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腑抜けの三郎―北条重時―11

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 僅か下った京の町。人の賑わう大通りを「言の葉、言の葉」とブツブツ唱えながら牛車の横を歩く少年がいた。三郎だ。あの江島の日、六つだった三郎は十四になっていた。

「なんだ、まだ考えてるのか?」

 牛車の中から可笑しそうな声が響く。三郎は胸元から紙を取り出した。

「はい。定家先生から歌の宿題をいただいたんですが、どう捻っていいやら……」

「三郎は熱心だな。和歌は面白いか?」

「はい!」

「そうかなぁ。私には面倒だけどなぁ。弓や馬の方が面白いがなぁ。ああ、面倒くさい」

 心底面倒そうなぼやきに三郎はそっと微笑む。車中の人は源具親という名の公家。三郎の義父だ。

 あの日、鎌倉を出た母は源具親の妻となった。具親は血の繋がらぬ次郎も三郎もまとめて受け入れてくれた。「面倒だ、面倒だ」を口癖としながら、何をやっても卒のない人。

 名を得た歌人であり武にも優れているのに、そうと悟らせない不思議な空気を持つ人だった。その具親が感慨深げに溜息をつく。

「法然殿にまたお目にかかれるとは、なんと喜ばしいこと」

 法然上人は専修念仏の教えを説いた浄土宗の祖だ。その教えは都の公家に留まらず、平民や武士にも支持され広まっていた。比叡山からの強い反発によって京から遠ざけられていたが、やっと許されて庵に戻った所だった。

 牛車の中、静かに念仏を唱え始めた義父の声を聞きながら、三郎は和歌の師より出された宿題に頭を廻らせた。

 だが祇園社の近くまで来た所で、何やら騒ぎが起きているのに気付く。道を複数の男達が塞ぎ、一人の少女を取り巻いて揉めているようだった。

「おやおや可哀想に。何とかしてやらねば」

 具親はにこりと微笑むと牛車を曳いていた従者に何かを指示する。牛車は徐々に速度を上げ、道上の集団めがけて突っ込んだ。

「ああ、牛が……! 助けてたもれ!」

 具親の大仰な声に、口論していた男達がこちらを振り返る。

 が、牛が真っすぐ自分達の方に車が向かって来るのを見た途端、全員が何故か嬉々とした顔になった。悲鳴を上げて逃げまどうだろうと思っていた具親は驚く。

 中央にいた一人の大男が、パン! と手を打ち鳴らした。

 自らの直垂の襟元を大きく開いて両肌を脱ぐと「そら、来い!」と牛を呼ぶ。腰を低めて両手を横に大きく広げ、四股を踏んで正面から牛車を迎え撃った。

 ガツッ……!

 京の東山、人の多く行き交う通りの真ん中で、大男と牛車は正面から激突した。押し留められた牛車は大きく傾く。具親は牛車の後ろから転がり落ちた。従者が駆け寄って具親を救い出し、道の端に避ける。その横で牛と大男が四つに組み合った。辺りは砂煙で真っ白になる。

「どぉりゃああああ!」

 大音声の直後、牛は大男の頭突きをもろに喰らった。目を白黒させ、絶叫する。

「ブモォォォォ!」

 繋がれていた車を奮い落とすと、牛はガツガツと後足を蹴立てて戦闘態勢に入った。怒りに燃えた真っ赤な目で大男を睨みつける。

「ムッ! やる気になったか!」

 大男は奈良・東大寺の金剛力士像の如く、カッと目と口を見開き、腰を更に深く落として牛の前肢に手をかけた。

「負けぬぞ!」

「モォォォォォオ!」

 三郎はただただ驚いてその光景に見入った。

 人間が牛と戦っている。真っ黒な牛が汗をかき、同じように汗をかいた真っ黒な肌の男と相撲を取っている。どう考えても人間の方が不利なはずなのに、男は道の窪みで踏ん張って一歩も引かない。

 具親はと見れば、道の端で尻餅をつきながらも童のように目を輝かせて勝敗の行方を見守っている。道ゆく人達も皆興奮してやんやと歓声を送っていた。

 ふと、先程男達と揉めていた少女が道端に佇んでいるのに気付く。少女は不思議と落ち着いた顔で事の成り行きを見守っていた。

 

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