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北条政子の夢買物語 7

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アワの夢「北条政子夢買物語」

 

「同郷の者が失礼した」

 背の高い少年が軽く頭を下げる。
 宗時は軽く首を横に振ると微笑して口を開いた。
「いい弓をお持ちだ」
 宗時の目は、少年達の肩にかけられた三枚打弓に注がれていた。
「山育ちで、このくらいしか能がございませんので」
 謙遜するように言って少年は目を上げた。真っすぐ宗時を見るその目は、頑固そうな意志の強い色をしていた。

「甲州の言葉をお使いでしたな。もしかして武田の縁者か?」
 宗時の言葉に、少年は軽く頷いた。
「私は甲斐源氏、武田太郎の五男、石和五郎と申します。こちらは従兄弟の小笠原次郎。信濃の者です」
 先ほどの訛りは姿を消し、綺麗ではきはきとした声だった。見れば、着物の質もよく、身なりがしっかりしている。弓もそうだが、腰に帯びた太刀も名のある者が鍛えたとわかる逸品だった。
「武田の縁者が何用でこの伊豆に参られた?佐殿の様子を見にか?」
 宗時の言葉に少年二人は顔を見合わせる。
「私は武田とは今は関係のない者。既に家を出されました。この小笠原次郎も同じこと。私たちが伊豆に参ったのは、確かに貴殿のおっしゃる通り、佐殿のお顔を拝する為」
「佐殿にお会いしてどうする。斬るのか?」
 さらりと口にした宗時に、政子は驚いて兄の顔を見た。
 すると石和五郎は、ふっと口の端を緩めた。
「それはお会いしてから決めまする」
 不遜とも言える態度。見え隠れする武力への強い自負心。だが不思議と政子はこの初めて会う二人の少年に親近感を覚えていた。

 ところで、と少年は腰を上げた。
「貴殿は北条三郎殿であるとか。北条殿は、佐殿の身を預かっておられると聞きました」
「確かに」
「是非、佐殿へのお目通りを願いたい」
 さらりと願い出る石和五郎に、宗時もあっさりと答えた。
「承知した。間に入ろう」
「ちょっと、兄さん?」
 斬るかもしれないと言っているのに、いとも簡単に承諾した兄に政子は少なからず慌てる。咎めるように声をかけたら、兄は政子の方を見て「大丈夫だ」と言うように頷いた。
 その穏やかな兄の顔を見た途端、政子の足にかかっていた力が抜ける。その場にへなへなと崩れ落ちる。
「ねえちゃん!」
 五郎が駆け寄り、遅れて宗時が政子の側に立つ。
「怪我はないか?」
 政子は無言のまま何度も首を縦に振った。それを見た宗時の表情が柔らかくなる。
宗時に手を引っ張られ、政子は何とか立ち上がった。少年達に向かって頭を下げる。
「助けてくださって本当に、感謝いたします」
 すると少年達は互いに顔を見合わせ、それから年相応のいたずらな顔になった。
「いやいや、良い口上を聞かせてもらいました」
「そう。あれを聞いた時の奴らの顔ってば、可笑しくて可笑しくて」
「口上?」
 何を言っているのかと首を傾げた政子に、石和五郎は指を一本立てると、片腕を大きく天に向かって突き出した。
「『今に見てなさい! 武士が起つわっ! 悪徳貴族どもを蹴散らしてやるわよっ!』」
 台詞めいた調子。どうも、先ほどの政子の真似をしているらしい。
 政子はむっとして横を向いた。
「私は手など挙げておりません!」
 石和五郎の横では小笠原次郎が、くっくっくと堪えきれないようにお腹を丸めて笑っている。
「いや、なかなか言えることじゃねぇな。さすがは北条の姫! お見それした」
 恥ずかしさで真っ赤になる政子の背に、兄宗時の手がかかる。
「妹は本当に跳ねっ返りで困る。ご面倒をおかけして申し訳ない。だが、その辺にしておいてやってくれ。妹もこの通り反省しているから」
 兄の助け船。その手の温かさに政子は泣きそうになる。
 宗時の言葉に、少年二人は急いで笑いを収めると深く礼をした。
「これは大変失礼しました。北条の姫君、お気を悪くなさいませんよう。私たちは姫の言葉を聞いて嬉しかったのです。勇気づけられました。つい悪ふざけを申し訳ない。お赦しください」
 心のこもった声に、政子は少年達を見る。
 真摯で、尊敬の念を帯びた瞳が四つ、政子を見つめていた。
 眩しいな、と政子は思った。若さと情熱と、そして願いを現実にする力を持っている。自分も男であれば、彼らのように武器を持って諸国を練り歩いたかもしれない。
 そう、きっと兄の後を追って、兄の助けとなる為に。

「それではまた改めてお屋敷に伺います。以後どうぞお見知り置きを」
「ああ、こちらこそ」
 少年二人はぺこりと頭を下げ、たたっと足音も軽やかに去って行く。
 市は先ほどの喧噪など何もなかったかのように活気づいていた。

「武田か……」
 宗時が呟いた、その重い響きに、政子は兄の顔を見上げた。
「兄さん、武田って?」
「武田は甲斐に領土を持つ源氏一族だよ。今、甲州で力を広げている豪族だ。信義殿……今の五郎殿の父君は、かなりのやり手らしい。都の不穏を聞きつけて、何か付け入る隙はないか、源氏の嫡流である佐殿の様子はどんなものか偵察に来たんじゃないかな」
「じゃあ、本当に佐殿を殺すの?」
「さあ、どうかな。石和五郎と名乗っていたから嫡男ではないようだし、親と縁を切ったと言っていたから、本当に様子を見てから味方につくかどうかを決めるのかもしれない。でも、あれだけではわからんよ」
「そう」
 政子は曖昧な返事をした。
 佐殿は嫌いだ。八重姫を深く傷つけ、その子も殺した。それでものらりくらりと生き延び、飄々とした顔で館にやって来ては、兄の上座につく。
 でも、どうもひ弱そうな頼朝に対して、先の少年達は武芸に覚えがありそうだった。もしやり合えば、佐殿が一方的に嬲り殺されるのは目に見えている。それには、さしもの政子も頼朝を気の毒に思わなくはなかった。

「あ、でも、武田の郎従が代官の館を警護してるのよ。それは何故かしら?」
 ふと思い出して尋ねたら、宗時は驚いた顔をした。
「武田の郎従が代官の館を?」
 政子が男達とその話をしていた時は、宗時はまだ近くにいなかったらしい。本当に寸での所で間に合ったのだ、と改めて政子は自分の無鉄砲さを思った。
「う、ううん。私の勘違いかもしれないけど」
 そう答えながら、政子は言いようのない不安が胸の中に芽生えるのを感じる。思わず兄の袖を強く握ったら、ぽんぽん、と政子の頭が軽く叩かれた。
「大丈夫だよ」
 見上げれば、優しい兄の笑顔。政子はほっとして息をつくと、兄の腕に頬を寄せる。
 兄の匂いがする。
 胸いっぱいに広がる安心感。もう大丈夫だ。ここにいれば私は大丈夫。
「でも、もうあんな無茶はするなよ?」
 兄の声に、政子は素直に頷いた。

 

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