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頼朝・北条好きFanSite「あづまがたり」

腑抜けの三郎―北条重時―24

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 そしてその日、音は下船後も三崎御所まで同行させられた。翌朝やっと解放される。

 安房の館に戻った音を、巴と秀太が迎えた。

「大丈夫か? 戻らないから心配したぞ」

 音は疲れ切った様子で小さく頷く。

「何で御所まで連れて行かれたんだよ?」

「知らない。尼御台様がどうしてもと」

「御所で何をさせられたんだよ」

「別に何も。ただ父母のことや生まれた場所を聞かれたわ。親から譲り受けた物や家紋とかも」

「ふーん、それで?」

「知らないって答えたら話は終わって、あとは桜を見てお話に付き合っただけよ」

「話ってどんな話だよ」

「尼御台様のお若い頃の話とか、頼朝公との出会いとか、挙兵時のご苦労とか、色々」

 途端、秀太が噴き出した。

「年寄りは昔話をしたがるものだからな」

「秀太、尼御台様の悪口を言うな」

 ガツン、と巴の拳が秀太の頭に入る。

「巴、お前、この前は『乙姫の舞は神事なのに!』って怒ってなかったか?」

「それは御所様に対して怒ってたんだよ!」

「チッ、巴は女にだけは優しいからな」

「当たり前だ。男なんて信用できねーもの」

 喧嘩を売る巴に、秀太はぼそりと呟いた。

「今の言葉、そのまま胤連に伝えるぞ」

 巴の顔色がさっと変わる。

「ああ? テメェ秀太、今何て言った?」

 すたこら逃げかける秀太と摑み掛かろうとする巴。音は慌ててその間に顔を出した。

「巴姐、見て。これをいただいたのよ」

 巴はチッと舌打ちをしたが、秀太を追うことはなく音の差し出した品物に目を落とした。それは金粉がふんだんに散りばめられた贅沢な美しい蒔の手鏡だった。

「へえ、上物じゃんか。高く売れそうだな」

 巴が手を伸ばすのを、サッと後ろに隠す。

「何だよ、売らないのかよ?」

「売らない」

 舌を出して逃げる音を巴が追いかける。

「いいじゃんか、俺に売れよ。高く買うぜ」

「駄目よ。売らないの!」

「なんだよ、音ってば最近色づいちゃってさ」

「え、色づく? 私が?」

「ボーッとしたり歌ったりしちゃってさ、乙姫は恋をしてるってもっぱらの噂だぜ」

 音は真っ赤になって硬直した。その肩に巴は腕を回し、こっそりと囁く。

「誰にも言わないからさ、相手を教えろよ。一体どこのどいつに惚れたんだ?」

 でも音の頭は恐慌をきたして反応できずにいた。

 恋? 私が恋? 三郎に? あんな腑抜けに?

「ない! 絶対そんなことないってば!」

 叫んだその時、先程逃げた秀太が戻る。

「巴、お前、出かけなくてよかったのか?」

 その途端、巴は慌てて着物の裾を払った。気付けば巴は今日は随分と女らしい格好をしていた。

「しまった、忘れてた! 秀太、一番速い船で六浦の港まで送ってよ!」

 秀太は頷くと海に向かって歩き出す。

「鎌倉の朝夷奈館に行ってくるよ。今日は三浦の若衆が館に集まる日なんだ」

 頬を紅潮させた巴は手を振ると小走りに駆けて行く。

 巴は来年の結婚が決まっている。相手は三浦義村の甥の胤連だ。胤連はこれから京に行くが、帰ってきたら祝言をあげることになっていた。

 尼御台に貰ったこの鏡は結婚祝いにしようと思っていた。だから本当は見せないで内緒にしておきたかったのに。でもきっと喜んでくれる。

 音はその日が待ち遠しい一方、寂しくもあった。巴は音にとって血は繋がらないけれど家族で恩人で親友だった。

 娘らしい綺麗な着物で駆けて行く巴を、音は羨ましく見送る。

 いつか、自分もあんな風に嫁入りする日が来るんだろうか。

 でも直後、音は首を強く横に振った。駄目、そんなこと考えてはいけない。

『龍女は周りの人間を取り殺すと聞くぞ』

 「乙姫」だと崇められ、三浦の海賊達に大切にされていても音は常に孤独だった。

 音は龍女。周りの人間を取り殺すかもしれない存在。「龍神の祟り」という薄皮に常に守られながら、音は海の波間を孤独に漂っていた。

――アカハナマ……

 音は、今度は念仏ではなく古い唄を口ずさみ始めた。辛い時、寂しい時に歌う唄。

 春の空は薄く煙っている。雨粒を溜めた重い雲が、お陽様の光を厚く遮っていた。

 

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