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琥珀の龍紋―北条時政―35<アマカケル外伝>

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 木々の谷間、月の光が僅かに落ちる静かな広場に二人は立っていた。

 眠っていた所を起こされたのだろう。目をこすって兄にしなだれている太郎。その身体をしっかりと抱きかかえている太い腕。

 それを見た瞬間、沸き上がる怒り。

 返せ。

 声に出さぬよう怒りを懸命に堪え、頭を働かせる。乾いて張り付く唇を懸命に開く。

「館へ戻りましょう。父が呼んでいます」

「太郎は渡さぬ」

 兄の瞳は青白く燃えていた。

「狩野殿へも取りなしてくださると」

「廃嫡させて何もかも奪う気だろうが」

 会話が噛み合わない。兄の顔は妙に落ち着き過ぎていた。四郎はカタカタと震える自分の歯を必死で喰いしめる。

「どこへ落ちるおつもりです。戦は既に終わってます。このままでは残党狩りに遭うばかりです」

「他の何を私から盗ろうとも、この子だけはお前に渡さぬ」

 踵を返して走り去る兄。その手の中の抜き身の大刀が、ぎらりと月光を反射する。恐怖に足が竦む。だが兄の肩越しに見えた太郎の瞳が自分に助けを求めているように見え、それを力に前に足を出す。走り出す。

 まさか兄が太郎を殺すわけがない。太郎の身を人質に話を有利に進めようとしているだけだ。

 そうは思えど不安で足がもつれる。

 どうする。どうすればいい。兄とまともに正面からぶつかって勝てる見込みなど皆無だ。

 だが、ふと気付く。この先は隠れんぼをした広場。ならば木々にかけた仕掛けの罠がまだ残っているかもしれない。それを上手く利用して兄の気を逸らせば、太郎を取り戻す機を作れるかもしれない。

 そう心を奮い立たせて追った先、四郎は信じられぬものを見た。兄の刀が太郎を目指して振り上げられている。

 違う。これは脅しだ。いつもの罠だ。太郎を取り返そうと四郎が飛び込んで行った所を返り討ちにする気なのだ。幼い頃もそうだった。獲物の兎を取り合って、何度四郎は騙されたことか。

 だから四郎は足を止めた。

 でも、兄の腕が落ちる。下には太郎の小さな頭。直後、林の中をつんざく小さな子の悲鳴。

「兄上ぇ!」

 夢中で飛び込んでいた。右手の大刀を兄の刀にかち合わせて間合いを詰める。左手に隠し持った短い鎧通しを逆手のまま、兄の兜と鎧の接ぎ目に力いっぱい差し込んだ。太い首をぐるりと廻らせる。飛び散り、雨の如く降り注ぐ鮮血。

 血溜まりの中に落ちる太郎。その上に覆いかぶさろうとする首のない大きな身体を蹴り飛ばす。

「太郎! 太郎!」

 叫んで抱え上げる。火がついたように泣き叫ぶ子。必死で身体に残る刃の痕を確認する。その肩を少し斬られている程度だった。出血はあるものの命に別状はない。やはり太郎を殺す気などなかったのだ。ほっと安堵の息をつく。

 それからそろそろと我が身を見下ろした。どこにも刃が当たっていない。恐る恐る顔を上げる。

 木々の間に横たわる大きな体。その肉体からは既に魂が抜けていた。ただの肉塊となっていた。その首から泉の如く噴き出し続ける大量の血とそれを飲み込んでいく暗い大地。

 四郎は突如、奇妙な感覚に襲われた。

 おかしい。あそこに倒れているのは自分ではないのか?

 あの武に優れた兄が剣筋を誤る? ありえない。

 あの兄が、四郎の左手の隠し刃に反応出来ぬ筈がない。多分……いや、間違いなく気付いていた。なのにそれを避けず、ただ右手の太刀を四郎の意のままに流させた。

「兄さん……」

 こちらを向く兜の中の首。静かに死を待つ顔。

 兄は、四郎に殺されにここに来たのだ。

 

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