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北条政子の夢買物語 40

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アワの夢「北条政子夢買物語」

 

泣きむせぶ政子の前に白い足が現れる。政子は濡れる頬をそのままに顔を上げた。
白いキツネが黙って立っていた。
「キツネの馬鹿」
「選んだのはお前だ」
「私は選んでない」
「夢を買っただろう?」
「買いたくなんかなかった」
そうすれば、頼朝の妻になっていたのは時子で、自分は宗時の妻になっていたのだ。自分が側にいたのなら、姫が生まれていたのなら、兄はあんな無茶をすることもなかっただろう。政子の為に、娘の為に、必ず生きて戻ってきてくれたはずなのだ。

「兄さんが買ってやれと言わなかったら買わなかった!」
「それでも、お前が夢を買ったことは事実だ」
政子は声を上げて泣いた。
「キツネなんか嫌い、大嫌いよ」
泣いてもどうしようもないとわかっていても泣かずにはいられなかった。

キツネも兄も、父も、頼朝殿も、誰も悪くない。悪いのは自分だ。勝手に誤解して、勝手にへそを曲げて、勝手に飛び出して。
そして、一生の罪を兄になすりつけた。

「悪いな。それでもこれは俺のお役目なんだ」
突然変わった声色に、政子は顔を上げる。そこにいたのは、三郎宗時その人だった。
「なんの慰めにもならんかもしれんが、俺は化けるくらいしか能が無くてね」
苦笑する宗時。
政子は立ち上がった。よろよろと歩き出す。宗時の姿をしたキツネに近づく。そして、その胸にすがりついた。
「キツネの馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿! 兄さんの馬鹿!」
懐かしい兄の匂いはそこにはない。ただ、橘の香りがした。

昔、兄と近所の守山八幡様でよく遊んだ。その境内の片隅にひっそりと咲いていた橘の樹は、季節になるととても芳醇な香りを漂わせ、その可憐な花は政子の心を和ませた。キツネの香りはそれによく似ていた。

兄ではない。兄はもう、この世にいないのだ。それでも、政子は宗時の姿をしたキツネにしがみついたまま泣きじゃくった。
キツネは静かに口を開いた。
「俺は八幡神の申し子を源頼朝の子として、この世に送る必要があった。それで夢を使って呼びかけた。母となる可能性の高い者にな。それに応えたのがお前の妹で、でも譲り受けたのはお前だった」
「姫は……姫は、誰の子なの?」
兄の子なのか、頼朝の子なのか。政子は大きな目を真っ赤にして、宗時の姿のキツネに問う。キツネは首を横に振った。
「八幡大菩薩の子さ。お前の腹を借りただけだ」
「あの子に、何をさせる気よ」
「何も。俺はただ送り届けに来ただけだ」
「何故、頼朝殿の子としてでないといけなかったのよ」
「そりゃあ、この国の人間は貴種を重んじるからさ。天孫降臨然り。天照大神に繋がる血を濃く持った人間が尊ばれる。ただそれだけだ」
不安と迷いとがないまぜになった灰色のものが政子の胸を占領していく。
「これから一体どうなるの? 私は一体どうしたらいいのよ?」
「さあな。なるようにしかならないだろうさ」
宗時の声はそう告げる。冷たい物言い。でも兄の声のせいか冷淡には感じられなかった。
「そうだな、一つだけ言っておこう。俺からのはなむけだ」
言いながら、政子の頬をふわりと宗時の両手が包む。

「お前は今まで、我慢することに慣れてきた。だが、これからは欲しいものは欲しいと言え。言わなければ、それはただの空想に過ぎぬ。誰か他の者がそれを手に入れるのを指をくわえて見ているだけになるぞ」

兄は政子に話をする時、いつもこんな風にゆっくりと話してくれた。言いにくいことも真っすぐに伝えてくれた。
宗時の、いやキツネの手は大きくて温かかった。あの日と変わらずに。何も言えずに、政子はただただその熱を味わう。

「お前はこれからあらゆる物を手に入れるだろう。だが同時にあらゆる物をまた失うことになる。どれが本当に欲しい物なのか、自分の心と正直に向き合うんだな」
言いながら、宗時の姿は薄く陽炎のように揺らめき、そして言い終える頃には煙のように影も形もなくなっていた。

 

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