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流鏑馬神事(海野幸氏と大姫・中編)

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LULUSIA-ルルシア-

 

ー 流鏑馬神事(海野幸氏と大姫 中編) ー

 

 

射手の放った鏑矢が的の中心を射抜いた。
真っ二つに割れ、跳ね飛ぶ的。
周囲の男達が、わっと歓声を上げる。
「お見事!」
三つ全ての的を皆中した射手は、馬を軽くなだめ、その場に降り立った。
緋色の束帯姿。頭には卷纓冠に老懸。涼しい眼で正面の頼朝を見る。

「まぁ……!」
女達は感嘆のため息をあげ、サワサワとさざめき始める。
扇で口を隠し、ヒソヒソと声をたてる。

「今の、どなた?」
「お見かけしたことないわ。どこの御曹司?」
「お若いのに堂々としてご立派ね」
「神事の射手だなんて、大抜擢じゃない?」

頼朝が満足げに頷く。
「見事だ。海野小太郎幸氏。後で褒美を取らせるぞ」
幸氏は腰を落とすと軽く頭を下げる。これが初の流鏑馬とは思えぬ落ち着いた所作。

「海野ですって」
「どこの土地の方? 海野なんてこの辺りにあったかしら?」
「あら、信濃よ。私知ってるわ」
「信濃? 信濃の源氏の?」
「それは小笠原殿でしょ。違うわ。ほら、昔に木曽殿と一緒に挙兵された……」
「あ、もしかして義高殿のお供だった子?」
「そうよ」
「でも、その子達も義高殿と一緒に殺されたのではなくて?」
「しっ! あなた達お黙りなさい! 大姫君に聞こえるわ」

声の大きくなったのを一人の女官が制する。
女官達は席の上座、頼朝のすぐ脇に座る姫を見上げ、口をつぐんだ。

(——聞こえてる。聞こえてるわ。)

八幡は扇を持つ手が震えないように、細く細く息をしていた。
聞こえない振りをする。
でも睫毛は細かく震え、姫の動揺を物語っていた。

幸氏は誇らしげに顔を真っすぐ上げると腰を浮かした。
向きを変え、砂利を踏み分けて射手の列に戻る。

「ね、結構いい男ぶりじゃない?」
「若いわね。可愛い!」
「神事の衣装がお似合いだわ」

この流鏑馬が始まってより、いや、幸氏がこの役を受けた日から
ずっとその成功を神仏に祈ってきた八幡だった。
この席についてからも、手を固く握りしめ固唾をのんで見守っていたのだ。

四年前、義高の供であった幸氏は、義高を逃がして身代わりとして鎌倉に残った。
斬首される所だったのが生き延びたのは、表向きは頼朝が幸氏の忠誠心に感動したからということになっている。
でも幸氏を牢から救い出したのは八幡だった。

鎌倉の敵方である木曾義仲に味方したことで海野の家は断絶の危機に晒されていた。
海野の一部勢力が、木曾義仲の残党としてしばらく抵抗を続けていたこともある。

そんな中、父と兄の戦死によって十二で海野の家督を継いだ幸氏は鎌倉に留め置かれた。
抵抗勢力を一掃して初めて海野の家の存続が認められ、その初舞台がこの鶴岡八幡宮の臨時の流鏑馬神事だったのだ。

名誉挽回の重い責任を背負いながら迎えた流鏑馬。
三つの的を冷静に皆中で落とした幸氏に、八幡はホッと安堵の息を漏らしたのだが、
そのあまりの見事さに、一躍、時の人となってしまったのである。

海野幸氏は弓が得意だった。
北条の庇護の元、この四年は鎌倉で姫や五郎に弓を教えながら過ごした。

姫にとっては誰よりも近しく思える相手だった。
それが、今は何故か誰よりも遠く感じる。

射手の列に戻った幸氏が何かを話しかけられ返事を返した。
普段、あまり笑わない幸氏が笑っている。
さすがの幸氏も大役を終えて、ほっとしたのだろう。
その笑顔を見て、また女達がさざめく。

「お優しそうじゃない? お若いのに大抜擢よね」
「鎌倉殿の覚えもめでたくて将来有望だわ」
「もう北の方はいらっしゃるのかしら?」
「私、今度話しかけてみようっと」
「ちょっと、抜け駆けしないのよ!」

女達が生き生きと話し合っている。
獲物を狙って動き出す。

ここにいる女官達は各氏族の姫君やその縁の子女達だ。
有力御家人に見初められ、あわよくばその妻にと、狙いも明らかに御所に詰めている。
父や兄から「何としても良縁を」と命を受けてやってくる娘もいると聞く。

八幡は眉をしかめ、笑顔の幸氏を睨んだ。
どうせ男なんて皆、美人が好きなんだ。
色白で大人しくて優しそうな女が好きなんだ。
でも、その清らげな女達が裏で何を話してるかを聞いたら、百年の恋も冷めるだろうに。

八幡は自分の中に、何やらどす黒い感情が生まれているのを感じていた。
口をきゅっとつぐむと、心の中で幸氏の悪口を捲し立てる。

あいつ、小太郎なんて昼寝してる時は目を開けて寝てるんだから。
すっごい怖いんだから。
かっこよくなんてないし優しくなんてないんだから。
すぐ怒るし、すねるし、睨むし、冗談が通じないし。

弓の稽古の時なんか鬼そのものなんだから。
手が切れたって指が血だらけになったって最後までやらせる鬼なんだから!

(でも……)

ふと、心にのぼった一つの記憶。

でも、うまく出来たら褒めてくれた。
笑って褒めてくれたの。
ほとんど笑わない小太郎が自分のことのように笑って喜んでくれた。
だから私は……

八幡は左手の甲に残る古い傷を軽く撫でた。

本当は小太郎が褒められるのは嬉しいのだ。自分のことのように誇らしく思う。
なのにどうして、こんな焦りや悔しさを感じなくてはいけないの?
女達の噂の的になどなって欲しくない、なんて。

八幡は頭を軽く振って、その不可解な感情を頭から追い出そうとした。
それを何と呼ぶかは、その時の八幡には分かっていなかったけれど。

そして女達への憤りは、次に八つ当たりのように幸氏自身に向かうこととなる。

何よ、あんな軽薄な顔しちゃって。
普段はあんなに怖いくせに。仏頂面なくせに。
すぐ怒るくせに。

小太郎は小太郎なのに。何も変わらないのに。

そして、つい口を開いてしまったのだ。
普段ならじっとおとなしく、つまらない顔をして座っているあの場で。

 

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