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腑抜けの三郎―北条重時―22

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第三章 「さくらの恋 うみの秘密」

 翌一二一二年、三月。東国、安房半島。

 小舟に身を横たえ、波に揺られながら音は天に向かって腕を伸ばしていた。その指に摘まれているのは透明な小さな玉。

「三郎は元気かな」

 京で逢った不思議な男の子。和田の粗野な海の男ばかり見ているせいか『腑抜け』とからかいつつも無性に惹かれた。優しげで落ち着いていて真っすぐで誠実な目をしていた。そして不思議と懐かしい気配がした。

 『鎌倉で会おう』と笑った、あの柔らかな空気を思い出すと胸の奥が温もる。その温もりは身体中に広がり、音を幸せな気持ちで満たした。

「それにしても、あれは何だったんだろう?」

 三郎の手が自分に伸びた時、風に吸い込まれてしまいそうな心地がして身を引きかけた。でもその一方で、もっと寄り添いたいと求める自分がいた。

 今思い返しても不思議な一日。龍神様がいると聞いた祇園社の本殿で地の底に引き込まれた。怖かったけれど三郎がいたから平気だった。夢のようだけど夢ではない。だって玉は実際に音の手の中にあるのだから。

「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……」

 謳うように楽しげに念じる。京のあの場にいた人々が聞いたら顔を顰めるかもしれない。でも音は気にせず歌った。

 半ば無理矢理に連れて行かれた庵の中は異様な空気に満たされていた。一心に祈れと言われたけれど、どうせ浄土に行けるのは裕福な貴族ばかりだろうと最初はひどく冷めていた。でも周りの声に合わせて唱えているうちにふと心が潤った。確かに唱えるだけでいいのかもしれないと思った瞬間、涙が零れた。

「まず型から入り、身体の一部にしろ。無意識に身体が動くように数を重ねろ。動きの意味など考えなくていい。型が身体にぴったりはまったら、その時お前は理解している」

 義秀が稽古してくれた槍の型。身体が思い通りに動くようになると楽しくて、今度は剣を教えて貰った。どんなことでも一心に向かっていると、いつかぴったりと型が身体にはまる瞬間がある。念仏もきっと同じなんだ。

 

「なぁ、言はどうしたんだ? 念仏三昧じゃんか」

 少し離れた小船で昼寝していた巴が起き上がる。秀太は網を手入れする手を止めないまま肩を竦める。

「京で坊さんに会ったとか言ってたけど、あんな念仏を歌みたいに節付けちゃってさ」

 すると、隣の船で仕掛けを手入れしていた風読みの爺が呟いた。

「龍女の恋じゃな」

「はぁ? 爺さん、なんだって?」

「乙姫は恋をしておるのさ。気の毒にのぅ」

「おいおい、爺さんとうとう色ぼけかよ。それに恋なら別にいいじゃんか。なんで気の毒なのさ」

 風読みの爺は溜息をついた。

「龍女の恋は激しいからの。成就しにくいんじゃ。龍女の愛情は深くて強い分、ひどく嫉妬深い。そんじょそこらの男じゃ抱えきれんよ。相手となり得るのは余程の徳を積んだ聖か、または龍神そのものでないとな」

「嫉妬深いって、尼御台様みたいにか?」

 からかうように巴が言う。北条政子の嫉妬深さは鎌倉の人間なら子供でも知ってる。

「確かに尼御台様は龍女との噂もあるがの」

「にしても龍女って何だよ? 鱗があれば龍女かよ。男に鱗があったら龍男ってか?」

「龍女は龍神が女になって現れたものさ。龍神は雨風を起こして人間に気付きを与える。龍女もそんな使命を帯びておるんだろうよ」

「ふーん、使命ね。うん、確かに言は乙姫で、我ら水軍の守り神だもんな」

 巴がそう言った時、急ぎの小船が向かってくるのが見えた。巴は船の上に立ち上がる。

「どうした? 急ぎの荷物か?」

「実は八幡宮から乙姫にお召しがあり……」

「八幡宮から私に?」

 巴が振り返れば、いつの間に小船を寄せたのか音が近付いていた。

「御所様が三崎の御所に花見にお渡りになるその船上で乙姫の舞をご所望とのこと」

 音と巴は顔を見合わせる。

「なんで乙姫の名指しなんだよ?」

「乙姫という名の海の巫女の噂を聞いた御所様が、是非見たいとおっしゃられたとかで」

 途端、巴はダン!と船の上棚に足を乗せた。

「何言ってんだい。乙姫の舞は俺ら海の民にとって大事な神事だぞ。それを遊興の為に舞えだなんてふざけてやがる!」

 巴の怒声を聴きながら、音はそっと海の向こうの鎌倉の方角を眺めた。

 三郎はもう武士になっただろうか? 御所に詰めることもあるのだろうか? そうならば会えるかもしれない。

 

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