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頼朝・北条好きFanSite「あづまがたり」

腑抜けの三郎―北条重時―03

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 神罰――?

 小さく首を横に振る三郎に、次郎兄はぎょろりと目を剥いた。

「将軍様が禁忌を犯して探らせた伊東と富士の洞穴には、巨大な大蛇が棲んでいたんだと。それらを斬って捨てたから将軍様は病にかかったんだ。その穴は龍の穴で、龍を征して宝を手に入れた者はこの世の覇を手に入れられるらしい。伊東でも富士でも将軍様は先には進めなかった。だが、その洞穴はここ江島に通じている」

 三郎は腰を抜かした。ぺしゃんと尻餅をつく。洞窟の前の岩場はひどく濡れていた。尻が冷たくなる。でも三郎はそんなことより何より兄の顔が恐ろしかった。

「龍の宝って、何?」

「知らん。剣とも玉とも言われている。伝説にあるだろう? 素戔嗚尊が八岐大蛇を斬ったら草薙の剣が出たと」

「でも三種の神器の草薙の剣は、平家と一緒に壇ノ浦に沈んで見つからないって」

「見つからないからこそ意味がある。あの剣は元々、八岐大蛇の体内にあったもの。壇ノ浦をいくら浚っても剣が出ないのは八岐大蛇が甦って自分の剣を取り戻したからだ。蛇や龍は水の中に棲むからな」

 興奮して言葉を紡ぐ兄。三郎は嫌な予感に怯えながら兄を見上げた。

「まさか、その剣を手に入れるつもり……?」

 身体がガタガタと震えている。障りに触れた頼家は、まだ重篤な状態を脱していない。このまま亡くなるのではと噂されていた。

「無理だ。死んじゃうよ。神罰が下るよ!」

「それでも俺はやらなくてはいけない。今は北条の危機だ。龍の宝を手に入れて北条を守るんだ! 満月の大潮の日は江島への道が出来て龍が眠りから覚めると聞いた。そしてその通りになった。だから俺は……!」

 その時、頭上から声が降ってきた。同時に松明の炎が辺りを明るく照らす。

「まさかと思ったら、次郎と三郎か?」

 その声に覚えがあった三郎は叫ぶ。

「泰時兄!」

 高台の上には二人の兄である泰時が松明の火を掲げて立っていた。泰時は驚いた顔をしていたが、でもその頬にはいつもと変わらぬ穏やかな笑みが浮かんでいた。

「一体どうやって来たんだ? いたずらっ子ども。父上の大目玉を覚悟しておけよ」

 こんな場なのに、ゆったりと穏やかな長兄の声。全てを受容してくれる温かみを持った声。三郎は今度こそボロボロと涙を零した。

「兄上ぇ……」

 その横で次郎兄がチッと舌打ちする。そして次の瞬間、次郎は真っ暗な洞窟に向かって駆け出した。三郎の手を引っ張って。

「次郎兄! やめて!」

 抵抗虚しく、三郎は洞窟に足を踏み入れてしまう。

 その途端、音が全て消えた。波の音も走る次郎の草履の音も自分の呼吸の音も胸の鼓動すら。

 闇という文字は音を囲って出来ている。

 何も見えない。聞こえない。握っているはずの兄の手の感覚も草履を履いた足の感覚も濡れた冷たい着物の感覚も何もない。真の暗闇は音すら呑み込むのだ。

 ふと足を取られたように感じた。均衡を失って前につんのめった三郎は、冷たい何かの中に顔からズボリとはまり込み、呼吸すらままならなくなった。

――死にたくない。

 冷たい何かに全身を包まれ、呼吸も身動きも出来ず、ただただ三郎はもがいた。

――死にたくない。死ぬのは嫌だ。

 盲いの法師が辻で唄っていた平家物語。朗々と美しく歌い上げられる死に様に感動の涙を流す人達の中で、三郎はただ一人違和感を胸に突っ立っていた。

 ベンベンと搔き鳴らされる琵琶の音は、弦から放たれた矢が腕に足に首に突き立つ音のよう。首を締め上げていく縄の軋みのよう。

 いつか覗き見てしまった斬り離された武士の生首。その大きく開かれた双眸や、恨み言を口にしたまま閉じ損なって血に紅く染まった歯の並びが思い起こされ、固く身を強張らせる。

――僕は死なない。絶対に生き延びてやる。

 武士の子に生まれ、死して名を遺す事が美徳だと死を間近に教えられながらも、三郎は死ぬ覚悟など毛頭なかった。死とは恐ろしいもの。それから逃れられるのならば、どれだけ『腑抜け』と呼ばれても構わない。

 

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