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腑抜けの三郎―北条重時―01

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第一章「江島の辯才天」

 凪。強く吹き荒んでいた海からの風がぴたりと止まる。むぅとした地熱がじわじわと喉を締め付ける腰越の海岸。不気味に海に浮かび上がる江島の島影を背に、幼い少年が兄に懸命に取り縋っていた。

「ねぇ、帰ろうよ。龍に食べられちゃうよ」

 日は遠く伊豆山に隠れ、朱に染まっていた空は薄灰色に変わりつつある。つい先刻までくっきり長く伸びていた足元の影は消えかけていた。

 亀の甲羅のように海上にこんもりと盛り上がる江島。まるで大亀が首と手足をぞろりと出し、重い瞼を持ち上げて「帰れ、帰れ」と少年らを睨んでいるようだ。

「腑抜けの三郎。なら付いて来るなよ」

 冷たい目で見下ろされ、三郎は首を竦める。「次郎兄が無理に手を引っ張って来たんじゃないか」と、そう言いたいのを我慢して兄の袖を引っ張った。三郎は六つ、次郎兄は十一。幼い三郎はまだ館までの道を覚えていない。

「泰時兄ならもう来ないよ。だから……」

「いいや、絶対に来る」

 妙な確信に満ちた声で次郎兄は江島を睨みつけた。泰時兄は二人の長兄だ。腹違いで歳も十以上違ったが、二人は泰時によく懐いていた。その兄がこっそり出かけるというので、次郎兄が三郎を誘ってここまで来たのだ。

 建仁三年、鎌倉。英雄・源頼朝は四年前に没し、主を亡くした東国政権は迷走を始めていた。正月に不吉な託宣があり将軍が体調を崩す。八幡宮の鳩の首が落とされるなどの怪異も報告された。

 頼朝の跡を継いだ頼家には比企の姫が生んだ嫡男がいたが、まだ三郎と同じ六つ。次期将軍の座を巡って、頼家の嫡男を推す比企氏と、頼家の弟を推す北条氏の間には軋みが生じていた。

 そんな時期に北条の孫二人が姿を消したとあれば大騒ぎになるに違いなかった。

「お腹も空いたし、一度帰って出直そうよ」

 館に戻れればこちらのものと思ったのに、次郎兄は無言のまま竹の皮で包んだ握り飯を三郎に突き出した。早とちりでうっかりの兄にしてはやけに準備が良い。仕方なく握り飯を受け取った三郎だが、それを口に入れた途端吐き出した。

「しょっぱい!」

 直後、兄の拳が三郎の頭に落ちる。

「ちょっとくらい我慢しろ! 戦では武士は塩を舐めて士気を高めるんだぞ」

 ちょっとどころではすまない塩辛さなのだが、兄の厳しい表情に三郎は仕方なくもそもそと口を動かして食べる振りをした。それを見て次郎兄は満足げに頷く。

「俺達は今から戦に行くんだからな」

 『戦』と聞いた瞬間、三郎は文字通り震えて飛び上がった。

「僕、戦なんか行かないよ。死にたくない」

 途端、また次郎兄の目が鋭く光る。腰の木刀を前にひゅっと振り払うと一喝した。

「腑抜け! だからお前は駄目なんだ。俺は早く立派な武士になって家督を継ぐぞ!」

「え、家督は泰時兄が継ぐんじゃないの?」

「俺は正室の嫡男だ。俺が継ぐのが筋だろ。お前も正室の子なんだから可能性がないわけじゃない。もっとしゃんとしろ」

「僕はいい。僧になるから」

 首を横に振って後ずさった弟に、兄はあからさまな侮蔑の色を見せてそっぽを向いた。

 そうしている間にも、辺りは闇に呑まれ始めていた。館のある稲村の崎の方角を眺めれば、崎の稜線は黒く、その上に緋袴のような大きく満ちた月が顔を出している。

 母が心配しているだろう。父が怒るだろう。でもこういう時、ひどく叱られるのはいつも次郎兄だった。次郎兄は一言も弁解せず、三郎の分も父の叱責を受けてくれる。

 三郎はそっと溜息をついた。ここまできたらもう兄の邪魔にならないよう黙って付いて行くしかない。二人揃って無事に館に帰るしかない。

 そう決意すると三郎は手の中に残っていた握り飯を口へと詰め込んだ。じゃりじゃりと鳴る塩。吐き戻しかけるのを無理に水で奥へと流し込むと、口元の汚れを拭う振りをして零れた涙を隠し拭った。

 

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