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腑抜けの三郎―北条重時―56

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 鎌倉の山に背を向けた。海を見る。海はいつもの通りに優しく広い。空を見る。雲はどこか重く、でもいつもの通りに知らんぷりをして頭上を過ぎていく。

「テメェら、よく聞け! 俺は死なねぇぞ」

 義秀は大音声を上げた。

「逃げてやる! 生き延びたいものは付いて来い。ここを突破する!」

 その瞬間、和田の残兵達の目が光った。命の光だ。それを見た義秀は、突如自分の全身の血が滾り、興奮して沸き立つのを感じた。

 ああ、腑抜け。分かったぞ。俺の志が。

「よぉし、俺様に付いて来い!」

 俺を慕う者達、可愛い手下共、俺はそいつらを引き連れて先頭を行きたかった。頼朝公と同じだ。全ての御家人を愛したあの人のように、俺も愛して守りたかったんだ。

 そうとわかれば、やることは一つ。

「こんな所、尻尾を巻いて逃げてやるさ」

 遠く右手の山々を睨みつける。六浦の港には船。そこまで行けば……。

 その時、浜が歓声と怒号とで揺れた。

「なんだ?」

 義秀が再び海の方を振り返ると、そこには十数艘の大型船が姿を現していた。その船の旗印は、黒丸が七つ染め抜かれた七陽星の和田家紋。

「和田の海賊! ……巴か!」

 先頭の船の上、毘沙門天の如く偉そうに腰に手を当て堂々と立つ巴。その後ろに仁王像のように足を踏ん張らせる秀太。それらの横には観音像のようにひっそりと佇む音。船上には弓をつがえ、槍を構える数多の海賊達。

 義秀は笑った。

「よく来た! 愛してるぜ、娘どもに息子ども!」

 

 だが由比ケ浜は遠浅。大型船は前浜まで寄せられない。

 音は船上から海の色を見る。

「巴姐、まだ行けるよ。このまま進んで」

「でも、もし座礁して転覆したら……」

「湾の東の方は少し深くなってる。それにこれから潮が満ちる時間。もう少しだけなら行ける。私が先導するから!」

「確かに東側の海岸で座礁する船は少ない」

 秀太も頷き巴を見る。今は巴がこの水軍の長だった。巴は海の色と浜との距離、皆の顔を見て覚悟を決めた。声を上げる。

「皆、聞け! 乙姫の指示に従うよ! 一列に連なってゆっくり進め! 小船も全て出せ! 一人でも多くの和田兵を救うんだ!」

 海賊達の閧の声が船上に響く。

「龍神のご加護はこちらにある! 三浦水軍、和田一族の魂を見せてやろう!」

 だがその時、三浦義村の声が響いた。

「弓引け! 一兵たりとも逃がすな! 一艘たりとて安房に向かわせてはならぬ!」

 音を立て、船板を突き刺す数多の矢。

「行け! 行けーーっ! 船に向かえ!」

 退却を呼びかける義秀の上にも無数の矢が降り注ぐ。義秀は砂浜に倒れ込んだ。巴が悲鳴を上げて顔を覆う。その場にへたり込む。音は巴を振り返った。

「巴姐! 船を立て直さないと!」

 叫ぶ間にも船に向かって次々に放たれる矢。このままでは動けない。船の上から浜に目をやった時、一人の男の姿に目が留まった。

 三浦義村。遠くからでもわかる。彼はどこまでも冷静に真っ直ぐ立っていた。ぞくりと背が震える。

 その時、夕方の光の落ちかけた浜で、義村の後ろから横から、明るく不気味に揺れる光が現れた。矢をつがえる武者達。火矢だ。船を燃やして沈め、和田を全て駆逐するつもりなのだと知る。

「巴姐!」

 パンッ!

 音高く、巴の頬を叩く。

「和田軍を全滅させる気? しっかりしろ! 目を閉じるな! 諦めるな! お館ならそう言うはずよ! 巴は和田の姫でしょう! 和田の兵達を見捨てる気?」

 音の声に巴の目が開く。ガタガタと震えながら、でも巴は顔を上げた。それを確認すると音は周囲に目を向ける。水夫達はこの浅瀬での船の舵取りに必死だ。この火矢をどうにかしないと全てが終わってしまう。火矢の指示を送っているのは三浦義村。ならば、その大将の首を取れば火矢は止まるはず。

 音は胸に手を当てた。重時にお守りだと渡された玉。

 お願い、和田を護って……!

 音は天を仰ぎ、強く祈ると海へと飛び込んだ。

 

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