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頼朝・北条好きFanSite「あづまがたり」

名こそ惜しけれ(頼朝と政子)4

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LULUSIA-ルルシア-

 

「やぁ、政子。遠乗りに行かないか?」

第一声がこれ。

軽い。あまりに軽過ぎる。
政子は自らの額を指で押さえた。

「まだ夜ですけど」
「うん、夜だな。でもまあ、ちょっと海までとか……」
「行くわけないでしょ」
「何で?」
「何でって、危ないからに決まってるじゃない。あなた、自分の立場をわかってるの?」
「わかってるとも」

そう答えると、頼朝は政子の手を引っ張り上げた。
そのまま、ぐいぐいと手を引いて歩き出す。政子は驚いて手を引こうとするが頼朝は離さなかった。廊下に出ても足を止めない。
「ちょっと! どうするのよ?」

政子の声に驚いた侍女達が隣の部屋から顔を出す。
でも頼朝の姿を見て、皆動きを止めた。
「御所様!」
侍女の一人と目が合った頼朝は、しっと指を口に当てた。
「御台はお忍びで外出だ。適当にごまかしておいてくれ」
そう言って、柔らかに微笑む。
その笑顔にあてられた侍女は顔を赤くして、へなへなとその場に腰を抜かした。

「一体、誰が何をごまかすのよ!」
政子は引っ張られながら叫んだが、頼朝は笑うばかりでどんどん先へと進んで行く。

庭を警護していた兵達が声を聞き付けて集まってくるが頼朝はまるで気にしなかった。しっしっと手で追い払うような素振りを見せる。兵達は面食らった顔をして一瞬足を止めたが、でも躊躇しながらも少し距離をあけて付いて来た。
「供の者がぞろぞろ付いて来る遠出なんて、まっぴらごめんよ」
必死に抵抗する政子だが、一度こうと決めた頼朝は全く聞く耳を持たない。
「昼でも付いて来るんだし関係ないさ」

そしてそのまま頼朝は裸足で庭に下りようとする。
慌てた兵が「お履物が……」と駆け寄ってきたが、頼朝の外出用の履物などすぐには出てこない。
「いいから、そなたの草履を貸せ」
頼朝はそう言うと無理矢理その兵の草履を奪った。それから政子を肩に抱え上げる。
「わ、私の履物は?!」
政子が叫んだら頼朝は笑って答えた。
「いらぬ」
すたすたと歩き出す。
「そなた達、付いて来るなら姿を見せぬように付いて来いよ」
そんな無茶苦茶な指図をして、頼朝は厩に向かった。

「信じられない」
馬の背で、政子は何度目かのため息をついた。
「御所を主が抜け出すなんて、本当に本当に信じられない。大問題だわ」
「御台所が抜け出すのも、そりゃあ問題だろうな」
「あなたが無理矢理引っぱり出したんでしょ!」
言って、頼朝の顎を握った拳でゴリゴリと小突き上げる。
頼朝は「いてて」と言いつつも平気な顔をして手綱を握っていた。当たり前だ。こちらだって力を入れていないのだ。

その時、頼朝がふと表情を変えた。
「あ、星が流れた」
政子は慌てて空を見上げる。
「どこ?」
「もう消えた」
「見たの?」
「見た」
流星は災いの印と言われる。
政子は眉を寄せた。
「帰りましょ。帰って祈祷を……」
「いや、いい」
政子の言葉を遮ると、頼朝は馬の速度を上げた。

 

nightsea

 

「寒いな」

陸から海へと風が吹きすさぶ。その中を、頼朝と政子は暗い海岸に立っていた。
月があるおかげで何とか足元の波は見えるが、見渡す限り真っ暗な世界だ。
稲村の崎も三浦の半島もまるで見えない。

「寒いのは当たり前でしょ。冬なんだもの」
そう答えながらも、政子は自分の心が浮き立っているのを感じていた。
「あー、外に出たのなんて久しぶり」
ぐっと腕を伸ばして伸びをする。裾の長い小袿は馬の背に置いてきた。今は身軽な小袖姿。気付けば、頼朝も昔と同じ簡易な直垂姿だった。ここ最近はずっと格式張った水干姿ばかりだったのに。

「あーあ、『古奈の湯』を浴びに伊豆に帰りたいな」
がたがたと震えながら頼朝がぼやく。『古奈の湯』は伊豆に古くからある湯治場だ。政子は頷いた。
「そうね。伊豆はここより温かいしね」
「鎌倉もいい所なんだが、風が強くてなぁ」

それからしばらく沈黙が続く。
でも気付いたら、頼朝は自分を見て微笑んでいた。
「何よ?」
「久しぶりに見た。いい顔をしてる」
嬉しそうに笑顔を見せる頼朝。政子はきまりが悪くなって頬を染めた。横を向く。
「そりゃあ……御所はつまらないもの」
「比企の館はどうだった?」
「最悪よ。大事にされ過ぎて気分が悪くなったわ」
「身体はどうだ?」
「身体は大丈夫だけど、気持ちは最悪」
「そうなのか?」

あくまでも飄々とした態度の頼朝に政子は切れた。
「誰のせいだと思ってるのよ。人が大変な思いをしてるってのに、随分とお楽しみだったようじゃないの」
「うん、楽しかった」
しゃあしゃあと答える頼朝。政子はその襟元をつかみあげる。
「あんたねぇ、そんなことしてる場合?」
「場合と言われてもなぁ。宗親を使ったのは政子だろう?」
政子は首を傾げる。
「何のこと?」
「牧宗親に命令しただろう? 伏見広綱の館を壊せと」
政子は、ぽいと頼朝の襟を放した。
「ああ。あの辺りは、あなたがこそこそと人に隠れなきゃいけないような悪さをする溜まり場だったみたいだから潰させて貰ったわ」
「溜まり場だなんて人聞きが悪いな」
「あなた、私が知らないと思ってるの? 亡くなったお兄さんの妻に文を届けさせたりしてたでしょ。非常識にも程があるわ!」
「いや、どうせ断られたし」
「そういう問題じゃない!」
一喝した途端、頼朝は政子の肩を掴んで顔を寄せた。

「な、何よ」
「だって政子が悪いのだ。私を放っておくから」
「……は?」
いきなり当てこすりをされて、政子は面食らう。
「子が出来るのは嬉しいが、その途端に政子は冷たくなる。だから仕方なく私は浮気をするのだ」
「何よ、それ。一体どういう言い訳よ?」
政子は叫んだ。人のせいにして言い逃れようとしている。
でも、頼朝は至極真面目に答えた。
「言い訳じゃないぞ。真実だ」

政子は手で額を押さえるともう片方の手を横に振った。
このままでは頼朝の思うつぼだ。話が自分の思う方とは違う方向へ流れていく。
「ちょっと待って。その話は後にしましょ」
「その話って浮気のことか?」
政子は頷いた。今はその話をしたいんじゃない。

「あなた、今がどういう状況かわかってるの? つまりその、色恋や浮気とか嫉妬は抜きにしてよ?」
「ああ、わかってるとも。政子、そなたは見事、源氏の嫡流を継ぐ男児を、万寿を産んだのだ」
頼朝は喜色満面、拍手せんばかりの様子でそう答える。
政子は「ああ」と返事をして、それから首を振った。
駄目だ。この人にはそのものずばりを言わないと通じないらしい。

「違うわ。そういうことじゃない」
「じゃあ、どういうことだ?」
きょとん、とした様子で頼朝が問うてくる。
政子は頭痛がしてきた。
本当にこの人はわかっていないのだろうか? あれだけ大変だったのに喉元過ぎたら忘れてしまうの?

政子は、くわっと口を開いた。
「平家追討はどうなったのよ? ここ最近、あなたは遊んでばかりで何もしてないじゃない! 信濃では木曽義仲殿が武力を増してるって聞くわ。都でだって色々動きがあるのに、あなたはのんべんだらりと遊ぶばっかり! 万寿のお祝いだとか、八幡宮を整えるとか、そんなことよりも大事なことが他にあるでしょ! 土佐であなたの弟が討たれたのになんとも思わないの?」
一気に捲し立てる。

頼朝は目を瞬かせ大人しく聞いていたが、しばししてゆっくりと首を傾げた。
「政子、もしかしてそなた、私が都に上らないことを怒っているのか?」
「そうよ! あなたは何の為に挙兵したのよ! 武士が自らの土地を守れるように、貴族から土地の権利を取り返すために多大な犠牲を払って挙兵したんじゃなかったの? それを、私が出産で動けないのをいいことに、女にばかりうつつを抜かして!」
「それで館を壊せと命じたのか?」
「そうよ」
政子は鼻息荒く頷いた。

「どう? 壊されて怒りが沸いたんじゃない? 武士らしく猛々しい気分にならなかった? 目が覚めたでしょ?」
自分が動けるならば自分がその先導に立ちたかった。不義の輩の館を打ち壊すなど想像するだけでわくわくする。
怒れ、立ち上がれ、武器を取って戦え!
女でなければ、子供さえいなければ、自分だって弓を手に馬で戦場を駆け巡りたいのに。
政子はそういう類の女だった。

わくわくと目を輝かせる政子に、だが頼朝は顔を覆った。
「……何よ?」
政子は口をへの字に曲げる。
「お前は私の浮気云々よりも、私を怒らせて奮起させるために打ち壊しさせたのか?」
「そうよ」
他にどんな理由があるというのだ。
浮気を追求したってこの人はどうせ飄々と言い逃れるだけ。ならば鎌倉中に知れ渡るようにしてしまえば逃げることは出来ない。正面から向き合うだろう。

頼朝は冷たい砂浜に腰を下ろすと頭を抱えた。
「お前は私の予想以上に恐ろしい女だ」

その声に政子はひやりとする。
やり過ぎたのだろうか? 確かにあまり褒められたことではないだろうが、でも頼朝なら許してくれると思った。誰にも怪我をさせるつもりもなかったし、打ち壊しさせた者達にもそれを十分言い含めた。だけど……。
政子は気丈な顔をして寄せては打ち返す波を見据えた。
「……悪かったわね」
ぼそりと呟く。
離縁すると言うならそうすればいい。八幡と万寿を連れて伊豆に帰ってやる。置いて行けと言われるだろうが知るものか。

だが、次の瞬間聞こえたのは頼朝の笑い声だった。笑い声は覆った手の隙間から漏れて来る。
政子は黙ったまま頼朝を見つめた。
頼朝は政子の視線の中で顔を上げると侍烏帽子を外した。結っていた髪をほどき、くしゃくしゃと掻き乱す。それから立てていた膝に頬杖をつくと、政子を見上げた。

「うん、政子はそれでいい」
下ろされた髪の隙間から政子を覗く瞳。
放たれる色気に、どきりとする。

でも政子は知らん顔で頼朝を足で軽く蹴った。
「ほら、波が来るわよ」
政子が言い終わらぬうちに、波が頼朝を襲った。

 

名こそ惜しけれ(頼朝と政子)5

 

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