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頼朝・北条好きFanSite「あづまがたり」

六連銭(真田の星)

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憧れる男がいる。

父と

それからもう一人。

 

― 六連星 ―

 

6rensen

 

黒く艶やかに流れる髪を堰き止めるように櫛を挿し入れる。

「やっぱりよく似合う」
首を傾げ目を細めた男の前で、娘は恥じらんだ表情を見せて俯いた。

豊かな髪は緩やかにうねり、川面のごとく陽の光を反射する。
その流れに逆らう小枝のように凛と映える柘植の櫛。

「源二郎さま」

背後から、少し尖りを帯びた声。
男が振り返ると、口を引き結んだ少女が三人、木の陰から飛び出してきた。
「おみつにばかりずるい。私達にもくださいませ」

源二郎と呼ばれた男は軽く肩を竦めると首の後ろに手を回した。
「すまないな。櫛はあれきりだ」

少女達の目が鈍く鋭く光って、源二郎の後ろの娘を射る。
おみつと呼ばれた黒髪の娘は警戒するように身を強張らせた。
源二郎はそんな女達の間を悠々と渡ると、まだ幼いながら一人前の女の顔をした少女の背に回り、その肩に軽く手を添えた。

「では、そなた達にはこれをやろう」
胸元から鮮やかな紅の小布を取り出し少女の後ろ髪を浚う。
くるりと回してきゅっと固く結わえてやれば少女は僅か大人びて、この年頃独特の不安定な色気を纏った。

 

LULUSIA-ルルシア-

 

脇から二人の少女が顔を突き出して感嘆の溜め息をこぼす。
「素敵」
「きれいな紅色」

その二人の少女の前に二片の小布を差し出すと、源二郎は目を細め口を大きく横に広げた。
「互いに結び合うといい」

少女たちは歓声をあげ、奪うようにして二片の小布を受け取る。
「ね、結んで」
「鏡が見たいわ」
「私のも早く結わえてよ」

もう櫛のことなど、源二郎のこと娘のことなど忘れたように、互いに背を向け合い、首を傾げたり角度を変えたり、自らの姿を確認しようと試みて、そのまま村へと走り去った。

ふと気付けば、黒髪の娘も姿を消している。
源二郎は苦笑して肩をすくめた。

「口説きそこねた」

でも大して気にしていない様子で山を振り返り、山の稜線に落ちつつある陽光に軽く目を細める。

「陽の落ちるのが早いな」

遠く西の国はなかなか陽が沈まぬらしい。
朝も早く、人々はよく働きよく遊ぶらしい。
夜が長く冬も長いこの辺りの山村とは大違いだ。

でも女衆が安心して髪を手入れ出来るこの村は平和だ。
ずっとこのままこの平和な村にいられればいい。

その時、源二郎の足元の地に黒い影が落ちた。

「源二郎」

太く重い声。
振り返れば、夕陽を背に立つ仁王のような男。
源二郎はにこりと微笑み、その大男へと歩み寄る。

「兄上」

源二郎の兄、信幸は六尺(180cm)をゆうに超える大男だ。
黒い胴を巻き、長い槍を手に背には矢筒を背負い、同じように大柄な馬の手綱を引いて口を引き結んでいる。

「ええと……出陣ですか?」

そうではないと分かりながらも一応問うてみる。
兄は「いや」と首を振り「鍛錬だ」と答えて歩き出した。

「お前は何か情報でも?」
「ええ、まぁ」

曖昧に返事をして、先を歩く兄の背の黒い矢筒を振り仰ぐ。
小さく彫りこまれた真田の家紋、六連銭。

それから、ちらりと後ろを振り返り、自らの影を確認した。
大きな兄の影と馬の影。
そこに隠れるようにして添う小さな自分の影。

「兄上は大きいなぁ」
朱に染まる兄の首筋を見上げる。微笑んで。

信幸は黙ったまま弟の顔を見下ろすと、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「食い過ぎた。戦では標的になるばかりだ」

悔いるようなその声に、源二郎は噴き出す。
「大丈夫ですよ。兄上なら弓でも鉄砲でも弾き返します」
信幸が文句ありげな目で弟を見る。

「それに槍なら兄上は天下無双だ」
兄は軽く眉をひそめると何も言わずに背を向け歩き出した。
その背は憤っているのか、焦っているのか、諦めているのか。
わかっている。上には上がいる。天下は広い。

「兄上のことは私が守りますから」

長く伸びる影が動きを止めた。ゆっくりと振り返る。
源二郎はもう一度同じ言葉を繰り返した。
信幸はしばしの沈黙の後、小さく口を開く。

「真田は長子が早逝する」

源二郎は小さく頷いた。
表情を変えずに真っ直ぐ兄を見上げる。

「ええ。だから父は兄上に源三郎と名付けた」
「名など……」
「名は力を持つ。だから、私は源二郎として兄を守ります」

強く挑むようにして兄を見据えれば、
信幸は僅か迷ったような顔で目を逸らした。背を向ける。

「兄上のお役に立てれば、私はそれでいい。
そしてこの国が、いや、この平和な里が守れれば私など捨て駒でいい」

しばしの沈黙の後、兄は小さく呟いた。
「お前はもっと欲を持っていい」
その顔は見えないが、声に滲む謝罪の色。
そんな必要などないのに。

「欲ならありますよ」
にこりと笑って答えたら、兄は僅か目を見開いて弟を見下ろした。

そんな兄の横をすり抜け、指折りながら口を開く。
「この村のおさきは笑うとえくぼが可愛らしいし、さっきのおみつは黒髪が豊かで気立てもよい」

兄の顔が歪む。
兄はこの手の話が苦手だ。
そうと知っていて、源二郎はからかうように続ける。

「隣村のおたえは指が美しくて色も白い。その肌は餅のようだと評判だ。城の手伝いのおちよは声が澄んでいて鈴のよう。あの笑い声は心を明るくする。それに今度母上の元に新しく入るという侍女は字が雅で、教養があるという噂」

小さく聞こえる兄の溜め息。
源二郎は気にせずに顔を上げる。

「ああ、でもやはり武田のお城で垣間見た小田原の方は……」

だが、そこで言葉が止まった。
兄もぴくりと頬を強張らせる。

ピー……

山の上の方を鳶が飛んでいく。風に流され消えゆく高い声。

ずっと、棘のように胸に刺さる想いがある。
何故、何も出来なかったのか。
主家を助けられなかったのか。

二人は黙ったまま歩き出した。

吾妻山に落ちゆく夕日。二人の歩く横に伸びる長い影。
兄のそれは田の中ほどまで届くのに、自分のそれは田の入り口。
父母を同じくしながらこんなにも違う。体つきだけではなく性質も。
でも、その心は近くにある。
そう信じている。

「今度こそ守りたい」

源二郎は強く、明るく、屈託なく声を発する。
対して、兄は低く重く「ああ」と頷いた。

兄の背負う矢筒。小さく刻まれた六つの銭。
六連銭は戦う時のみ。だから武具にしか付けない。

「六連銭にかけて誓います」

兄が軽く頬を緩ませた。
「おまえは、六文銭でなく六連銭というんだな」
「はい。幸氏公からの大切な家紋ですから」

海野幸氏。
真田の遠い祖先にあたる海野家の若き当主。

鎌倉の時代、源頼朝公に仕え、弓馬の名手と謳われた。
海野の一族はその時期、領土を信濃全土にまで広げる勢いを持った。
かの武田氏と覇を競い、領土を巡って争い勝つ程に。
でもその海野家も今は滅び、一族は各地に散り散りとなって久しい。

「幸氏公も人質だった。でも将軍様に認められて領土を増やした」
「そうだな」
「だから私も人質として立派にお役目を果たしてきますよ」

しばしの沈黙が流れ、それからややして兄は「ああ」と答えた。
兄は優しい。強くて優しい。自慢の兄だ。
兄の為なら死ねる。
それが、それこそが彼の弟として生まれたことの喜び。

ただ、源二郎には一つだけ願いがあった。
「真田信繁」
これは源二郎の諱。信玄公の弟君の名だ。この名を冠することは栄誉なこと。
でも……。

父は昌幸、兄は信幸。
海野の通字「幸」は自分には与えられなかった。
嫡流ではないゆえか。

「兄上」
呼びかければ、ゆっくりと振り返る大きな背中。
「いつか……」
迷いながらも口を開く。きっと今しか言う機会はないから。
「……私がいつか真田のお役に立ったなら、名に幸の字をいただけませんか?」
兄の細い目が大きく見開かれる。

それから兄は小さく頷いた。微笑んで。
「お前は本当に幸氏公に憧れているのだな」
「はい」
兄の大きな手が信繁の背を軽く叩く。
「ならば、もっと弓の鍛錬をしろ」
「あー、いや、私は弓はあんまり……。槍の方がまだ……」

その時、空気が動いた。
「源二郎!」
けたたましい声に、信繁の背がびくりと震える。
「じゃじゃ馬が来た」
「え」
信幸が振り返れば、一人の娘が道の中央で仁王立ちしていた。
その前髪はあちこちに飛びはね、何処から駆けてきたのか息が上がり、頬は赤く染まっている。

「きり? 何かあったか?」
何事かと身構える信幸につかつかと歩み寄ると、きりと呼ばれた娘は信幸をぐいと腕でどかし、兄の背に隠れる男の腕を掴んだ。
「いたたたっ! 放せ!」
悲鳴を上げる信繁を構わず、きりは信幸をきっと見上げる。
「源三郎様、ちょっと源二郎を借りますね」
「あ、ああ」

腕にかわって耳を引っ張られながら引きずられていく弟を目に信幸は自らの耳に手を当てた。自分の耳でなくてよかったと思いながら。
「お手柔らかにな」
遠慮がちに声をかけ、後は振り返らずに館に向かって歩き出す。
「兄上ぇ」と悲壮な叫び声が聞こえるが聞こえないふりをする。

「どういうつもりよ!」
「な、何が?」
「娘達に櫛やら布やら配りながら、べたべた体を触ってたって!」
「この……地獄耳」
「は? なんですって?」
「いや別に」
「このすけべえ! 梅に言いつけてやる!」
「いや待て、あれは前に櫛を頼まれたからであって、やましいことなんか何もしてない!」
「知らないわよ!」
「きり! 頼むって」

遠ざかる二人の声を背に、兄はそっと首を横に振った。
相手が悪い。それに自らの蒔いた種。
「きりのやつ、もっと素直になればいいのに」
女心に疎い自分でも、きりが誰を好いているのかはわかる。
そして悋気を起こしていることも。知らぬは本人ばかり。

「源二郎も、もう少し父のようにうまくやればいいのに」
父は巧みだ。
たくさんの女を囲いながら、そのいずれともうまくやっている。
人の心を読み、その欲する所を与えるから、父はうまく生き渡る。
女達の間でも、この戦乱の国々の中でも。

「ま、俺にも無理な話だけどな」
信幸は自嘲気味に笑うと青灰色の空を見上げた。
落ちる陽の光を反射して一際煌めく天の星。

目標は遠い。
あまりに遠く、追いつける気がまるでしない。
それでも生きなければいけない。

何の為にか
それすらまだわからないけれど。

 

あとがき

大河の「真田丸」とは源二郎も信幸お兄ちゃんも違うキャラになりましたが、
ヒロインは「きりちゃん」にしました。もっと激しくしたけどね。
長澤まさみさん、最近好きです。
その昔、清純派と言われてた頃はなんとなく違和感があったけれど、
最近の利かん気系の、強くて、でも不器用でかわいい感じが可愛い。
同じしぞーか出身だし♪

私は鎌倉時代は大好きなんですが、戦国はちと疎いです。
多々間違いがあるかと思いますが、そっと嗤って許してやってください。

長野、信州に領土を広げていた海野一族は同じ滋野一族の望月氏や根津氏(真田十勇士でおなじみ)
とも力を合わせ、鎌倉・室町・戦国を通じて、信州・上州で頑張るんですが
最終的には武田に攻め滅ぼされてしまったようです。
で、その前後に静岡に逃げたのか、たくさん移動してるんですね。
だから静岡には「海野さん」が多いらしいです。

真田の六連銭(六文銭)は、幸氏くんのお兄ちゃん(一説ではお父さん)が
源平合戦時に波間に浮かぶ光?を見て、吉兆だと家紋と定めたそうです。
でも、ご本人はその戦で死んじゃうんですけどね……。

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