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琥珀の龍紋―北条時政―41<アマカケル外伝>

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「おめでとうございます。とても美しい姫がお生まれになりました。予定より早かったのでお小さいですが、元気な産声で。……ただ」

 そこで彼の目が下に落ちる。胸がぎしぎしと音を立てて軋む。

「阿岐は……阿岐は死んだのか」

 震える声で問えば、乳兄弟は首を急いで横に振った。

「いいえ! ……ですが危ないとのことで、急ぎ私が来ました」

 そうだ、先程のは生き魂だった。ならばまだ間に合う。

 四郎は身一つで馬を駆けた。今度こそ間に合わせなくてはいけない。

 

 館にたどり着いたのは夜だった。赤子の泣き声らしきものが微かに外まで届いている。

 火を焚いて外門を警護していた男たちに咎められるが、逆に一喝して炎に自分の顔を照らす。早く門を開けろと怒鳴る。

「まさか、こんなに早くお戻りとは」

 驚く門番達を蹴倒すようにして門をくぐり、興奮したままの愛馬の鼻面を軽く叩いて礼を言う。そのまま手綱を放り出して母屋へと走った。

 母屋では白く清められた産室はそのままに、畳が敷かれ、僧が何かを唱えていた。

 間に合わなかった。また俺は間に合わなかったのか。

 膝ががくがくと震え、堪らずに床に落ちる。その衝撃で皆が振り返る。赤子は一瞬泣き止み、それから今度は火がついたように泣き始めた。畳の脇で赤子を抱いていた乳母が、慌てて宥めにかかる。

 その時、阿岐の睫毛が微かに揺れた。そして現れる琥珀色の瞳。

 四郎はほっと息をついて、阿岐の側へと寄った。

「阿岐、すまない。今戻った」

 琥珀色の瞳が細まる。三日月のような美しい弧を描き、その端から雫が溢れ流れ落ちていった。

「もう大丈夫だから。だから」

 京に飛んできた阿岐は血色もよく、若々しい十五の阿岐だった。なのに今横たわるのは、痩けた頬に血の気のない枯れ木のような……。

「お方様は出産後の出血が止まらず……」

 乳母が涙ながらに話す声が煩わしい。四郎は首を横に振ると阿岐の頬に頬を寄せた。冷たい。

 「四郎」と音は出ずに唇が動く。頷く。阿岐の唇がまた動く。でも何を言おうとしているのかわからない。口元に耳を近づける。聞こえない。ただ、すぅと息を引き込む音がした。

「阿岐、聞こえない」

 顔を上げる。その途端、悲鳴が上がった。

「姫様……!」

 阿多美から供をしてきた乳母が激しく泣き出す。四郎はもう一度口元に耳を近づけようとして、乳母に突き飛ばされた。何がなんだかわからぬまま、阿岐の縁者達が泣き崩れ、死に水が取られていく。

『四郎』

 阿岐の声が聞こえた気がして、四郎は後ろを振り返った。

 生まれたばかりの赤子がぱくぱくと口を開け締めして何かを咀嚼するように舌をちろちろと出していた。じっと見つめれば赤子も四郎を見た。阿岐に似た琥珀の瞳が光を帯びて黄金に煌めく。

 その瞳には見覚えがあった。龍の目だ。

「お前は……魂を喰うのか」

 赤子は返事をするようにそっと目を細めた。目尻で弾け零れる光の泡玉。

 四郎は阿岐を見た。美しい顔、満ち足りた顔で眠っていた。あの日の言葉が蘇る。

 『この子は龍の子だから』

 ならば、この子には美しい魂だけを食べさせよう。そうすれば、きっと天で一番美しい龍となる。

 

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