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腑抜けの三郎―北条重時―08

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「巴……」

 赤茶の手無から抜ける小麦色の長い腕。向日葵色の帯下の着物は丈が短く、膝から下はまた小麦色の長い足が伸びる。乙姫より僅かに年かさか、年頃の娘らしく程よく肉がついたふくらはぎや滑らかな線を描く首もと。美しい線を惜しげも無く晒し、巴と呼ばれた娘は手にした文を大男の前に突き出した。

「伯父上がお呼びだぞ。何やらかした?」

 大男は童のような拗ね顔でそっぽを向く。

「別に。荷を少し横流ししただけじゃんか」

「はぁあ? またかよ!」

 小舟のへりを蹴り飛ばして大男の小舟に飛び移ると、巴は大男を殴り始めた。

「もうやらねぇって約束したくせに!」

 ボカッ、バキッ、と容赦のない音が響く中、船では荷の積み替えが順調に進んでいた。父娘のこれは水夫達には見慣れた風景であった。

「お館、次の荷は船を換えますか?」

 秀太の問いに、大男は殴られた頭をさすりながら顔を上げる。

「いや、あれは底を焼いたばかりで一番足が速いだろ。漕ぎ手は全取っ替えでな」

 それから嬉しそうに秀太の背を叩いた。

「秀太、お前またデカくなったんじゃないか?」

 秀太は父無し子の貰い子だ。だが大男は彼を信用して何でも任せていた。秀太の肩を抱き、上機嫌で大音声をあげる。

「おーし、てめぇら! 相撲やるぞ! 最後まで濡れなかったヤツに褒美をやる!」

 その掛け声に、体格のいい男共がヒョコヒョコと荷の間から顔を出す。

「お館! 褒美は何ですかい?」

「女か、酒か?」

「いいや、本家からせしめた駿河の馬だ」

 歓声を上げる男達。ちなみに海上で相撲をどうやるのかと言えば、小船を連ねるのである。土俵から落ちれば海の中。時には組み合う相手との小船が離れていることもある。そんな場合には義経の八艘飛びよろしく小船の上を男達は飛び越え、入り乱れて戦った。

 ドボーン! バシャーン! 盛大な水音と男達の嘲笑、歓声がうるさく入り乱れる中を、巴と乙姫は呆れ顔で男達を眺める。

「男って馬鹿だねぇ。海の上じゃ馬なんて何の役にも立たないのにさ」

「本当、とんだ間抜けよね」

 顔を見合わせて笑う。巴は乙姫にとって大切な姉であり友であり恩人であった。

 
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