家の領土への介入は下手をしたらこちらが罪人として咎められよう」

 「源義平は武に勇あり」との噂から、すぐにも話に乗ってくるかと思ったが意外だった。こんな都から離れた地で、また元服してそれ程経ってないだろうに、なかなかに考えが深い。

 横にて黙ったままの三浦義明に目をやれば、義平の言葉に賛同するように顎に手を当て、静かに四郎を眺めていた。

 だが四郎は既に裏をとっていた。

「ご安心なされよ。咎はございません。武蔵守である藤原信頼殿から同意を得ています」

 途端、甲高い笑い声が床を弾いた。

「藤原信頼殿といえば奥州とも繋がりが深い。これはどうやら裏がある。介入せねば却ってご不興を買うということか」

 奥州藤原氏。金や馬を算出し、伊勢平氏とは別の交易で富み栄えていた。

「院はよほど内乱がお好きと見える。よかろう、我が乳母である秩父の尼にも助力を頼まれていた所だ。叔父に恨みはないが、祖父は我が父が気に入らぬと廃嫡した。その恨みは晴らさせてもらおうか」

 くくく、と愉しげに肩で笑っている。物騒な少年だ、と四郎は思った。身体つきもしっかりとして四郎より随分大きい。武によほど自信があるのだろう。

 三浦義明はと見れば、表情を読ませないかのように静かに目を伏せていた。でも、その頬は軽く緩んでいる。

 三浦義明の娘は、秩父重隆の兄の子である畠山重能の正室。この争いで秩父が滅びれば、秩父の土地も家督も娘婿が手に入れるのだ。悪い話ではない。

 だが、と思う。

 親と子、兄と弟が互いに争い、土地をめぐって殺し合う。

 その結果としてそれらを手に入れても、敗者に遺恨を残して数年後にまた甥と息子が争う。

 疲れないのだろうか。土地とはそんなに大切なものか。

 なるほど武士にとっては生き繋ぐ地盤となるもの。でも自分は土地などいらない。そんなものに固執したくはない。

 それよりももっと楽しいことがある。世の中はもっと面白い。人の心を先回りして読んで、思いの通りに動かす。世の中を動かす。自分ならきっとそれが出来る。

「俺が、世の中を変えてやる」

 左右を山に囲まれ、美しく静かに広がる白い入り江。そこから無限に広がる海を眺めながら、四郎はそっと誓った。

 

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