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腑抜けの三郎―北条重時―52

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 日付が変わる頃、雨が降り始めた。月が出て雲の影もないのに小雨がぱらぱら降り落ちる。空気が生暖かい。ぴりぴりした何かを含んでいる。

 混乱の鎌倉の町を重時は走っていた。あちこちで鳴り響く矢の音、剣戟の音。血の臭い。重時は生ぬるいその気配に吐き気を催しながら必死で走った。兄の元へ。

 ふと視線を感じて立ち止まる。堀の東側、一人の大男がこちらを見ている。重時はごくりと唾を飲んだ。朝夷奈義秀その人だった。

「よぉ、腑抜け」

 散歩の途中で偶然会ったような気さくさで義秀は重時に対する。彼の周りにはグシャリと潰された肉塊の山。溢れ返る血の臭い。そして義秀の左手には、たった今切り落とされたと思しき生首が血を滴らせていた。

 重時は曖昧に頷いた。口を引き結ぶと覚悟を持って義秀を見据える。その重時を見て義秀は仄かに嬉しそうに笑った。

「オイオイ、鎧を付けてねぇじゃんか。一体どういうつもりだ?」

 重時は直垂姿のままだった。

「僕は戦をしに来たわけじゃないから」

 目を細める義秀。重時は細く息を吐く。

「和田はもう負けだ。北条は敗けない」

 その途端、義秀は笑い出した。

「腑抜けがそんなこと抜かすとはな! そなたは京に逃げたと朝時は言ってたぞ」

「僕は逃げません」

「ほぅ、腑抜けのくせに?」

 重時は首を横に振り、叫んだ。

「朝夷奈殿の志は何ですか!」

 義秀は片眉を上げる。

「あなたは何の為に戦うんですか!」

 眉をひそめ黙って重時を窺う義秀に、重時は拳を強く握りしめて続ける。

「僕は戦いたくない。戦わない。それが僕の志だって決めたから」

 義秀は左手にしていた生首を投げ棄てた。

「腑抜けの志だぁ? ふざけるな。戦う理由は明白だ。武士だからだ。土地を賜る為だ」

「どうして土地を賜りたいんですか!」

「子孫繁栄の為だ」

「でも敗ければ子孫は滅びる。相手を滅ぼせば相手の子孫が滅びる。そんなのおかしい」

 義秀は首を横に振った。血のついた手を擦り合わせる。ぬるりと滑るのを拭い取る。

「それが普通だろ? 何がおかしい」

 義秀は凄んで見せながらも、どこか荒ぶっていた気概が削り取られていくような心地がしていた。こいつの腑抜けの魂が乗り移ってくるかのようだ。冗談じゃない、ここは戦場だと言うのに。

「普通ってなんですか! 普通とは慢心だと思います。もし普通であることにしがみついていたら頼朝公はここまで幕府を大きく出来なかった」

 源頼朝公。確かに常識の通じぬ人だった。子供のように素直で頓着なく、老人のように狡猾で慎重で、頭が良いのに抜けていて、弱いくせに強がって、優しいくせに冷酷にもなった。腑抜けかと思えば剛胆に走り抜けた。

「お前も……変なヤツだ。頭が狂っている」

 言いながら細くゆっくりと息を吐く。抜けた力を溜め直すように。

 それから、ふと親の顔になった。

「乙姫はどこだ? どこに隠した」

「音姫は……」

 言いかけた重時と義秀の足元が、突如グラグラと大きく揺れる。

「地震だ……!」

 遠くで、近くで建物が崩れ落ちる音が届く。山からはガラガラと土砂がなだれを起こす音。鎌倉の町は、天災・人災両方に見舞われ、草創以来最大の危機を迎えていた。

 

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