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北条政子の夢買物語 18

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アワの夢「北条政子夢買物語」

 

しくしくしく。
誰かが泣いている。声を押し殺して。
「誰?」
話しかけたら、座りこんで泣いていたその子は、ぱっと立ち上がり、こちらを睨んだ。
「なんで泣いてるの? 転んだの?」
話しかけるが、その子は黙ってこちらを睨みつけるばかり。私は首を傾げ、困ったなと思う。でも、ふと懐の中に入れていたある物を思い出し、それを取り出すと差し出した。
「はい、橘の実。一緒に食べない?お薬になるんですって」
一つをその子の手に握らせ、もう一つを自分でかじる。その途端、強い酸味が口の中を踊り回る。思わず小さな悲鳴を上げる。横を向いたら、その子も舌を長く外に吐き出して渋い顔をしていた。
「すっぱい」
「うん、すっぱいね」
そう答えたら、
「何で泣いてるの?」
逆にその子に問われた。それで私は自分の頬に手をやって初めて、自分も泣いていたことに気付いた。私は首を傾げ、一生懸命に頭を働かせた。それから頷いて答える。
「うん。多分、橘の実がすっぱいから泣いてるのよ」
そうしたら、その子も頷いて、それから笑った。
「うん、橘の実がすっぱいから、ぼくも泣いたんだよ」

 

「政子」
兄の呼ぶ声。耳元で囁かれる優しい響きに、政子はうっとりとたゆたった。何て素敵な夢なんだろう。兄が私の名を囁いてくれている。
「政子」
もう一度呼ばれる。
「なあに?」
答えてから、その声に妙に現実感があることに気付く。ぱちっと瞼を上に持ち上げたら、そこには心配そうな兄の顔があった。
「政子、目を覚ましたか」
「う、うん!」
慌てて返事をするが、その距離の近さに頭の中はどろどろと溶けて落ちそうになっていた。
おまけに目線を下げてみれば、そこには逞しい裸の胸。そして自分が軽く羽織っていたのは兄の着物だった。政子が着ていた着物はすっかり取り払われている。
「な、な、な、何で私、兄さんの着物……」
「川に落ちただろ」
「え、あ、う、あ、うん」
そうだ。着物が濡れたのだ。
「俺の着物の方がまだ濡れてなかったからな」
政子は必死で頭の中で唱えた。おかしくない、おかしくない。私たちは兄妹なのだ。これは救命行為なのだ。

その時、ぱちんと何かがはぜる音がした。目をやれば、火がぱちぱちと燃えている。頭を廻らせて辺りを見回してみたら、崩れかけてはいるが一応屋根らしきものがあった。戸は壊れて隙間風はひゅうひゅうと声をあげているが、でもそれほど寒くはなかった。濡れた政子の着物が吊るされ、はたはたと風にはためいている。
「ここ、どこ?」
「どこだろうな」
「え?」
政子が目を上げたら、宗時はふう、とため息をついて言った。
「悪いが俺も迷子だ」
その言い方が可笑しくて、政子は笑った。

 

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