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腑抜けの三郎―北条重時―15

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 茂みから飛び出すとカラスがとまった杉の木の根元に駆け寄る。首に吊るしていた守り袋を胸元から探り出し強く握りしめると、瞼を下ろして小さく唱えた。

「弁天様、龍神様、お願いです。あの黒猫を私にください。大切に育て、きっと天命を全うさせます。オン、ソラソバテイエイ、ソワカ。オン、ソラソバテイエイ、ソワカ」

 弁才天の真言を口に乗せてしばらくのこと。突如、警戒するようなカラスの声が辺りに響き、小さな黒い固まりが落ちて来た。三郎は袴の裾を持ち上げ、その黒い固まりを受け取める。

 恐る恐る中を覗き込むと、黒い鼠のような固まりが「フニャア」と鳴き声をあげる。覗く桃色の舌。鳴き声を聞いた少女もフニャアという顔になった。

「良かった、良かったよぉ」

 黒猫の額には爪を引っ掛けられたか小さな傷がついていたが命には関わらないだろう。

 少女は子猫を胸に涙を流している。三郎はほっとして大きく息をついた。

 守り袋の中の玉はやはり母が言った通り弁天様の玉に違いない。胸の中で弁天様への感謝を呟き、もう一度袋の上から玉を指でなぞる。

 その瞬間、不思議な感覚が三郎を襲った。チリと痺れが走ったのだ。

 直後、玉は突然ズシリと重みを増した。

「ぐ……っ!」

 膝をついた三郎に、少女が驚いて顔を上げる。

「どうしたの?」

 首を落とされそうな感覚に、三郎は守り袋の紐を引きちぎった。その反動で袋の中から玉が飛び出す。慌てて手を伸ばした三郎の目の前で、玉はその輪郭を消した。直後、その内から強い光が放出される。

 キィン、キィン、キィン!

 耳をつんざく高音。同時に辺りは急速に闇に包まれていった。玉が光を吸い取っている。光だけではない。音もだ。人のざわめき、読経の声、鳥の鳴き声。全ての音が波が引くように二人の周りから遠ざかって行った。

「何が起きたの? 地震、それとも噴火?」

「知らないよ!」

 神社の本殿がどろりと闇の中へ溶けて落ちて行く。直後、激しい地鳴りと共に二人の足元の地面がぽっかり大きな口を開けた。地の底へと呑み込まれる。石礫が二人を襲う。

 ゴォン、ゴォン、ゴォン……。

 重く、空気を震わせる轟音。外界から遮断された不思議な霧の中を二人は何故かゆっくりと落ちて行った。いや、落ちているのか上っているのか分からない空間を漂っていた。濃い霧の中を時折何かの影が揺らめく。だがすぐに消える。

 二人は手を繋ぎ、身を寄せ合いながら周りを見回した。時折さざめくような人の声がする。閧の声のような男達の怒号が聞こえる。海の中にいるように耳が遠い。音がくぐもる。ぼこぼこと泡が立つ。馬の嘶き。鎧兜がぶつかり合う音。櫓を漕ぐ船の音。鏑矢の唸り声。ぱちぱちと炎の爆ぜる音と共に火の粉がぶわっと広がり舞う。三郎は袖を翻してそれを払った。滝の轟音。狼の遠吠え。

 気付けば三郎の目の前に一振りの小振りの刀が浮いていた。見覚えのある赤い柄に三郎はこくりと唾を飲み込む。

「これは、父の……」

 あの日、江島で次郎兄が手にしていた小刀。恐る恐る手を伸ばす。

 だが指が柄に触れる直前、どこからか現れた白い手が三郎の手首を強く掴んだ。慌てて手を引こうとするが、圧倒的な力で押さえつけられ、びくともしない。

 刀の向こうに映る一人の男の顔。血の気の少なく透き通るような顔色をした面長の青年。髪は真っ白に色が抜け、眼は老人のように昏く、深く鋭く三郎を睨み据えていた。まるで仇でも目の前にしているかのように。

 

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