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腑抜けの三郎―北条重時―04

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 鎌倉初期、江間の館は御所の南方に小じんまりとあった。頼朝の近従だった義時がすぐに参内出来るようにと御所の間近に建てられたのだ。その小さな庭ではいつも子供達の声が響いていた。

「ほら腑抜け! もっと力を込めてかかって来なきゃ、あっという間に殺られるぞ!」

 次郎兄の剣の稽古は厳しい。気付くと手や足が傷だらけの血まみれになっている。

「三郎、馬も道具も対する時は丁寧を心がけよ。けっして気を抜くことのないように」

 泰時兄の乗馬の稽古は静かで穏やかだけれど、礼儀・作法にはかなり煩かった。

 父は弓や馬の稽古はつけてくれない。でも三郎を膝に乗せ、多くの書を読んでくれた。普段ほとんど声を出さない父が書を読み聞かせる時だけは声が大きい。楽しそうに読む父の顔を見上げる時間が三郎は好きだった。

「もう暗くなってますよ。あなたったらまた書ばかり読んで」

 母が笑顔で現れると父は初めて気付いたように目を上げる。それから「足が痺れた」と三郎を膝から下ろし、しっしっと厄介払いして笑顔で母に向かう。母が満開の笑顔を見せる。

 母は鎌倉一の美人。子供の目から見ても二人は睦まじく、仲の良い兄弟がいて、鎌倉の賑やかな通りを歩く人の笑い声が聞こえ鳥の囀りが聴こえ、三郎は毎日が楽しくて仕方なかった。

 この生活が続くことに何の疑いも持っていなかった。

 

――ピチャン。

 微かな水音にゆっくりと瞼を開ける。真っ白い壁に覆われた仄白い洞窟のようなその空間をぼんやりと三郎は見回す。

 一面壁に覆われているのに、どこからか光が差し込んでるわけでもないのに、火が焚かれているわけでもないのに、何故か明るい空間。まるで壁自体が発光しているかのようだ。

――ボロ……ン。

 弦の震えにハッと首を廻らせる。壁に背をもたせ一人の少女が琵琶を抱いていた。

 年の頃は三郎と同じくらい。だがその身は着物を羽織らぬ裸体で、肩や腰にかかる長い髪は黒々と濡れている。しかし目を引いたのは腰から下。それは人の脚の形こそしていたが、鈍く虹色に輝く魚の鱗に覆われていた。

――人魚だ。

 

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