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腑抜けの三郎―北条重時―13

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 その途端、少女は目を丸くして絶句した。それから人差し指を三郎に向ける。

「あんたが武家の子? 嘘でしょ」

「嘘じゃない」

「わかった。なんちゃって武士でしょ。都落ちした平家の一門にも入れてもらえないような傍流の傍流のさ」

「確かにうちは平家だけど」

 途端、少女が「そうよね」というように肩を竦めたので、つい止めておけばいいのに続けてしまう。

「でも鎌倉じゃ、それなりなんだ」

 言いながら自分の名を思い返す。北条三郎。今の鎌倉で一の権威、北条家の三男。まだ元服前だが十五になる来年には元服の為に鎌倉に戻るよう父に言われていた。

「それなりって、名のある御家人だって言いたいわけ? どこの氏族よ」

「それなりは……それなりだよ」

 追及する少女から逃れて三郎は横を向いた。北条の名は出したくなかった。

 そうだ、自分は北条の名など捨てるのだ。僧になって京に残ろう。自分は三男だし自分の上には次郎兄も泰時兄もいる。それに鎌倉には父の後妻が生んだ腹違いの弟達もいた。

 三郎の幼い頃の名は江間三郎だった。それが北条三郎に変わったのは、父が祖父を陥れて北条家を乗っ取ったからだ。父は母と別れて人が変わってしまった。優しく穏やかだった父はもういない。

 八年前、父と離縁した母は縁戚を頼って京へ上り、源具親と再婚した。

 具親は公家では珍しい人物だった。権力欲がなく、気さくで誰とでもすぐに打ち解けた。和歌の才を多分に持ち、名声を欲しいままにしながら和歌よりも武芸が好きと豪語して憚らない。

 だから武家の姫である母と結婚をしたのか、でも二人の仲は三郎から見ても睦まじかった。具親は血の繋がらぬ子である次郎兄と三郎を可愛がってくれた。公家らしくゆったりと優雅に和歌を学び、絵巻物を眺め、気楽に弓の稽古をする。三郎には極楽と言える生活だった。

 でも三年程経って鎌倉のことを忘れかけた頃、母が病で急死する。次郎兄は既に元服を機に鎌倉に呼び戻されていた。三郎は京で途方に暮れる。

 居心地の良い具親の屋敷を出て、血生臭い鎌倉に戻ることを覚悟したが、具親は「元服までここに居ればいい」と言ってくれた。それに甘えて四年、公家の子として京で暮らした。鎌倉の父は何も言わなかった。でも来年はその京ともお別れ。

 そんなあれこれを思い出して暗く沈んだ三郎を見て、具親が仲裁に入ってくれる。

「まぁまぁ、せっかくだから我々も祇園社の本殿に詣でようじゃないか」

 抗議の声をあげた三郎を無視して、具親は更に続けた。

「その代わり、君も一緒に法然殿に会いに行かないか」

「法然殿? それ、どなた?」

 首を傾げる少女に具親は優しく頷いて答える。

「『南無阿弥陀仏』と唱えれば、誰でも極楽浄土に往生出来ると説いたお坊さまだよ」

「誰でも? 女でもいいの?」

「ああ、法然殿の元には内親王様や白拍子などの女性も多く訪れているよ」

「ふーん……」

 少し心が動いたらしい。少女は小さく頷いた。三郎はそっぽを向く。

「ところで、あなたは公家なの?」

「まぁ、一応そうかな」

「あまりそう見えませんね」

 はっきりと物を言う少女に、具親は苦笑して見せた。

 

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