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腑抜けの三郎―北条重時―26

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 その五月。元服を前に、三郎は鎌倉の北条館に戻っていた。

 十年振りの鎌倉。屋敷には新しい母がいて、腹違いの弟達もいた。三郎が鎌倉で母と過ごした幼年期とはまるで様子が違う。ここにはもう自分の居場所はなかった。

 でもそればかりでなく、館はあまりにしんと静まり三郎はひどく居心地の悪い思いをしていた。それは今月初めに次郎兄が御所で起こした事件が原因だった。

 次郎は元服して北条朝時と名乗っていたが、御所の女官に強引に迫り、将軍の怒りを買って謹慎を命じられていた。今後更に重い罰が下れば、朝時はもう日の当たる所に出られなくなる。

 もしそうなれば、三郎がその代理として諸事に当たらねばならない。僧になりたいという願いは到底受け入れられる状況ではなくなっていた。今の三郎に出来ることと言ったら、朝時に重い罰が下らないようにと祈るばかり。

 

 その日、どんよりと重い空気が漂う北条館を抜け、三郎は浜まで出た。

 幼い頃、母とよく浜辺で貝を拾った。昔の面影を追いながら三郎はのんびりと道を辿る。稲村路と呼ばれるこの細い海沿いの道は、鎌倉と京を結ぶ重要な道。

 その先の稲村の崎を廻れば風景がガラリと変わる。海の向こうに広がる伊豆の半島。その右手には美しく裾を伸ばす富士の山。そして、左手前には海にぽっかりと浮かぶ江島。

「江島……」

 三郎は足を留め、海の上に迫り上がるその島を見た。

 陸に近い右手はなだらかに傾斜している。でも左手の島の奥は断崖になっていて茶色い島肌が見えていた。その辺りが石屋だ。

 あの日、三郎が侵してしまった聖域。その時の記憶はぷつりと途絶えているが、きっとこの上なく恐ろしい思いをしたのだ。思い出したくないのだろう。

 三郎は立ち止まったまま黙って江島を見つめ続けた。

 ずっとここに来ることを畏れていた。取り乱すかもしれないとも思っていた。でも実際に島の姿を目にして、三郎は意外に自分が冷静なことに驚いていた。

 

――ガツガツガツ

 蹄の音高らかに馬が数頭駆けてくる。三郎は慌てて道の端に寄ると頭を下げて道を譲った。

 だが、すぐに行き過ぎると思った隊列が、何故か三郎の目の前で急停止する。

「あれぇ? お前、どこかで見た顔だな」

 野太く馬鹿でかい声に三郎は心臓を縮み上がらせる。

 そろりと目を上げれば、京で牛と格闘していたあの朝夷奈義秀だった。三郎は頭を低く低く下げる。どうか気付かないでくれと祈りながら。でも隣に控えていた男が彼に耳打ちするのが目の端に映った。

 義秀はパンと手を打ち、ずしりと馬から飛び降りる。

「この野郎、京で乙姫を攫ったふてぇ野郎か!」

「さ、攫ってません!」

 義秀の大音声に、三郎は必死で叫び返した。でも顔を上げた三郎の目に映ったのは、にやにやと楽しそうにほくそ笑む義秀の顔。

「なぁんだ、お前、鎌倉の子だったのか。在京御家人の子か。どこの氏族だ?」

 緊張で言葉が出ない。そんな彼を気にせず、義秀はハァとため息をついた。

「実はなぁ、あれから乙姫が病なのよ」

 三郎は驚いて顔を上げる。でも三郎が背を伸ばしても、義秀の腰までしか届かない。

「え、大丈夫なんですか。彼女は今どこに? 祈祷は? お見舞いに行ってもいいですか?」

 背を懸命に伸ばし、息せき切って喋ったら、義秀は一瞬黙った後に突然笑い出した。

「ダーッハッハッハ! こいつ、いいヤツだなぁ! 本当に見舞いに来るつもりかよ?」

 顔を真っ赤に頷くと、義秀はその髭面を三郎の鼻先に近付け、一語ずつ区切って吼えた。

「来るな! 絶対来るな! 来たら殺す!」

 すっかり縮み上がり、ぺしゃんと腰を抜かした三郎に、また爆笑する義秀。

「何、腰抜かしてやがる! 腑抜けめ!」

 笑い声で地面が揺れるようにすら感じる。義秀はぎょろりと目を動かした。

「お前、俺達海賊の守り神、竜宮の乙姫に手ぇ出そうってんじゃねーだろうな?」

「そんなんじゃありません。ただ……」

「ただ? 何だ、おらぁ、言ってみろ!」

「た、玉を預かって貰ってるし、約束したから!」

「あぁ、玉だぁ?」

 仁王像のような目が三郎を射る。三郎は腰を抜かしたまま、その場にひれ伏した。

「ごめんなさい! 僕のせいだ。僕があんな恐ろしい玉を預けてしまったから、彼女は……」

 必死で涙を我慢した。もう元服するんだ。武士になったら親と友が死んだ時しか泣いてはいけないと、そう父は言っていた。

「は? お前、何を言ってるんだ?」

 義秀が首を傾げた時、三郎の後ろから声がかかる。

「よぉ、義秀。相変わらず声が大きいな」

 振り返れば、叔父の北条時房が立っていた。

 

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