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流鏑馬神事(海野幸氏と大姫・前編)

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LULUSIA-ルルシア-

 

 

「見事でした。うんこ太郎」
よく通る透き通った声に、ザワリと場が揺れる。

言った張本人と言われた張本人は、しばし視線を絡ませ合った。上座に座る発言の主である姫君を、下座にて礼を取っていた海野幸氏は信じられないものを見るような目で見る。

流れる沈黙。重い空気。

その時、「プ」と噴き出した人物があった。
鎌倉の主、源頼朝だ。
最初のうちは一応我慢をするつもりだったのか横を向いて耐えていたが、その内に抑えきれなくなったと見え、扇で顔を隠した。でもその肩は上下に大きく揺れ、おまけに「ヒーヒー」と苦しそうに笑い継ぐ呼吸音が盛大に漏れてやがる。それを皮切りに「プクク、ククク」と周囲からも小さな笑い声がさざめき出し、最後には「アハハ、ゲラゲラ」の大爆笑になった。

鎌倉一の姫、八幡は美しい絹を身につけ、黒々とした髪を豊かに下ろして上座に鎮座している。でもその顔は扇で隠れ、父と同じように肩をカタカタと震わせていた。
幸氏は幸氏で、怒りにカタカタと震える拳を床に押し付ける。

あの小娘、ぜってー後でしめる!
久しぶりに、最大級に、超絶級にムカついたぞ。
この神聖な場、そしてこれだけの観衆の前であんな発言をぶちかまし、顔を隠して笑ってやがるとは!

でも姫は笑っていたのではなかった。
震えていたのだ。
心の中で幸氏に詫びながら、でもどう収拾をつけていいのかわからないで弱り切っていた。

その時、救いの声が降臨する。
「本当に。見事でしたよ、小太郎。ねぇ、あなた」

豪奢な小袿を身に纏い、堂々と立つ鎌倉の女主人。北条政子はサラリと頼朝に近づくとその後ろに控えた。
直後、政子の肘が頼朝の背中にゴスッと鈍い音を立てて入ったのを幸氏は見た。頼朝の背がビシッと伸びる。同時に笑いさざめいていた男女がシンと静まった。

「褒美を取らせましょう」
政子は美しい織の布を侍女に手渡した。
「これを装束に仕立て、次の流鏑馬で一番手に立つよう精進なさい」
幸氏は頭を下げ、侍女からその反物を受け取る。恭しく掲げ、また顔を上げた所で八幡姫も隠していた扇から顔を上げた。つんと澄ました顔。でも耳が赤くなってる。

幸氏は真っすぐ姫を睨んだが、姫は視線をかわして合わせようとしない。あからさまに敵意を剥き出しにする幸氏に、知らんぷりする姫。重い空気に場は静まったまま。

「うん、見事だった。さすがは海野小太郎だ。なぁ、八幡」
今更ながら取りなそうと思ったのか、頼朝が声をかけるが、姫は顔をフイと横に向けて口を開いた。
「武田殿もご立派でした」
幸氏の後ろにいた武田五郎信光が立ち上がり、横に並んで礼をする。信光は頭を上げる直前、チラと幸氏を見て不敵な笑みを見せた。

『お前には負けない』
目がそう言っている。

睨み返す。
『それは俺の言葉だ』
事実、俺は負けていない。

その後は武田の甲州流の弓術の話で場は和やかに進んだ。信光は挙兵以来の近臣で頼朝の気に入りだ。あの八幡姫すら笑顔で談笑している。だが、幸氏は姫を睨み続けた。

狭量と言われようと知ったことか。
お前、俺になにか恨みでもあるのかよ。

 

ー 流鏑馬神事(海野幸氏と大姫 前編) ー

 

「あ、うんこ太郎が来た」

皮肉をたっぷりと含んだ声。振り返るまでもなく声の主はわかっている。北条五郎だ。幸氏より三つ下で、元服もまだのお子様のくせに、いつも張り合ってくる面倒な奴。御台所・政子の年の離れた弟であるがゆえに、御所内を我が物顔で徘徊している。

幸氏は五郎を無言で睨みつけ、そのまま通り過ぎようとした。
が、その横からおずおずとした声がかかる。
「あ、あの、小太郎」

幸氏は足を止め、声の主を振り返った。
八幡姫だ。
先ほどの華やかな衣装は脱ぎ捨て、いつもの身軽な小袖姿になっている。幸氏は無言のまま八幡姫を睨みつける。その耳はまだ赤いまま。目も合わない。でも覚悟したのか彼女は口を開いた。
「わ、悪かったわね」
つんと横を向いての言葉。そのままクルリと向きを変えて逃げ出した。

神聖なる流鏑馬神事と、武士の誇りをズタズタにしておいて、たったそれだけかよ?
幸氏は口をひん曲げ、逃げる姫を追った。
「一体どういうつもりだ」
「どういうつもりも何も間違えただけでしょ!」
柱の周りをグルグルと逃げ回る姫。ついムキになる。手を伸ばしてその手首を捕まえる。

子供の頃から変わらない細い手首。折れそうに見えて、けして折れないしなやかな柳のような腕。だが子供だからと油断してかかると、こちらが痛い目に遭う。幸氏は遠慮せず、姫の両の手首を掴んで持ち上げると柱に押し付けた。

「普通、あんな間違いしないだろ」
真っ正面から睨み据える。普段は負けず嫌いでけして屈しない強い目が今日は珍しく弱気だ。合わせようとしても逸れる。逃げる。

ふと気付く。
姫の背が伸びた。こうやって顔を覗き込むのに、ほとんど屈まなくていい。義高殿がいた時は俺の背の半分程だったのに。

「痛いから放してよ!」
真っ赤な顔をして叫ぶ八幡姫。
「おい、小太郎! 八幡の手を放せ!」
小太郎の腕に五郎の手がかかり、強く引っ張られる。小太郎は眉を寄せると手を開いた。

八幡姫は柱の後ろに逃げ隠れ、そこから顔を半分だけ出した。
「間違えただけよ。単純に」
「単純に、だぁ?」
「そうよ、海野小太郎、うんのこたろう。『の』が一つ取れちゃっただけじゃない」
確かに。一文字消えただけだ。でも……

幸氏は柱に腕をかけ、ガンと柱に頭を当てる。
「取れちゃっただけ、じゃないだろ」
冗談じゃない。あんな神聖な場で、そんな間違いがあっていいものか。

「だって……」
柱を挟んで、八幡と幸氏は目を合わせる。真っ黒で大きな瞳が揺れている。
それを見て幸氏は確信した。本当にただ間違えただけなら、こいつはここまで逃げたりしない。もっと開き直って『間違えやすい名前なのがいけないでしょ!』くらい言うはずなのだ。だから、絶対に何か理由がある。

「何で声を上げた」
「え?」
「今までああいう場で、お前が誰かに声をかけたことがあったか? なかっただろ? それが、何故今回に限って声を発した」
「だって、それは、だって」
姫の目が左右に泳ぐ。
こいつ、やっぱり狙ってあの発言をしやがった。

幸氏はゆっくりと繰り返した。
「何の為に、あの発言をした」
八幡姫はぎゅっと目を瞑って下を向いた。

その二人の間に五郎が割って入る。
「小太郎。いい加減にしろって言ってるだろ!」
ここ最近、急に背が伸び始めた五郎は態度の大きさも三割増にでかくなり、扱いにくいことこの上ない。
八幡は五郎の助けにホッとした顔をして五郎の後ろに隠れる。五郎は得意げな顔で腕を伸ばすと、これ見よがしに八幡の肩を抱いて幸氏から遠ざけた。
その二人の態度に、怒りが更にこみ上げるのを感じる。
何で俺が悪者みたいに扱われないといけないんだ? こっちは被害者だぞ。

「お前、俺に恥をかかせようとしただろ。何の恨みがある!」
「恨みなんかない! 小太郎の初めての流鏑馬だもの! 名誉挽回の機会と思ったのよ!」
「名誉挽回どころか、地に堕としやがった奴が何を言う」
「そ、それは……」
また口ごもった。姫らしくもない。苛々する。
「俺が流鏑馬の射手に選ばれたのが、そんなにおかしいかよ」
「違うわ! 小太郎がいけないのよ! 鼻の下伸ばしちゃってさ!」
「……は?」
思いもよらぬ言葉に幸氏は面食らう。
鼻の下?

「八幡!」
五郎が鋭く制止の声を上げたが八幡は止まらなかった。
「女の人にキャアキャア言われて、いい気になってるからいけないんじゃない!」

真っ赤な顔の少女が怒りに満ちた顔で自分を見上げている。
ええと……?
これは、一体どう理解すればいいんだ?

 

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ひとこと

大姫の名前を八幡姫と仮定して書いてます。昔は女の人の名前がなかなか残らなかったんですよね。妹の三幡姫は一応残ってるんですけどね。
うちの大姫はツンデレ姫さ。

 

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