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琥珀の龍紋―北条時政―20<アマカケル外伝>

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「阿岐」

 後ろから抱きしめる。悲鳴があがりかけた口を素早く掌で覆い被す。

 うなじに唇を寄せれば、懐かしい香りがした。でも……

「痩せたか?」

 阿岐の身体はほっそりと、骨が浮く程に華奢になっていた。

 するりと抜けた身体から鋭い手刀が飛んできて、ぱんと手が叩き落とされる。

「どうして文を返してくれなかったのよ」

 その瞳は夕闇の色を映して暗く沈み込んでいた。

「済まない」

 それ以外に言葉はなかった。

 腕の中から逃れた阿岐は、守山八幡の石段をたんたんと苛立たしげに数段踏み上がり

「いいわよ、別に」

 振り返って四郎を見下ろした。

「どうせ京の都で美女でも見つけて、色事に夢中になって遊び呆けてたんでしょ。田舎娘のことなんか忘れて」

 黙ったまま首を横に振る。

「おかげさまで、私は北条の嫁として元気に働いてますから、ご心配なく!」

 そう。予定通りなのだろう。父にとっても阿多美の伯父にとっても。

「太郎は殿にも大殿にも可愛がられて、病一つかからず無事にすくすく育ってるし」

 父も兄も太郎を北条の嫡男として目に入れても痛くない程に大切にしているのはすぐにわかった。だが、だからこそ余計にやるせない気持ちになる。

 いや違う。奪われたことを赦せなく思うのだ。例えそれが筋違いで不当な言い分だとわかっていても。

「何か言いなさいよ。言い訳でも聞いてあげるからさ」

 阿岐の声が高くなる。挑発的な口調。

 四郎は段の上の幼馴染みを見上げた。残紅に溶けて消えてしまいそうな輪郭。その中で瞳だけが燻りながらも小さな炎を宿している。

「何よ。都の女は男と軽々しく話なんかしないって? いいわよ、もう帰りなさいよ!」

 身を翻して石段を駆け上ろうとする手首を掴む。強く引いて落とす。自分の腕の中に。

「俺は変わらない」

 陽の香りのする髪に頬を当てる。でも。

「私は変わったわよ!」

 飛んでくる平手を反射的に避け、鳥居の外へと身をかわす。

「明け方、鳥の鳴く前に、またここで」

 それだけを言い置い、館に向かって歩き出す。返事は聞かなかった。

 守山八幡の横、狩野川の水を引き込んだ堀に囲まれる館。平地で小さいながら見た目より守りが堅いのが自慢だ。その向こうに広がる青い稲穂の海。山の切れ目からこぼれた夕陽が田の水に落ちて照り返し、若い緑の穂先を朱金に染める。まるで収穫前のように。

 やはり美しい土地だ。自分の生まれた土地。死ぬならここで死にたい。

 だが、それでも四郎は京の都を思った。

 

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