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腑抜けの三郎―北条重時―54

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 重時は泰時の陣にて、膝をつき懇願していた。

「兄上、もう勝敗は決しました。どうか和田への寛大な処分をお願いします」

 泰時はそっと目を閉じて溜息をついた後に小さく口を開いた。

「重時、お前は京にいる筈。何故ここにいる?」

「戻ったんです。兄上、それよりも……」

 だが、その言葉は奪われる。

「お前の役目は、北条の血を絶やさぬことだった」

 過去にない冷たい兄の声に重時は顔を上げた。泰時は厳しい眼差しで重時を見下ろしていた。

「父は万一の為にお前を京へ送り、血を繋ごうとした。なのに何故その命を破って鎌倉にいる」

 重時はこくりと喉を鳴らした。冷酷なる目。施政者の顔だ。

「自らの役目をきちんと果たせ」

 泰時は傍に控える家人を振り返った。

「重時を縄で拘束し見張れ。外に出さぬよう」

 重時は声をあげようとして、でも口をつぐんだ。自分でも分かっているのだ。どうしようもないと。和田を救う道はもう断たれていた。

 泰時は自らの兜の紐をきつく締め直しながら続けた。

「戦は始める前にほぼ決着がついている。それは準備の周到さによるもの。だがそれとは別に、稀に天命によるものもある。この場合は対処のしようもない。だが天命もその前に導く声があるのだ。正しい者には天が声をかけてくれる。だが少しでも迷いがある者は天の声を聴けない。それが分かれ目だ」

 兄の声には迷いがなかった。

「そして一度始めた戦は迅速に明確な勝敗をつける。それが相手への礼儀であり、その後の施政を正しく導く道理だ」

 

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