法華堂の周りは松明が焚かれ、夜も明るく照らされている。死して龍神となった頼朝公の墓所であるこの寺は特に大切にされていた。
翌日の同じ刻限、二人はその寺の裏の山にいた。
「ごめんなさい」
先に頭を下げたのは音だった。
「ううん。僕こそ……腑抜けでごめん」
頭をかく重時に、音は微かに笑った。
「自分でそう言うの止めなさいよ」
「うん、でも君の言う通りだと思った。だから自分なりに色々考えてみたんだ」
その時、ザワと風が木を揺らす。法華堂を護る松明の火が大きく揺れる。
突風に、護衛の男達が慌てて火を消しに走るのが目の端に映る。音は小さく首を横に振った。
「重時は北条の子だから、もう会うなって秀太が言ってたよ。本当?」
「秀太って、昨日の昼間一緒にいた人?」
無言で頷く音に、重時も小さく頷いた。
「うん、僕は北条義時の三男なんだ」
「私は和田一族の養女みたいなものかな」
それから二人、夜空を見上げる。
「和田と北条は、戦になるかもしれないんだってね。私たち、敵同士になるんだ?」
「そんなの……関係ないよ」
「うん。そうだね」
でも二人、言葉が続かない。ややして音が首からそれを外した。
「玉を返さなきゃって思って」
「僕も小箱を持って来たよ」
交換しようと互いに差し出した所で手がぶつかる。その瞬間、グラリと地面が揺れた。
――パンッ!
何かが破裂するような大きな音がして、直後に玉が強烈な光を放つ。
「重時! また玉が……!」
「言!」
痛いばかりの光。閃光が辺りの闇を切り裂く。死ぬのかもしれないと思う。意識が遠のく。重時は必死で口を開いた。
「聞いて。僕の、僕の志は……」
だが、すべての音は光によって消された。
『吾妻鏡』には残る。
『建暦三年三月十日戌刻。故右大将家法花堂後山有光物。長一丈許。照遠近暫不消云々。』
その光の中、音は幻影を見ていた。
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