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頼朝・北条好きFanSite「あづまがたり」

名こそ惜しけれ(頼朝と政子)3

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LULUSIA-ルルシア-

 

義時の兄である三郎宗時は、頼朝挙兵時の石橋山の合戦で討死した。

義時は父に言われるまま、その後を付いて安全な方へと退却したのに、兄は自ら大庭と伊東が待ち受ける激戦の地へと戻って行ったのだ。あの時の兄の後ろ姿は忘れられない。

何故、次男である自分があちらに向かわなかったのか。
今でも悔やまれてならない。

「もし宗時が生きてたら……」
そこで頼朝は僅かに息を継ぎ、そして義時を見た。
「そなたは家を継がなくて良いからと、きっと今頃は暢気に家を出て、私の側にはいてくれなかったかもしれぬ。それは困る。だから、今日は三人で飲もうぞ」
そう言うと中空に向かって杯を掲げた。
「北条の猛き将・三郎宗時と、賢き将・小四郎義時に!」

この人の、こんな所が狡いのだ。
義時は熱くなった目頭を隠すためにそっぽを向いた。
「北条なんて……」
「ん?」
杯をあおった頼朝が不思議そうに首を傾げる。
「北条なんて小さいし家人の数も少ないし、もうあなたを支える必要もないでしょう。姉の後ろ盾にだって、なりきれませんよ。もし、あなたが三浦や千葉など他の姫を娶るなら、姉は正妻の座を追われるでしょう。父も今のような強気には出られなくなる」
「うむ、そうかもな」
義時は一瞬息を止め、それから吐き出すように言った。
「いっそ、そうなさればいいのに」
頼朝は杯を持ったまま動きを止めて義時を見た。

「姉は泣くだろうし怒るだろうし、場合によってはあなたは大怪我するかもしれませんが、あなたが北条と姉を切るのは難しいことじゃない」
「おいおい、さらっと怖いことを言うなよ」
政子の怒りを想像したのか、ぶるっと肩を震わせる頼朝。義時は目も送らず下を向いた。

しばしして、頼朝は杯を義時の目の前に差し出す。
無理矢理に杯を義時に持たせると酒を注いだ。飲めと首で促す。
義時が一気にあおると、頼朝は口を開いた。
「政子は切らない。北条も切らない。この二つは私の命綱だ」
静かな口調だった。
義時は顔を上げる。

「確かに三浦や千葉、大庭、畠山などはとりあえず味方につけた。でもまだ戦況はわからぬ。都でもし何かあれば、背後から一刺しされて首を都に持って行かれぬとも限らぬからな」
ぱんぱんと左手で自分の首を叩く頼朝。

「私が信じるのは、私が何も持たなかった流人時代から私の側にいてくれた者達だけだ。藤九郎に康信、佐々木の兄弟、比企の尼、伊東の……。そして、伊東に見放された私を拾ってくれた時政。北条の人達、政子。それからあの日、政子を連れて来てくれた義時、お前もだ」
義時は頼朝と目を合わせた。
姉が家を抜け出した日、頼朝の元まで道案内をしたのは義時だった。

「でも何よりもな、私は北条の人達が好きなのだ。北条の人たちは人を大切にする。家の為や名誉の為ではなく、自分の大切な人の為に動く、その静かなる正義感が私には時に信じられないし、その一方、これ以上信じられるものは他にないと思うのだ。だから私は政子以外には妻は持たないし、北条も切らない。何があっても」
義時は顔を覆った。
急激に力をつけた頼朝。その頼朝を支える北条の苦労も相当だった。
そう、自分は怖かったのだ。そして多分、父も。
何を支えにしていいのか、頼朝は北条をどうするのか。これからどうなっていくのか。

「時政は牧の方の為に動いた。そして恐らく、父として政子の為にも動いたのだろう。普通なら信じられないことだし処罰を検討する所なのだろうが、でも時政なら確かにそうするだろう。だから私は時政が帰るのを待つぞ」
「罰は?」
「罰なら私自身がもう十分に受けただろう? だからそんなもの必要ない。小四郎、そなたが適当な時期に呼び戻してくれ」
義時は笑った。

それから、頼朝は立ち上がると格子の側に寄った。
「いい月だ」
義時が目を送ると、月の光が床に格子状の模様を作っていた。
「伊豆かぁ。いいなぁ。私も一緒に帰りたかったな」
そう言って、頼朝は開け放ってある格子から見える月を眺める。
青年期の二十年を過ごした伊豆は、頼朝にとって故郷も同じなのだろう。
しばし二人は静かに月を眺めた。

 

 

「そうだ、そなたに聞きたいことがあったんだ」
塩をつまんで、ちびちびと酒を舐めていた頼朝が、ちらと義時を見る。
義時は黙って頼朝の目を見た。
「もし政子がそなたに伏見広綱の館を打ち壊せと命令されたら何とした? 打ち壊したか?」
頼朝のその目の奥が鈍く光るのを見て、義時は静かに目を伏せた。そう、この人の怖い所はこういう所だ。常に周りにいる人間を試している。「お前はどういう人間だ? 何が出来る? 何をやり遂げたいと思っているのだ?」そう問われているような気がするのだ。

義時は口を開いた。
「姉は私にはその命令はしないでしょう」
頼朝は黙ったまま義時の顔を見ている。
「姉が私にそのような命令をする時は、裏に何かの意図がある時」
「例えば?」
「伏見広綱や亀の前の後ろに鎌倉を脅かす何らかの力が隠れている時。その不穏な種を潰す必要があると判断した時に、姉は私に声をかけてくる。私なら北条単独では動かない。他の士族の力を借りる。だから、何かと何かをぶつける必要がある場合でしょうか」
「では問う。仮にだ、上総が後ろにいたとする。そなたなら何をぶつける?」

義時は頼朝の目を見た。
わかりきっている答えを口にしろというのだろうか? それはあまりに危険な賭け。
義時は微笑んだ。
不思議だ。常日頃より無表情だと言われ、自分自身でもそう思うのに、こういう問答の時ばかりは笑みが自然に浮かぶ。
「さあ……どうでしょうね。北条は小さくて弱いですから。北条とあなたと姉と、この鎌倉で生き残るためならば、その折々に快く助けの手を伸べて下さる氏族を無下に断りはしないでしょう」
各氏族が、土地の境界で互いに反目し合っていることを知った上での回答。

上総氏の広大な土地を狙うのは、その近隣の千葉と三浦。小さな小競り合いを繰り返し、姻戚や離縁を重ねながらも、彼らは互いに相手を牽制し、収奪し、取り返して生きてきた。
彼らだけではない。どの氏族も、事何かあればその隙をついて自らの領土を増やそうと狙っている。いや、同じ氏族同士であってもだ。この鎌倉はそのような危うい均衡の上に成り立っていた。
武士というものは常に自らの領土を増やそうと虎視眈々と周りを窺っているもの。領土は命にかえても大切なものだと言えた。

頼朝は黙ったまま拳を固く握って突き出してきた。
義時も黙って拳を握ると、頼朝のそれに軽く当てる。すると、頼朝は力を込めて当て返してきた。痛い。かなり痛い。ガツガツと何度も当てられる。でも、義時は手を下げなかった。
それは男同士の沈黙の挨拶。

何回かそれを繰り返した後、頼朝は大声で笑った。それから腕を伸ばして義時の肩を抱く。
「小四郎、そなたが義弟になったことが私にとって何よりもの宝だ。私は恵まれている。伊豆に流され全てを失ったと思った。でも違ったのだ。目を覚ます為に私は伊豆に呼ばれた。過去、私は貴族のようだった。でも武士だったのだ。武士にとっての悲願は土地の獲得。土地あってこその武士」
頼朝の双眸が青白く光る。
「私は約束するぞ。武士の土地は武士のものだと、あやつらに認めさせてやる」

義時の脳裏に浮かんだのは三郎兄の言葉。
『なぁ、小四郎。おかしいと思わないか? ここは我々の先祖が開拓し、我々が守る土地だ。なのにどうして何もしていない貴族が大きな顔をしている? 好きに税を決められる? 俺はそれを何とかしたいと思う。家族を、大切な人をこれからも守っていくために』
力強い横顔だった。

兄の遺志は義兄である頼朝が継いでいる。ならば、それを支えるのが自分の役割。
義時は小さく頷くと、頼朝に頭を下げた。
「御意」
迷いは、不安は消えた。
月の光は柔らかく二人を包んだ。

「ところで、なぁ」
声色が変わる。気弱なそれに。
「政子はどうすればいいと思う? どうやったら機嫌が直るかなぁ」
扇を格子にパタパタと当てて遊ばせながら呟く頼朝。
「政子には櫛や鏡や、そういう普通に女らしい贈り物はあんまり効きそうにないんだよな。かと言って、今この機に刀や弓を贈ったら『これであんたを殺れって?』って言われて、恐ろしい展開になりそうだしなぁ。ああ、怖いなぁ」
「遠乗りに」
義時は答えた。
「馬で気晴らしに行くのがいいでしょう」
昔から姉は馬が好きだった。気付くと館から飛び出して駆け回っていたものだ。

「えー、行くって言うかな? まだ万寿が生まれて三月だぞ?」
頼朝は首を傾げた。
「もう三月ですよ。万寿の君が生まれる前よりしばらく比企の館にて御台然と顔を作って、大人しくしていたのでしょう? 姉にはかなり辛かったはず。それに聞く話によると、姉はほとんど万寿の君と一緒におられぬと」
「ああ、乳母がおるからな」
「姉は何でも自分でやりたい人です。五郎のこともそうやって育ててました。それが我が子なのに手が出せぬとあっては……」
「それは相当鬱憤が溜まってるだろうな。わかった。助かったぞ、小四郎!」
頼朝はさっと立ち上がった。
「じゃあ、早速行って来る! またな!!」
そう言うなり、頼朝は来た時のようにドタドタと駆け去った。

つむじ風のような人だ。
義時は苦笑した。
今夜は一晩飲み明かそうと、さっき言ったくせにこうだ。こんな夜更けに遠出も何もあったものではないと思うのだが、一度決めた後のその行動の速さと迷いのなさが頼朝の強さなのだろう。

静けさを取り戻した館。
義時は格子にもたれかかると、月を眺めて杯を上に掲げた。
「兄さん、今日は二人でのもう」

いつか……
あの日、戦場に戻っていった兄のその気持ちが自分にもわかる日が来るのだろうか。

 
名こそ惜しけれ(頼朝と政子)4

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