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腑抜けの三郎―北条重時―05

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 その昔、奥州征伐の年にも人魚が浜に流れ着いたと聞く。人魚が浜に上がる年は災いが降り掛かると言われていた。だから、人魚とは恐ろしいものに違いないと三郎は思っていた。

 でもこの人魚は恐ろしげな顔はしていない。ただ、聞いたことのない不思議な歌を口ずさんでいた。五・七の和歌のようだが言葉に意味が象られていない。呪のような不思議な韻律の歌だった。

 気付いたら少女は三郎を見つめていた。三郎は戸惑いながら口を開く。

「ここはどこ? 君は誰なの?」

 だが返事はない。黙ったまま見つめ返される。

「僕は江間三郎って言うんだ。君の名は?」

 しばらくして少女の口が薄く開いた。 

「音」

「おと、か。いい名だね。乙姫みたいだ」

 褒めるが、少女・音はにこりともせずじっと三郎を見つめている。三郎は仕方なく記憶を整理し始めた。

 暗闇の中、足を取られたように思ったのは水の中に落ちたのだろう。だが、その後の記憶がない。

 三郎はドキンとした。

 おと……乙姫? 竜宮城の乙姫ではないだろうか? 江島のあの道はやっぱり竜宮城に繋がっていたのだ。

「ここ、もしかして竜宮城なの?」

 三郎の問いに、音は首を傾げた。三郎は不安に高鳴る胸を押さえて次の質問を口にする。

「僕、もしかして死んじゃったの?」

 すると音は今度は首を横に振った。

「溺れてた。だからここに連れて来た」

 ぶっきらぼうな調子だが、とりあえず会話が通じたことに胸を撫で下ろす。

「君が助けてくれたんだね」

 音は首を傾け、また黙って三郎を見ている。

「君はここに住んでいるの?」

 今度は小さく頷いたように見えた。

 真っ白な肌に真っ黒で大きな瞳の少女。こんな子見たことがない。三郎は胸の鼓動が高くなり息が苦しくなるのを感じた。洞窟の中を観察している風を装って、こっそりと目を逸らす。

「僕、竜宮城に来たのかと思っちゃったよ」

 笑って見せるが、音はやはり無表情のまま。その時、三郎は音の腕が何カ所か切れて赤い血が流れているのに気付いた。

「腕を怪我してるよ、大丈夫?」

 音は自らの腕を眺め、それからぺろりとその傷口に舌を這わせた。三郎は驚く。

「薬は? 止血しないでいいの?」

「怪我は舐めて治すのが早いって、龍が」

「龍? 君の家族?」

 人の名だろうか。名の通りの豪胆な人に違いない。こんな女の子に怪我を舐めて治せというくらいなのだから。

 音はそれには答えず、二の腕の外側の血が滲む箇所に舌を伸ばした。が、舌はそこまで届かない。腕は三郎の前へと突き出された。

「舐めて」

 三郎は慌てて手を横に振る。

「傷は真水でよく洗って包帯を巻いた方がいいよ」

「包帯って何? 真水はここにはない」

 三郎は自分の腰に手を伸ばした。でもそこに付けていた筈の水筒は無く、三郎の着物はずぶ濡れで包帯にはならなかった。

 仕方なく腕を突き出したままの音に恐る恐る近付く。その腕を取る。

 冷たく固そうに見えた青白い肌は温かく柔らかかった。血の滲む傷口に顔を近づける。甘いような苦いような匂いがする。三郎はそっと傷口に舌を触れた。が、その途端に腕を払いのけられる。

「こわごわとやるな。痛い」

 確かにそうだ。三郎は音の腕を取ると思い切って一気に舌を這わせた。血の味が舌に乗る。酸っぱいような苦いような、でもどこか懐かしい味だと三郎は思った。

 音はまた琵琶を手にとった。弦をつま弾く。その姿を見て三郎は思い出した。

 この姿、誰かに似ていると思ったのだ。母に連れられ一緒に拝んだ江島神社の絵巻の……

「音は江島の弁天様みたいだね」

 三郎の言葉に音は手を止めて顔を上げる。

「江島の弁天様?」

「うん、とても綺麗な女の神様なんだって」

 その途端、音は頬を紅潮させた。それを見て三郎も頬が熱くなるのを感じる。

 だが突然、鋭い声が洞窟内に響いた。

「そいつは弁天様じゃないぞ。人魚だ」

 冷たく尖り、殺気を孕んだ声。振り返った二人の前には次郎が立っていた。

 次郎兄! と三郎は呼びかけた。そう呼んだ筈だ。でもそこから先の記憶がまた途切れた。

 

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