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北条政子の夢買物語 17

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アワの夢「北条政子夢買物語」

 

「政子、今から遠乗りに行かないか?」
突然の申し出に、政子は驚いた。
「え、今から?」
既に昼は過ぎ、遠出と言っても、そんなに遠くまでは行けないだろう。でも、すぐに政子は返事をしていた。
「行く!」

そして半刻程後には、二人は伊豆山の方を目指して馬を駆けさせていた。
「悪いな、突然に」
「ううん、兄さんの手が空いたのなら、私はいつだって」
「食事の支度は大丈夫だったか?」
「保子と時子に任せたわ」
「そうか」
それから、思い出したように、ふと笑う。
「五郎は一緒に行くんだって泣いてたけどな」
「あの子はすぐに泣いてみせるんだから! でも本当は全然平気なのよ。私たちが出掛けた後は、けろっとしてるんだからね」
口を尖らせてそう言ったら、兄は笑った。
今日こそは兄を独り占め出来る。政子は得意な気持ちだった。
「少し顔色が良くないが大丈夫か?」
「ええ、平気よ」
そうは答えたものの、実はあのキツネのせいで政子はかなり睡眠不足だった。何しろ、あれから毎晩夢の中で『登れ!』『嫌だ!』の押し問答を繰り返し、矢を射かけて過ごしているのだ。疲れが取れていなかった。でもせっかくの兄との遠出をそんなことで不意にはしたくない。政子は精一杯の笑顔で兄を安心させた。
「そういう兄さんこそ、最近忙しいのではなくて? 少し疲れているようだわ」
そう言ったら、宗時は政子を見て優しく微笑んだ。
「大丈夫だよ」
深い慈しみをたたえた笑顔。政子は胸がときめくのを必死で抑えた。
ああ、やっぱり、兄が好き。

先日、市に出掛けた時は、見える山々はまだその葉を黄色に赤に色を残していたのに、今はもうすっかり地味な茶色の冬の山になっている。そして、年が明けたら父が帰って来るのだ。
「少し馬に水をやろうか」
「うん」
兄の後をついて川岸におり、馬に水を飲ませてやる。と、そこには同じように馬を連れた何人かの男達がいた。
「これはこれは、北条の」
「これは代官殿」
宗時は表情を硬くし、いつもより深く礼をした。政子も慌ててそれに倣う。代官、ということは、八幡様のお社で逃げた男や、市で遭遇した男達を供に連れているかと思ったがいないようだった。政子はほっと胸を撫で下ろす。
「そちらは奥方か?」
「妹にございます」
「ああ」
そう返事した代官のその目は、意味有りげに政子を上から下まで舐めるようにじろじろと見まわした。
この男は嫌だ。薄気味が悪い。政子はそのいやらしい視線から逃れるように、馬の陰に隠れた。

「ときに、北条の大殿は大番役からそろそろお戻りと聞いたが?」
「はい、年が明けましたら帰郷の予定でございます」
「それは良い。実は私もそろそろ都が恋しくなりましてな、来年には帰京の予定なのですよ」
「それはおめでとうございます」
「そうそう、めでたいと言えば、北条の大殿も隅に置けませんな。聞きましたぞ、若い奥方を娶られるとか。それも牧宗親殿の娘御と聞いた。出世なされるな」
「え」
思わず、政子は声をあげてしまい、自分の口を手で塞いだ。今、この人は何と言ったの? 父が奥方を娶るって?

「おやおや、姫君はご存知なかったか?父君はああ見えてなかなかの男前でいらっしゃるな。何と言ったって」
「代官殿!」
続けようとする言葉を遮ったのは宗時だった。
「政子! 行くぞ」
「え、でも」
「そうそう、そんなにお急ぎになることはない。北条家秘蔵の姫君とお近づきになる、せっかくの機会ですからな」
「いや、申し訳ないが、これにて失礼します」
「兄さん」
おろおろと宗時と代官とを見比べる政子。代官は素知らぬ顔で続ける。
「なんでも、北条の大殿の新しい奥方は御年二十歳だそうですな。北条の一の姫と同い歳とか。これはさぞかし仲の良い母娘になることでしょうな。楽しみですな」
「え」
政子は、兄に倣い、引きかけていた馬の手綱を止め、代官の顔を振り返った。
「同い歳?」
まさか。
何を言っているのだ? この男は。父が、私と同じ歳の娘を娶る? そんな馬鹿なことがあっていいはずがない。

「政子! 行くぞ!」
怒気を含んだ宗時の声に、政子は反射的に馬に飛び乗った。
「失礼する!」
一声かけて馬を走らせた兄に続き、政子も馬の腹を蹴った。
でも、でも……。
げらげらと嘲笑の声が響く中、政子は必死で手綱を握りしめ、兄の背を追った。

 

「どういうこと?」
どこをどう走ったのかわからない。ただ、随分と北条の家からは遠ざかっていたことはわかった。兄も動転しているのかもしれない。
「兄さん、一体どういうことなのよ?」
政子は兄に詰め寄る。
「政子、すまない」
謝る兄に、政子は首を振る。
「何故、兄さんが謝るのよ。どうして……!」
本当なのだ。さっきの代官の言葉は本当なのだ。父は私と同じ歳の娘を娶り、京から伊豆に連れ帰るのだ。
「もっとゆっくり話すつもりだった」
その時、政子は気付いた。
「もしかして、今日私を遠乗りに誘ったのは、その話をする為?」
頷いて欲しくなかった。純粋に二人で出掛けたかったからだと言って欲しかった。だが、兄は無情にも首を縦に振った。
「ああ、そうだ」
「嫌」
政子はわなないた。
「絶対に嫌! 父さんが、母さんのこと忘れて、そんな、そんな女と結婚するなんて、絶対に嫌!」
「父さんが決めたことだ」
「嫌!」
「政子」

嫌だ。嫌だ。嫌だ。
父が私と同じ歳の女と結婚する。
政子の母がいた場所に、今、政子がいる場所に、知らない女が新しくやってくる。それも自分と同じ歳の女。それが父の妻としてやって来る。それはまるで、自分自身が父に犯されているようではないか。政子はぞっとして身を縮めると叫んだ。
「絶対に嫌!」
「政子!」
兄の制止の声も聞かず、政子は手綱を握ると馬を駆けさせた。

嫌だ、嫌だ、嫌だ。
政子は寒さも忘れ、呪文のように呟きながら馬をひた走らせた。
絶対に許せない。父のしようとしていることは、母への、私たちへの冒涜だ。

どのくらい走っただろう。気付けば山の稜線に日が沈もうとしていた。
「いけない」
政子は、流れた涙が冷たく固まった頬をごしごしと拭った。辺りがすっかり真っ暗になる前にどこかに身を潜めないと。急いで馬の首を切り返し、後ろを振り返らせた。でも、休み無く走らせ続けていた馬は、可哀想にすっかり疲れ切っていたのだろう。
「あっ!」
突然、がくんと足をもつれさせ、そして土手を滑り落ちる。
「きゃあ!」
土手の下には冷たい川が黒々と静かに流れていた。

 

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