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北条政子の夢買物語 37

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アワの夢「北条政子夢買物語」

 

「政子」

 懐かしい響きがして政子は足を止めた。その声を聴いた瞬間、心がずずず、と大きく震え、揺らいだのを感じた。
 兄が廊下の向こうに立っていた。

「兄さん」

 縋り付きたくなって、でも政子はそんな自分を戒める。私は今は頼朝殿の妻。
 その時、宗時は、ふ、とその口元を緩めた。
「おまえがそんな不安そうな顔をしていてどうする」
「だって!」
 先の代官館の奇襲とは違う。今度こそは大庭を相手に真っ向からぶつかる大戦なのだ。そして、もしそれを破ったとしても、次には西から平家の大軍もやってくる。

「大庭は強いわ。兵だってたくさんいる。それに畠山や新田まで参戦するって。伊東だって後ろから攻めてくるのに」
「大丈夫だ。三浦と千葉が大軍を引き連れて合流してくれる手筈が整っている」
「でも」
 政子は顔を覆った。怖かった。ひたすらに怖かった。頼朝が先頭に立つ。そして、それだけではない。兄も、父も弟も一緒に戦場に向かうのだ。
「政子、大丈夫だ。今、お前は姫を守ることだけ考えてろ」
「姫?」
 政子は顔を上げた。
「八幡姫、良い名だよ。源氏の棟梁の娘にふさわしい。かの八幡太郎義家公の武功を、あの時代の源氏の勢いを、あの姫が呼び戻してくれるような気が俺はしているんだ」

 ううん、違う。
 政子は無意識に首を横に振っていた。あの子は、あなたの子かもしれないの。頼朝殿の子ではないかもしれないの。
 今しかない。ふと、政子はそう思った。あの子はあなたの娘かもしれないと伝えるのは、今をおいて他にない。
「あのね、兄さん、あの子は、姫はね」
 言いかけた政子の肩を宗時は強く掴んだ。政子の言葉を途中で遮る。
「政子、何も心配することはないんだ」
 でも、兄の手が細かく震えていることに政子は気付いた。
「やっとだ。やっと動くんだ。貴族共に、貴族と化した平家共に目に物見せてくれる。俺達がその一歩を踏み出すんだ」
 ぎらぎらと光る双眸。

 ああ、この人は楽しんでいる。今、生と死の狭間のこの時を楽しんでいる。この瞬間を精一杯に生きている。震えているのは武者震いなんだ。
 政子はそう理解した。だから頷いた。頷いて微笑んだ。
「ええ」
 兄は帰って来る。時代がこの人を生かさぬはずがない。神が、例え他の誰の命を奪っても、兄は絶対に帰って来る。私の元へ。だって、八幡神は戦の神なのだから。
「兄さん、ご武運を!」
 兄を見つめ、強く力を篭めてそう告げる。宗時は政子を見返し、笑った。そして軽く瞼を下ろす。
「政子の声はご神託のようだ」
 それから片手を上げる。
「必ず勝ってくるからな」
 その顔は自信に溢れていた。
 大丈夫だ。力強く歩き出した宗時の背を、政子は頼もしく見送った。

 が、宗時は出しかけていた足をふと止めて、政子を振り返った。
「ああ、これを渡すのを忘れるところだった」
「え?」
 兄が次に手にしたものを目にして、政子はぎくり、と肩を震わせた。
「兄さん、それ」
「覚えているか?昔、一緒に市に行ったな」
 兄の手にあったのは、一つの朱塗りの櫛。そう、あの時、兄はそれを手に取っていた。でも漆器を買うと言って政子から金子を受け取った。なのに漆器は持たずに帰ってきた。
「ずっと、お前に渡したかったんだ」

 政子の頭の中を、遠い過去の風景が流れる。母の側に寄り集まる兄弟姉妹。幼い妹たちは母の膝を奪い合い、小四郎は少し離れたところで本を読んでいた。
 兄は? 兄はあの時、どこにいた? 兄は小四郎よりも少し離れた所で剣を振っていた。飛び散る汗。
『櫛はね、女性に幸せになって欲しいと願う時に男性が贈るものなの。黒く長い美しい髪をいつまでも保って欲しい、そのように幸せにするから、と求婚の時に男性が女性に贈るものなのよ』
 静かで優しい母の声。
『求婚?じゃあ、もしかして、母さんは父さんに贈ってもらったの?』
 母の膝の上、おませな口調で泰子が尋ねる。すると、母はとても幸せそうな顔をして頷いた。
「そうよ、幸せにするから、と朱塗りの櫛をくださったの」

 そう、母が亡くなった時、父が泣きながらその胸元に懐紙に包んだ何かを挟んでいた。あれは確かに朱塗りの……

 母の声はまだ続く。
『でもね、櫛にはもう一つ意味があるの。そして、これがとても大事。忘れてはいけないわ。櫛は別れの印でもあるの。だから戦や長い旅の前にはけして渡してはいけないわ。永遠の別れになってしまうかもしれないからね』

 櫛の音はク・シ。「苦」と「死」に通じる。イザナギとイザナミの別れ、日本武尊と櫛名田比売の別れ、永遠の別れを意味する。
 だがこうも言われていた。櫛が折れる時、その髪に宿った「苦」や「死」が身代わりになって折れたのだと、櫛の持ち主を守ったのだ、とも。だから折れた櫛を大切に供養する習慣があった。

 硬直する政子に、宗時は静かに近づくと櫛を差そうとした。
「駄目!」
 政子は後ずさって拒絶する。でも、櫛は既に政子の髪に通されていた。
「よく似合う」
「兄さん、駄目よ。私はこれを受け取りたくない」
「そうか。そうだな、お前は佐殿の妻だ」
 政子は首を振った。
「違う。違うの。そういう意味じゃない」
 永遠の別れになりたくないからなのだ。でも、そんな不吉なこと、戦に出る前の兄に言えない。
 宗時は困ったような顔をして首を傾げた。
「俺が持っていても仕方のないものだ。だから、お前に託したい」
「託す?」
「そうだ」
「はつ、という人に?」
「え?」
 驚いた顔で政子を見た宗時に、政子は意を決して口を開いた。言葉にすらしたくないと思っていた兄の想い人の名。
「兄さんの好きな人、はつというんでしょう? 本当は生きてるんじゃないの? まだ生きているんじゃないの? だから、兄さんはまだ結婚しないんじゃないの? もしそうなら諦めては駄目よ!」
 政子は必死でそう叫んだ。何でもいい。兄が生き残るための枷となるなら何でも良かった。
 宗時は初めて見るような顔で政子を見た。それから信じられないというかのように頭を横に振り、政子をじっと見つめた。瞬きする時間すら止まっているかのように感じる長い間。

 ぽつりと呟く声があった。
「そうか、諦めては駄目か」
 可笑しそうに笑う顔がそこにあった。鎧なんか付けていない、いつもの直垂の涼やかな兄の笑顔。政子は大きく頷いた。
「そうよ!」
「俺は二つともを望んでも良かったのだな?」
「二つ?」 
 何を言っているのかわからなかった。でも、政子は頷いた。
「いいのよ。だって最初から諦めてしまったら、望みもしなければ、二つどころか一つだって手に入るはずもないじゃない」
 それから、頭の櫛を手に取る。
「だから、この櫛は私が預かるわ。絶対に兄さんがその人に直接渡して。だから、渡すためにちゃんと無事で帰ってきて。 待っているから!」
 一気に喋り終えると政子は息をついた。ずっと言いたかった。でも言えなかったことを言えた。
「わかった」
 宗時は静かに頷いた。
「おまえに託す。そして、諦めない」
「兄さん」
 ほっとする。
 笑顔になった政子に、宗時は突然身をかがめた。
「愛してる、はつ」
 強く、息も出来ないくらいに抱きすくめられる。政子は理解した。兄さんは、私をはつさんにしたいのだ。身代わりとわかっていても、はつさんだと思いたいのだ。きっと、はつさんは死んだのだろう。
 ならば、私ははつになる。はつになって、そして兄さんと生きる。

 

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