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名こそ惜しけれ(頼朝と政子)7

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LULUSIA-ルルシア-

 

 

 頼朝の手が政子の胸元に伸びた。着物の上から膨らみを掴まれ、揉まれる。その瞬間、政子は違和感とその後の焦燥感、喪失感に「あ」と小さく叫んだ。頼朝が顔を上げる。
「どうした?」
「……何でもない」
 そう言いつつも、政子は僅かにじりじりと動いて胸を隠すように前で腕を組んだ。
「甘い匂いがするな。良い香りだ。懐かしい」
 そう言って、頼朝はくん、と政子の胸元に顔を近づける。
「着物が濡れている」
 政子は必死の顔で腕を伸ばすと、頼朝を遠ざけた。
「波で濡れたの!」
「波なものか」
「知らない!」
 わかっているくせに。
 政子は羞恥で頬を真っ赤に染め、起き上がると頼朝に背を向けた。

 乳が零れたのだ。子にあげられないまま放っておかれた乳が。
 あげられない乳はすぐに涸れる。でも政子は何となし授乳を諦められきれないまま、自ら絞っていたのだった。
 万寿にあげられる見込みなど、まるでないのに。

 ああ、もう。
 政子は泣きたい気持ちで天井を見上げた。
 火の粉がふわりと飛ぶ。
 朱色、鬱金色、瑠璃色、紅緋色に白。舐めるように揺れる炎の形。いっそ、この火が鎌倉中を燃やし尽くしてくれればいいのに。全て夢にして、昔のままに小さな館に家族三人、放っておいてくれたらいいのに。

「済まぬ」
 後ろからふわりと抱き締められる。麝香の匂いが政子をくすぐる。変わらない。新しい女を抱こうと馴染みの女を抱こうと、まるで変わらない頑固な彼の性質がよく出てる、そんな香り。

「約束する。そなたを一生大切にする」
 甘い言葉。甘い雰囲気。色っぽい熱っぽい目。
 でも騙されない。
「大切にしてないじゃない」
 睨んだら、頼朝は不思議そうな顔をして答えた。
「これ以上ないくらい大切にしてるぞ?」
「どこがよ。他の女にご執心だったくせに」
 はっきりと言ってやったら、頼朝は「ああ」と頷いてにっこり笑った。
「大丈夫だ。政子以外の女は全部繋ぎだから」
まるで邪気のないその口調に呆れる。
「よくそんなことが言えるわね」
「だって本当だから仕方ない」
「他の女にも同じこと言ってるでしょ!」
「いや、言ってないぞ。自慢ではないが、私は嘘はつけないのだ」
「それ嘘! いつも嘘ばっか、大ボラばっか、ついてるじゃない!」
「そうか? 私は嘘などついた覚えはないが?」
 心の底からそう思っているらしき顔。政子は口をつぐんだ。

 確かに頼朝は嘘をつこうとしてついてるわけではない。大ボラを吐いてるわけでもない。真実、心から思ったことを口にしているだけ。だから彼の言葉には重みがあるし、御家人達も無条件で従う。
 でも胸がムカムカとする。彼と一緒にいると自分がひどい策士のように感じるのだ。器の小さい人間のように感じるのだ。悪いのは自分ではない。彼だというのに。

 政子は口を尖らせて横を向いた。
「もう別にいいわよ、好きにしなさいよ。私も好きにするから」
「また館を打ち壊すのか?」
 ニヤニヤとからかうような顔。ムッとする。
「いいえ、同じことはしないわ。もっと凄いことしてやるんだから」
「ほぅ、例えば?」
「え、例えば? それは……言えないくらい凄いことよ」
「へえ」
 ニヤニヤ、ニヤニヤ。どうせ何も考えてないんだろうって顔。確かに今は何も思いつかない。
「だって言ったら面白くないでしょ? でも凄いことよ。あなたなんか鎌倉から追い出しちゃうくらい」
 その途端、頼朝は目を細めた。
「追い出してどうする? 他の男を据えるのか?」
「え?」
 頼朝の声の質が変わったことに政子は驚き、振り返った。その政子の前には不遜な笑みを浮かべた男がいた。
「それは困るな」
 細めた目の奥に剣呑な光。鷹や鷲の鋭くて真っすぐな目に射られた心地がして、政子は思わずこくりと咽を鳴らした。肉食系の獣が獲物を狙う目だ。
「では、万寿の代わりに私がそなたの全てをいただこう」
 頼朝は政子の肩に手を伸ばすと床に押し倒した。政子の手を掴むと無理矢理どかし強て引に胸元を開く。立ち上る甘い香り。驚きに身を強張らせていた政子は反応が遅れる。
「ちょっ……ちょっと待ってよ」
 その咎めの声は聞かず、頼朝は政子の胸に顔を埋める。赤く熟れて焦れた実をしゃぶられ舌で押しつぶされる。吸われる。その途端、えも言われぬ解放感と強力な喪失感が政子の全身を襲った。
「あ……!」
 思わず声が漏れる。慌てて口に手をやる。それは赤子の為のもの。政子の頬を涙が伝う。
 でも頼朝はそんな政子を気にせず、政子の額にこつりと自らの額を当て、猛禽類の眼のまま口を開いた。
「そなたの全ては私の物だ。他の誰にもやらぬ」
 言葉が出ない。
「万寿など放っておけ。私だけを構え」
 そう言って、また頼朝は政子の胸に食いついた。
 痛い。胸がずくずくと痛んだ。
 それが無理矢理吸われる物理的な痛みなのか、気持ちが昂ったゆえの精神的な痛みなのか、もう政子にはわからなかった。
 無茶苦茶な男。我が侭勝手な男。
 それでも親なのか。あんなに姫のことを可愛がるくせに。万寿のことを嬉しそうに話すくせに。
 わからない男。
 何を考えているのか、何をしたいのか。何が欲しいのか。
 貴種として生まれ、戦に負けながらも生き長らえ、あらゆる人に愛されて守られて。
 なのに、どうしてまだこんなに飢えているのか。

 甘い乳の匂いと麝香の香り、汗の匂い。木の燃える匂い。磯の香り。
 全てがないまぜになった小さな小屋で、政子は母から女へと戻された。

 

名こそ惜しけれ(頼朝と政子)8

 

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