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北条政子の夢買物語 32

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アワの夢「北条政子夢買物語」

 

「三郎殿と政子殿の婚礼のことだけれど」
 牧の方は単刀直入に時政に切り出した。
「やはり、こういうことは母親の私から話をしたいと思うの。あなた、よろしくて?」
 ゆったりと優雅な笑みを見せる。時政は一瞬驚いたような顔をしたが、次の瞬間にはとても嬉しそうに満足そうに頷いた。
「それはそうだな。娘の結婚は、母親の口から伝えてやるのが一番いいだろう。頼むぞ」
「ええ、任せておいて」
牧の方は悠然と微笑み、そして優雅な仕草で辺りに香を振りまいて立ち上がった。
 絶対に政子をこの北条に残してはならぬ。政子が嫡男の嫁になったら、私の居場所がなくなってしまうではないか。それは絶対に阻止しなくてはならない。

 

「政子はん、大変よ!」
 わざと息を切らせ、牧の方は政子の部屋に駆け込んだ。
「あなた、代官殿の家に輿入れやて、殿が」
「え? 代官?」
 政子は驚きのあまり声も出ない様子だった。その顔に思わず噴き出しそうになるのを、ぐっと抑えて牧の方は悲壮な顔を演出する。
「ええ、たった今、殿がそんな話をしてはったの。うち、驚いてしまって」

 政子がゆらりと立ち上がった。
「政子はん?」
 政子は真っ直ぐ前を見つめていた。
「冗談じゃないわ。代官になんて」
 突如、重く変化した部屋の空気に、牧の方は気を呑まれる。
 政子は少しの間、黙ったまま部屋の中央に立っていた。まるでお寺の大門にて護りを固める仁王のような、至極冷たい瞳に、牧の方は心が冷える心地がする。
 やめておけば良かったかしら。
 後悔しかけた牧の方の目の前で、政子は一つ大きく長く息を吐くと、顔を上げ、無言のまま廊下に向かって歩き始めた。
「あっ、政子はん、どないするの!」
「父と話して来ます」
 その声の響きのあまりに重いこと。牧の方はその迫力にただただ圧倒されて腰を抜かした。だが、必死の形相で政子の足に縋り付く。
「駄目よ!」
 牧の方は廊下に出ようとする政子の足に絡みついて無理に引き止める形になった。事実としては、ただ抜けた腰を支える為に政子に掴まっていただけなのだが、政子も牧の方を蹴倒してまでは行こうとしなかった。それが結果的に牧の方の有利と働いた。

 牧の方は必死で口を開く。
「だって、佐殿からお文をいただいているのでしょう? それが殿にばれてしまったの。殿はひどくお怒りで、どこでもいいから嫁に出すと」
「そんな」
「もし歯向かうなら、寺に入れて尼にしてしまうって」
 一度ついた嘘はつき通さないといけない。そうしないと時政からの信頼も失ってしまう。牧の方は懇親の力で政子にしがみついた。
 政子はそんな牧の方を見下ろしたまま、押し黙って逡巡しているようだった。
 それで確信する。佐殿と政子の間にも何かある。ただ文が届いただけならば否定が出来たはずだ。
「お逃げなさい」
「え?」
「殿が無理矢理話を進めない内に、早くお逃げなさい」
 政子は眉を大きくひそめて牧の方を見る。
「どうしてあなたがそんなことを?」
 牧の方は目線を横に泳がせた。何でもいい。嘘でもいいから喋らないといけない。
「わ、私、昔好いていた方がいたの。でも、それは許されない恋だったの。私、想いが通じなくて」
「え」
 政子がじっと自分を見つめているのを牧の方は感じた。背中が汗をかいている。
「で、でも今は幸せよ? あなた方のお父上という立派な夫がいるのですから」
 頬を引き攣らせつつも精一杯微笑んでみせたのが、かえって嘘を真にした。政子は明らかに動揺し、そして同情の色を見せる。
「母上」
 牧の方は驚いて目を見開いた。初めて、この娘が自分を母と呼んだ。だが、牧の方はそれに応えられずに、ただ政子を見つめ返した。
「あ……」
 牧の方は胸を抑える。政子の足を持っていた腕が落ちる。だが、政子はもう部屋を出て行こうとしなかった。
「ごめんなさい」
 何故か政子が謝った。
 牧の方の心を何かがちくちくと刺している。良心というものだろうか。でも、牧の方はもう止まるわけにはいかなかった。一度ついた嘘は突き通さなければならぬのだ。
「私、あなたには幸せになって欲しいの」
 ただただ真っ直ぐ自分を見つめる政子の視線から、牧の方は逃げるように俯くと小さく口を開いた。
「私、あなた方と仲良くなりたいの。家族になりたいの」
 口にした途端に、ことんと何かが腑に落ちる。でも、もう戻れない。牧の方は強く目を瞑って床に突っ伏した。
 しばらくして部屋から気配が消えた。

 

 その夜は雨だった。牧の方は天井を見上げていた。
 淀んだ京の空気に飽き飽きしていた。いつでも笑顔でやんわりとやり過ごし、本心を見せず、でも手厳しい京の女達の中で息苦しさを感じていたのだ。だから、京を離れるならとよく考えもせずに時政に嫁いだのだった。
 ここには、牧の方が望んでいた正直で素直な空気があった。それなのに習慣とは恐ろしいもの。気付けば、嫌いだった人達と同じことをしている自分がいる。
 でも。
 牧の方はふるふると首を横に振った。仕方ないこと。そうよ、仕方の無いことなのよ。

 古い館。屋根を静かに濡らす雨の音。静か過ぎる土地。ほんの近くから聞こえるキツネの遠吠え。
 いいのよ
 これでいいのよ
 牧の方は自らを無理矢理納得させた。流人とは言え、佐殿と結婚することは政子にとって悪い話ではない。何と言っても無位無官の男とは違うのだ。

 

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