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腑抜けの三郎―北条重時―61

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 そんな中、その京と鎌倉の間にあって、のほほんと無関係を装う男がいた。猫じゃらし片手に猫達の間を歩き回る男、北条重時。
「ほらほら、喧嘩しないの。ご飯はいっぱいあるんだから譲り合えばいいじゃないか」

 重時は一番大きな顔の黒猫を振り返る。
「黒龍、君も何とかしてよ」

 『黒龍』と呼ばれた真っ黒な巨漢猫はちらと重時を見ると、のそりと立ち上がった。太い尻尾を振り回し、少し離れた日当りのいい場所にごろりと横になる。重時は苦笑する。

「あーあ、太々しくなっちゃって。あんなに可愛くて弱々しかったのに」

 黒龍は音の猫だ。和田が滅びたあの日、拘束を解かれた重時が八幡宮の鳥居をくぐった時に顔を出した。随分成長していたが、額に傷ですぐにそれとわかった。音はあの合戦の夜に八幡宮から姿を消したと聞いた。朝夷奈義秀は由比から船で逃げたらしい。きっと和田の残党と一緒に逃げたのだろう。
 重時は黒猫の頭を小突く。黒猫はその頭をごつんと重時の拳に押し当て、こすりつけて甘えるように喉を鳴らした。

「僕と一緒だね。置いてけぼりだ」

 黒龍は重時の後をついてきた。猫は場に居着くと聞くけれど、黒龍は海賊の船であちこち移動して育ったから人に付くのだろう。重時は黒龍を連れて京へ戻った。和歌を詠み、書を楽しんでのんびりと時を過ごす。具親の供としてあらゆる人と会い、交流を深めた。官位は受けず嫁も貰わず、ひたすら公家のように過ごす。執権の三男なのに、とんだ腑抜け者だと人は噂したが気にしなかった。

 だが、そんな重時ののんびりした生活も終わりに近付いていた。具親と関係の深い九条家の三寅が、将軍として鎌倉に下向することとなったからだ。重時は三寅の付き添いで鎌倉に戻らねばならなくなった。

「あーあ、行きたくないなぁ」

 重いため息をついて背を丸める重時。

「猫達は置いて行けよ」

「でも世話出来ますか? 義父上はうっかりしてるから猫の通る戸を開け忘れたりとかしますし、やっぱり僕はここにいた方が……」

「猫の世話の為に残るなど、叱られるぞ」

 重時はもう一度大きなため息をつくと、春に生まれた子猫の背を撫でた。生まれたての頃はこんな風に子猫を撫でさせて貰えなかった。母猫は情が深い。子猫に近付く者は例え飼い主であっても牙を剥いて牽制した。

『母親が子供を迎えに来ないわけないわ。人間と猫は違うのよ。母猫はすっごく子猫を大切にするんだから!』

 音の言葉が甦る。確かに母猫は愛情深い。黒龍の母はどうして迎えに来なかったんだろう? 経産でうっかりしていたとか、何かの事情で攫われたとか? ぼんやりと考えに耽った重時の肘にごつんと何かがぶつかる。振り返れば母猫が昼寝から戻っていた。「どけ」と言われ、重時は場所を譲った。母猫は重時が座っていた所に座ると、子猫達の毛繕いを開始した。猫は一回のお産で四、五匹生む。子育ては大変だなと思いながら重時はその横で母猫と子猫の様子を眺めていた。

「重時はまだ戦いたくないのか?」

 背中からの声に重時は振り返らずに頷く。

「確かに、お前の立場では戦わずに済ますというのは難しいだろうな」

 重時はふと視線を感じて目を上げた。雄猫達が重なり合い昼寝をしている。一匹が重時をゆったりとした目で眺めていた。その耳は切れて半分だった。喧嘩で無くしたのだ。

「男は外で戦わなくてはいけないものだとはわかっているんですが……」

 でも戦いたくない。女に生まれて来れば良かったんだろうか。間違えたんだろうか。

「重時、お前は戦わない為に、戦うべきなのかも知れんな」

 具親の不思議な言葉に重時は身体を起こして具親を振り返った。具親の膝の上には黒龍が丸くなって喉を上に持ち上げていた。その喉を乞われるままに撫で、具親は微笑む。

「猫のように生きてみたらどうだ?」

 首を傾げる重時に、具親は続ける。

「猫は好きなように生きているようで意外と恩を忘れておらぬぞ。それどころか、こんなに義理堅いやつはそうそうおらぬと思う。なかなかの策士だしな。その優しげな愛らしい顔で我らの心を和ませ骨抜きにして、目線一つで『ここを撫でよ』とこき使うのだから」

「それは、敵をも味方にせよと?」

「孟子にある。『天の時は地の利に如かず、地の利は人の和に如かず。道を得る者は助け多く、道を失う者は助け少なし。故に君子は戦わざるを尊ぶも、戦えば必ず勝つ』。猫のような戦い方もあるのではないかな」

 重時はしばらく黙って、何かを思い出すように中空を見た。

「兄が言っていました。正しい者には天が声をかけてくれるけど、迷いがある者は天の声を聴けないって」

 具親はゆっくりと黒龍の頭を撫でている。

「あの時はよくわからなかったけれど、もう少し天の声が聞けていたら、猫のように賢く立ち回ることが出来ていたら、無用な争いは避けられていたのでしょうか?」

「どうかな。過ぎたことはわからぬがな」

 穏やかに答える具親に、重時は「はい」と返事をした。子猫の背骨を指でなぞる。子猫はフニャアと大きく口を開けた。笑う。

「可愛いな。猫は向かう所、敵無しだ」

 だけれど、もう一度だけ愚痴を零す。

「でも僕はやっぱり行きたくないんですよ」

 具親は頷いて笑った。

「いつでも帰って来い。ここはお前の家だ」

 

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