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腑抜けの三郎―北条重時―02

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 蒸し風呂のような凪の刻が過ぎると、今度は風が海に向かって流れ始める。耳に心地よい波の音、汗ばんだ身体を優しく撫でる風。ついうとうとと眠りに落ちかけた時、次郎兄が口を開いた。

「起きろ。道が出来るぞ」

 慌てて跳ね起きた三郎は目を疑った。目の前の海に細い一本の道が出来ている。道は江島まで通じていた。いつの間にか満月はその紅い顔を黄金色にして、頭上高くから道を照らすように海に月影を落としている。

「予定通りだ。行くぞ」

 木刀に手をかけ歩き出す次郎兄に、三郎は足をもつれさせ追い縋った。

「江島は駄目だよ! 祟られるよ」

「今日は大丈夫だ。道が出来てるんだから」

 零れそうに目を見開き首を横に振る三郎の手をそっと外し、次郎は島を睨み据えた。

「ならば、お前はここで待っていろ」

 言うなり駆け出す兄。三郎も弾かれたように飛び出した。冗談じゃない。こんな真っ暗な恐ろしい海辺に一人置いて行かれたら魔物に喰われてしまう。

 だが、五つの年の差は歩幅の差に表れる。前を行く兄の草履の音はどんどん遠ざかり、遠く近く囁く波の音が三郎の嗚咽を掻き消す。

 江島まで通じる砂の一本道。これは竜が棲むという竜宮城への一本道だ。海の底への、地獄への道。

 三郎はひたすらに心を殺して砂の道を走った。ひたひたと寄せる波の触手をかいくぐるように無我夢中で走った。

 ふと大きな黒岩にぶち当たった。見上げれば月明かりに照らされる大きな島影。江島に着いたのだ。ガクガクと震える膝。足元をカサカサと蟹が過ぎる気配がする。

「三郎、こっちだ。手を出せ」

 頭上からの兄の声に三郎は涙をぽろりと零した。でも慌ててそれを拭うと大岩に向かって手を伸ばす。引っ張り上げられる。波の音が少しだけ遠ざかって、三郎はほっと息をついた。

 それから二人は江島の誰もいない参道を走り抜けた。坂を上りながら三郎は夢でも見ているような心地でいた。これが夢ならばいいのに。

「着いたぞ」

 兄の声に顔を上げれば、二人は島の裏側の断崖に辿り着いていた。

 表側の穏やかな顔が嘘のように切り立った大岩ばかりがそびえる裏側。大岩に波が激しくぶち当たり白い水飛沫を上げる。侵食された洞窟の梳き歯の間を風が通り、オウオウと異様な声を発する。

 二人の前には、ぽっかりと大口を開けた洞窟があった。満月の明るい光すら呑み込む、底なしに深い闇。ぞわりと背に這い寄る得体の知れないモノ達の気配に、三郎は足が竦んで動けなくなった。

 なのに次郎は無表情で告げたのだ。

「よし、入るぞ」

「いやだ!」

 間髪入れずに三郎は叫び返す。ここは神域だ。悪戯で入っていい場ではない。江島は父母に連れられて何度か参拝に訪れた。でも島の裏にこんな恐ろしげな場所があるなんて三郎は知らなかった。

 頑として動こうとしない三郎を後目に、次郎はそれまで手にしていた木刀を腰帯に差し、代わりに懐から小刀を出した。漆黒の鞘に紅の美しい柄糸。その小刀に見覚えのあった三郎は息をのむ。

「次郎兄、その刀はもしかして……」

「ああ。父上が頼朝公にいただいた懐刀だ」

 二人の父である義時は、初代将軍・源頼朝の妻・政子の弟にあたる。父は北条より分家して江間を名乗っていた。頼朝は義弟である義時を信頼し、懐刀として重用した。その信頼の証に下された大切な小刀を次郎は持ち出したのである。

「父上がどれだけ怒るか……」

 父は寡黙で滅多に声を荒げることはなかったが、その分叱る時の迫力といったら言葉に出来ないくらい恐ろしかった。

「三郎、お前黙っておけよ」

 かくかくと首を細かく振る三郎を見て、次郎は満足気に頷くと薄く口の端を上げて尋ねた。

「お前は、将軍様の神罰の噂を聞いたか?」

 

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